ヒッター伝説玉男
xyZ
第2玉
第2玉 一球入魂
あの夜――店のランキングに「金田玉男」の名が刻まれてから、彼の生活は一変した。
大学の講義は上の空。
サークル活動にも顔を出さなくなり、放課後はほぼ毎日のようにホールへと足を運ぶ。
その眼差しは、かつての退屈そうな大学生のそれではなく、獲物を追う猛禽のように鋭く光っていた。
「玉男、お前……最近、ヤバいくらい伸びてねぇか?」
岡田は呆れと羨望が入り混じった顔でそうつぶやいた。
岡田は慎重派で、釘の状態やイベントの傾向を冷静に読んで立ち回るタイプ。
だが玉男は違った。
直感で台を選び、打ち出せば異様な集中力で当たりを呼び寄せる。
⸻
だが、玉男には他のヒッターとは決定的に異なる点があった。
それは「確変」に突入した瞬間に現れる。
通常時はごく普通の打ち方なのに、確変を引いた途端、彼は目を閉じ、妙な間合いを取り始めるのだ。
「……また始まったよ、玉男の“儀式”」
岡田は苦笑いを浮かべる。
玉男は 一球入魂打法 と呼ばれる独特のスタイルを編み出していた。
ハンドルを握り、玉を「一発ずつ」送り出す。
連射ではなく、まるで矢を一本一本つがえる弓道家のように、間を置いて放つ。
彼は深く息を吸い、静かに吐く。
「……今だ」
小さくつぶやき、玉を一球だけ、そっと弾く。
次の呼吸まで目を閉じ、指先でハンドルをなぞる。
まるで台と会話するかのように。
⸻
最初、他の客たちは笑った。
「バカかよ、そんな打ち方で続くわけないだろ」
「確変はガンガン回すのがセオリーだっての」
だが、その嘲笑はすぐに驚愕へと変わる。
玉男の台は、次々と確変大当たりを引き寄せた。
魚群が流れ、図柄が次々と揃い、歓声のような音がホールに轟く。
ドル箱が右肩上がりに積まれていく。
岡田は唖然とした表情で、友の姿を見つめた。
「……ほんとに玉男、お前、何やってんの?」
玉男は、にやりと笑う。
「全部の玉に、魂を込めてるだけさ。ほら――一球一魂(いっきゅういっこん)って言うだろ?」
「いや、言わねーよ……」
岡田は呆れつつも、目の前の現象を否定できなかった。
⸻
その日も玉男は一球ごとに呼吸を整え、集中し、魂を込める。
台の液晶が脈打つように輝き、まるで応えるかのように大連チャンが続いていった。
やがて閉店間際――
ホールにアナウンスが響き渡る。
『本日の出玉ランキング、1位――金田玉男!』
ホール全体がざわめく。
スタッフも常連客も、最初は彼を変人扱いしていた。
だが今や誰もが認めていた。
「あの学生、ただの運じゃない。何かを持っている」
岡田も苦笑しながら呟いた。
「……マジでお前、化け物かもな」
玉男はランキングボードに映る自分の名前を眺めながら、ゆっくりと拳を握った。
彼の胸の奥では、再びあの熱が燃え上がっていた。
「――これが俺の、バトルスタイルだ」
着実に実力を高め、独自のスタイルを確立した玉男。
本当の激闘は、まだ始まったばかりだった。
ヒッター伝説玉男 xyZ @xyz76tama
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