クズ勇者追放?その後。

茶電子素

その後……。

玉座の間に、重苦しい沈黙が落ちていた。

勇者リオンは鎖をかけられ自由を奪われている。

国王の前、跪きながらも彼は笑っていた。


「勇者リオン。お前は仲間を裏切り禁忌の魔術に手を出し魔王と通じていた。

よって、勇者の称号を剥奪し追放する」


宣告が響き渡ると、周囲の貴族たちは険しい顔を向ける。

慈愛の聖女ミリアは唇を噛み、戦士ガルドは拳を握り締めた。

事ここに至っては彼を庇う者など誰一人としていなかったのだ。


リオンはゆっくり立ち上がり、鎖を引きずりながら扉の外へ歩く。

その背に、ここにいる全ての人間の冷たい視線を感じながら。


それから数か月後、

魔王軍が東の砦を奇襲したという報せが入り国中が混乱に陥った。

だが現場には魔王軍の兵士の死骸と、黒く焼け焦げた大地が広がるばかり。


「……これは禁忌魔術の痕跡では」

ガルドが呟くと、ミリアの顔色が変わる。

あの禁忌魔術……確かに彼しか使えないはずのもの。


さらに、魔王の側近が持っていた密書が解析されると、

信じがたい事実が浮かび上がった。


リオンは魔王と通じてなどおらず、

むしろ魔王軍の潜伏部隊を一人で壊滅させていた。


彼が仲間を置いて行動していたのも、魔族の密偵の目を欺くため。

禁忌魔術を使ったのも、日々追いつめられる民を守るための苦渋の選択。

すべては国と仲間を救うためであった。


ミリアはその夜、砦の一室で声を殺して泣いた。

断罪の、あの日、リオンは確かに笑っていた。あれは開き直りなどでは無く


『自分が悪者を演じて追放されれば縛りなく行動できる。一刻でも早く、

この苦しみから人々を救うことができるかもしれない』


という安堵の笑みだったのだ。


「ごめん……ごめんなさい、リオン……」


外ではガルドが剣を叩きつける音が響いていた……

仲間たちの胸に焼き付いたのは、後悔と罪悪感。

そして、もう二度と会えないかもしれない背中だった。


あれから幾度目かの冬のある日、

やせ細りズタボロになった独りの男が雪の中横たわっていた。


やれるだけのことはやった。

魔王に匹敵するともいわれた最後の四天王も倒した。

新たに選ばれた勇者、ガルド、ミリア……

『後はあいつらで上手くやってくれるさ……』


誰に見守られることもなく安らかなる眠りについた男は

あの日と同じ穏やかな笑みを浮かべているのであった。

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クズ勇者追放?その後。 茶電子素 @unitarte

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