第六話
ネールの腕の上がり様はとても優秀で目まぐるしかった。あれからほんの僅か数日のことだ。
いつも通り。稽古で手合わせをする。
木刀を合わせて向かい合ったまま、お互い間合いを計らい、しばらく動けなくなる。
なるほど。これは隙がない。彼女がやってきてから二ケ月も経っていないが、一体どういう速度で上達しているというのだろう。
ネールはこう言った。
「師匠……私。ユコック村が襲われてしまったのなら。今すぐにでも、向かいたいんです。」
その声色は静かだったが、とても強い意志でそう告げていることが伝わってきた。
ネールにとって。ノーイ村がすべてだった。そして唯一訪れた経験がある場所こそ、そのユコック村のみだった。つまり世界のすべてと、知る人という知る人の全てを失ってしまった。
今となってはもう、目の間に居る師匠その人のみだった。
ネールの顔色は暗く。そして対象的にどこまでも内側の心は熱くなっていた。
しばらく攻防のフェイントを打ち合っていたが、なるほど、……これは俺は本気になっていると言えるのだろうか?
「疾風切り」
ネールが剣術を操り、技を繰り出した。
振り下ろした剣撃の先から追うように風圧で相手に切りかかる技だ。
受け止めて躱したのだが。
「!!」
なんとその風撃が一か所ではなく、複数個所、しかも無尽蔵な位置から追うように襲い掛かってきた。
これは意表をつかれた。大体の風は読み、受け流したはずたった。
師匠の右肩の一か所に切り傷が刻まれる。
これには驚きを隠せない。
「……見事だな。」
また自分で、新しい技を編み出した様だ。
師匠は、木刀を降ろして告げた。
「ネール。魔獣討伐に旅立つ日の、日程を整えよう。」
「師匠……!」
ネールは無我夢中だった為、はっと我に返り、師匠に言われた意味を理解し息を飲んだ。
「それだけの腕があれば、問題なく魔獣は倒せる。」
師匠は、何も楽観視をしていない。
むしろ、念入りに厳密に。もしもネールに万が一の事がないようにしらみつぶしに徹底的に戦闘術のいろはを教え込んできた。
ここまでの集中力と攻撃が繰り出せるのであれば、想像より楽に倒せるのではないだろうか?
「はい!……明日にでも、向かいたいです!ありがとうございます!」
ネールは歓喜し、心の底から感謝の言葉を述べた。
「ネール……その実力なら、魔獣討伐だけじゃない。その腕を買って、たくさんの仕事が舞い込むだろう。おまえが、こんな風に奉公人のマネなんかして、誰かに媚びを売るような態度で生きる必要もない。」
師匠の瞳は厳格に満ちていて、淡々とこちらへ告げる言葉をネールは黙って聞いた。
「ネール。寂しくなるが。これでお別れだな。」
「師匠……。」
ネールは唖然とした。これから先、魔獣を倒した後のことなんか、考えてもいなかった。
いや。師匠の弟子として魔獣を討伐した後は……当然ここに戻ってくるものだとすっかり思い込んでいたのだ。
他の所に行くなんて、考えられない。しかしそれは浅はかな子供の考えだと制されるかのように、師匠の瞳は厳しく、こちらを突き放すように語っていて、何も言い返す言葉がでてこなかった。
また、夕暮れには早く、時間が空いた。
――ネールに教えることは教え尽くした。修行はもう終わった。
会話でもすればいいのに、どこかネールに素っ気ない態度をとってしまっている。
優しい言葉のひとつでもかけてしまうと、ネールがどういう態度をとってくるかわかっているからだ。
俺ももう完全にネールが欲しくなっていた。
もし肩なんか叩いて、こちらの胸に手でも添えられたら、もはや足の間の渇望が反応しない時はない。
先日影干していた木の実で油でも搾ろうと取りに行くと、そこには壺を持ったネールが立っていた。
「師匠、油、搾っておきましたよ。」
「ああ、丁度油を搾ろうとしていたところなんだ。」
すっかりと生活の息がぴったり合っている。
ネールは師匠の役に立つことを心底喜んだ。
まるで、ネールがこのまま一緒にいることが当たり前で、ネールがまるで、自分の物だとでも思うような欲望をくすぐってくる。そんな笑みをこちらに見せて来る。
そしてそれに、……本能が心底悦んでいることを、どういうことか考えなくちゃいけない。
……違う、ネールの人生の経験は浅い。
ネールは俺以外の人間のより所が、もうなくなっているだけだ。
……気が、おかしくなっているんだ。
夜になり。
師匠はいつも通り温泉に浸かっていた。
湯の中に分け立つ様に位置する岩の向こうに、ネールが入ってきたらしい。
師匠は欲望を抱いていた。
そしてその通りのままに、ネールがこちらにやってくるのが見えた。
「ネール……。」
まるでネールとは考えてることが頭が繋がっているようで、頭が白ばんでくる。
「師匠……。あの……そろそろ奉仕をさせてくださいませんか?」
タオルを一枚胸元から垂らして体を隠すように持って近づいてきたネールを、もはや拒む心が沸いてこなかった。
「(そろそろ……?そろそろってなんだ……?)」
ネールは師匠の目の前で、自分の身体を全てを晒け出し、そして受け入れた師匠の体の内側に潜り込み、タオルで師匠の身体を拭き始めた。
「(ああ……師匠……師匠も、良い身体……していますね。)」
隙のないその振る舞いと同じく、引き締まった師匠のその身体にネールはうっとりと頬を染めた。
師匠はもう遠慮することをやめて完全に欲望を渇望する息を喘いでる。その息がかかるのをネールは身体で感じた。
「師匠……。」
ネールは水位の下に隠れ見えない師匠の下腹部に、咄嗟に手を伸ばしてその固いものに触れて掴みこんだ。
「これ……師匠のですか……?!師匠!!」
「ネール……、……。」
どうしても、やめろという言葉が出てこない。代わりに情けなく理性がからっぽになってしまった情欲の喘ぎ声で答えてしまう。
「師匠……私おかしくなったみたいです……」
ネールは恥じらい一切なく、愛おしそうに師匠の物を掴みこんで離さない。
「師匠……そこに座ってください。……。」
「(……駄目だ、ああ俺もそろそろおかしくなりたくなってきた……。)」
※ ※ ※
師匠は小屋の外で風に当たりながら、森の方を見つめていた。
――だめだ。治まらねぇじゃねぇか。
さっき一度果てたにも関わらず、さっきの感触がなまめかしくまとわりついている。
「(……。くそ。ネールのやつ。あんなことしてきやがって。)」
一度冷静になろうと思って離れたはずが胸の鼓動とその下の脈動に秘める衝動になんも意味をなさない。
ネールは師匠が戻ってこないので、竈で湯を沸かし、お気に入りの茶を入れていた。
この間採取してきて乾燥させたばかりの質の良い香草の茶だった。この恵は全部が師匠の知恵により教えてもらったものだった。
しかし、師匠が戻ってこないので、入れたそれも冷めてきた。
「師匠……あっ」
ようやく小屋に戻ってきた師匠を見て、その様子を理解して口を噤んでしまった。下衣越しのその場所に目を奪われた。
「ネール……、……構わないんだな?」
「は。はい……!!」
ネールは師匠が、抱いてくれる悦びで、茶のことを忘れて言葉を失った。
師匠は竈の横の床にネールを押し倒し、ずっと堪えていた情欲を解放してあまりに興奮していたせいかちょっと乱暴だった。
ネールは抗えない逞しい力を感じさせられて、興奮させられた。
「(……好きなようにって……どうすれば。)」
ずっと頭にこだましていた欲望をこじ開けて来た言葉を何度も思い返して止まない。
「っ……あっ……」
思わず足を引っ掴んでしまい、その力も乱暴だったが、どうやらそれがなんか良かったらしい。
ネールは太ももまで細くて師匠の大きめな手で握れてしまう。肌は白く、広げた足の間も、どこまでも綺麗だった。
なめらかな肌に、自分との稽古でできた傷痕も全部確認した。
遠慮なく、ネールの身体の魅力を堪能して本能がままに眺め、そして自分が楽しむためにその感触を確かめた。
普段は厳格であったはずのその師匠の興奮と衝動がままの行動と、荒い吐息を感じさせられ、またネールも感じていた。
「……はァッ……気持ちイイ……」
「……あ……師匠ッ……」
局部と局部を合わせて、ネールの身体が自分の形に合わせて開いていく。最高だった。
「(く。嫁をもらうつもりはなかったんだがな……。)」
根元まで入り込むと既に射精感が込み上げて来ていた。
「あっ……!師匠……師匠……ッ!」
ネールが感じているのか痛がっているのかわからない声をあげていたが情欲が高まりすぎて余計に興奮した。
「ネール……、俺の名はザナックだ。そう呼べ。……嫁にしてやる。」
「は、はい!……ザナックさん……ッ……ザナックッ……ザナックッ……!!」
ネールはザナックから激しく突かれながら痙攣し、ザナックが抱いてくれた嬉しさをことを全身で表わしている。
ネールがあまりにも悦びすぎてて、ザナックのもあまり長く持たない。
「ネール……」
一番奥深くでキュッと締め付けて来るネールの体内で果てた。
掻いた汗と息の喘ぎが止まらない中、恍惚とした意識の中でネールの身体を思いっきり抱きしめた。
「(はーっ……最高によかった……。)」
※ ※ ※
朝になり。小屋の外に出ると、ネールはどうやら早起きのようで、すでに修行着に着替えて外で一人での訓練に励んでいた。
いつも通りだった。早く魔獣を打ち取りたい熱い想いがそうさせるのであろう。
「ネール……身体の調子は大丈夫か?」
「おはようございます。ばっちりですよ。師匠。」
ネールの瞳は凛々しくて逞しかった。
目を合わせたネールの顔色には少し艶がある気がしてドキッとさせられた。
何故だろう、その瞳を見ていると、昨日の行いで妊娠をさせてしまったのではないかという気がした。
「――そうか」
旅立つ前に、最後になるであろう軽い手合わせを行った。
ネールの瞳は自信に満ちていた。
「疾風切り」
振り下ろされた木刀の先から生ずる風の刃は、そのまま木々をなぎ倒してしまいそうな勢いだった。
ネールの繰り出す技の威力は増している。
なるほど好調そうだ。問題ない。
「森羅絶切」
師匠の方も、技を繰り出さねば止められない程の威力になっている。
その風の衝撃波を、目にも映らぬ素早い剣裁きで、切り伏せて散らせた。
「……!」
ネールは師匠の使った技が自分の目に映ることすらなかった事に唖然とした。
どうやらまだまだ、師匠は本気を見せていないのだということを知らしめられた。
――そして、昨日掴んだらしい技を、物にするべく教え込んだ。師匠としての最後の務めが終わった。
日持ちする乾パンなどの食を作り、これから七日程掛けて向かう場所への旅路の支度もバッチリ整えた。
ネールの意気揚々と爛々とした瞳がもう何も心配はいらないという顔をしていた。
師匠とネールは向き合って。別れの挨拶をした。
「師匠、――あなたの弟子として恥じぬように。必ず魔獣を討伐してきます。」
「ネール。もしもの時は。異変を感じた時は、まずまっさきに自分の安全を確保して逃げるんだ。熱くなりすぎるな。」
「はい、師匠――!」
まるで昨日のことなどなかったかのようにいつも通りの師弟としての会話しかしていない。
もう、これで別れの時が来た。
なかなか言い出せず、照れくさくなりながら、昨日言ったことをもう一度言っておこうと思った。
「ネール……戻ってきたら、もうお前は弟子じゃない、……師匠と呼ぶのはそれが最後だ。」
ネールはあっと呆けた顔を浮かべて、少し考えて笑顔で答えた。
「はい……御主人様。」
「……ザナックと呼んでくれないか。」
※ ※ ※
~あとがき & イラスト~
https://kakuyomu.jp/users/Yellow32/news/16818792439024405424
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