異世界ヒッチハイク 1話完結
うめつきおちゃ
異世界ヒッチハイク
「おぉーい!おぉーい!」
「ん?……何が聞こえたような気がするが、……なんだあれ?……こんな場所に……人?」
「気づいてもらって良かったぁ。このまま何日も歩き通しを覚悟していたから助かりました……。もしよかったら乗せてもらえませんか?」
「……アンタ、人間だよな?……なにがあったらこんな場所で人間が散歩してるんだ?」
「いえいえ、散歩じゃないですよ!その、……敵を追っていたらこんな場所まで逃げられちゃって……」
「だからと言って《魔王領》の、山頂まで追っかけるか普通?……怪しいな」
「勘弁して下さい。怪しくなんてないですよ。……そうだ!これを見て貰えばっ」
「――ちょっ!なんだアンタ?!いきなり武器なんか出して、新手の盗賊か?!」
「……あ、すみません。そういうつもりはなかったんだけどなぁ……。あの、この剣みてわかりませんか?」
「……やめろ!俺には死んだ弟の家族を養うっていう責任があるんだ!」
「それはご愁傷様なんですけど、……その、誤解を解いてもらいたいので、その目を開けていただけませんか?」
「誤解?!こんな人気のないところで剣を脱いたアンタに、なんの誤解をするっていうんだ!?」
「これは、《勇者の剣》なんですよ」
「…………………………はあ???」
「あの、この紋章に見覚えは……?」
「…………ほ、本当か?」
「ええ、間違いなく本物です。もし偽造なんてしたら、えっと、国家反逆罪でしたっけ?」
「いや、法律には詳しくないから分からないけど……」
「僕もそうなんですよ。……この話はやめましょう。とにかく!僕には害意がありません。もしあったなら、アナタが目を瞑った瞬間に切り掛かってましたよ」
「……たしかに」
「そうなんです。――ちなみに言うと、僕は《魔王軍四天王》最後の一人を追ってここまできました」
「魔王軍?」
「ああ、またそんな疑うような目を……。勇者の剣、魔王軍四天王、たしかに怪しいかもしれませんが、全て本当なんです」
「……たしか、現在の勇者は異世界から来た『異世界転移者』とやらが任命されたと聞いたことがある。……黒髪黒目の地味な」
「……それが僕です。はい……」
「にわかには信じ難いが……、まぁこんなところであったのも何かの縁だ。アンタの目的地までってわけには行かないが、《人間領》までは運んでやるよ」
「ありがとうごさいます!良かったぁ、《龍運運送》のドラゴンがちょうど通りかかって……」
「……《聖都》セントホイルンドまでの間にアンタの目的地があったらそこまでは乗せてってやるけど、どこが拠点なんだい?」
「え?!聖都が配達先なんですか?!やった!最高だ!」
「おいおい、アンタまさか聖都が拠点なのか?」
「いえ、すぐ近くの《ガルナ町》という町を拠点にしています」
「そんな町があったのか?聖都には何回か行ってるけど知らなかったな」
「ガルナ町は若い女の子しかいない小さな町なので、あまり有名じゃないかもしれないですね」
「………………、なにがあったらそんな町を拠点にするんだ?」
「……さあ?なんか、流れで」
「アンタ、結構嫌われるタイプだな」
「ええ?!また、僕なんかやっちゃいました?」
「とりあえず乗りな。人を乗せることを想定してないから狭いし汚いけど、我慢してくれ」
「え?!隣でいいんですか?僕は積荷側でも平気ですよ?」
「そりゃ無理だ。後ろは限界いっぱいまで積んでて、崩れる可能性があるから開けるのすら困難なんだよ」
「そ、そんなに積んでるんですか?」
「ああ、龍運はコストが尋常じゃなくかかるからな。一度に大量の荷物を運ばないと赤字になるんだ。――もし新たな運送方法が確立したら消える職業さ……」
「……では、お言葉に甘えて、お隣失礼します」
「ああ、……じゃあ飛ぶけど、離陸の時が一番揺れ――って寝てる!?」
「ぐごおおおお、ごおおお」
「龍のイビキより五月蝿い……。ミスったな、乗せなきゃ良かった」
「ぐ…………はっ!?ここはどこ?!アナタは誰?!」
「……おいおい落ち着け、今は空の上だ。暴れると大変なことになるぞ?」
「空?!……あ、そうか。……僕は四天王との戦いで疲弊して、魔力を使い切って……」
「四天王との戦いねぇ。アンタが寝てる間に思いついたんだが、……たしか魔王様との戦いって、勇者が単独で挑むんじゃなくて、『魔王軍対策部隊』とかそんな名前の軍隊が動いてるんじゃなかったか?」
「はっ、ははっ、……やめてください。腹筋が痛い……」
「ん?……何か変なこと言ったか?」
「『魔王軍対策部隊』なんてプロパガンダですよ」
「プロ……?なんて?」
「……あの部隊は、貴族のおぼっちゃま達に箔をつけるだけの、――張子の虎なんです」
「……アンタが異世界人ってのは本当みたいだな。悪いが何言ってるかよくわからん」
「簡単な話ですよ。実際は『勇者が単独で旅をして、魔王軍とやりあってる』、ただそれだけの話です」
「そ、そうなのか?じゃあ対策部隊とやらは……?」
「各々の領土で遊んでいることでしょう」
「なんだよそれ……」
「市民は知らないですからね。僕が魔王を倒し、この世界から元の世界に戻れば、その功績は全て彼らのものになります」
「……アンタはそれでいいのか?」
「いいですよ。それを黙っておく代わりに、大金と土地、そして身分のない女性を頂いていますから」
「……下衆だな」
「……?何か言いました?突風で聞こえなくて」
「いや、……なんか嫌な話だなぁと思っただけさ。――それより、もしその話が本当なら『最初の四天王』を倒したのは、アンタなのかい?」
「……うーん、そうですね。正直、最初の四天王戦は結構前だし、僕がこちらに来て日が浅かったのであまり覚えてないんですよ。なんだか苦戦した気もするけど」
「毒使いだよ。こう、身体の自由を奪う毒を得意とした魔族の……」
「ああ、そうでしたね。苦戦するはずだ!あの時はまだ解毒魔法を覚えていなくて、チートスキルのみで倒したんだった」
「……今は、解毒魔法を?」
「ええ、アレを倒してすぐ学びました。《成長速度制限突破》というスキルがあるので、すぐに覚えられましたよ」
「じゃあ、――毒は弱点じゃないのか」
「そうですね。……今は、最後の四天王に魔力を底まで使ったので、解毒魔法が使えないですけど。普段なら毒は効きません」
「……ほう。――なぁ、喉乾かないか?こうやって飛んでると、俺なんかは、すぐに口の中が渇いちまうんだ」
「んん、確かにそうですね。……水魔法で飲み水を召喚します――って、だめだ。魔力がまだ回復してない?!……はぁ、治癒魔法を使いすぎたなぁ」
「安心しろ。俺はプロだからな、そんな時のための備えもきちんとあるんだ」
「これは、……飴?」
「ああ、龍の抜け落ちた鱗を使った飴だ」
「ま、不味そう……」
「味はまぁ、……褒められたもんじゃないが――」
「――いただきます」
「凄い度胸?!……知らない相手から渡されたもんをよく口にできるな」
「うわ、まずっ、不味い!不味いけどめっちゃ唾液が出てくる?!」
「そうなんだよ。不思議だよなぁ」
「………………不味いけど、喉の渇きはなくなりました。ごちそうさまです」
「そりゃ良かった。お、そろそろ着くぞ?」
「……あれ?この辺だとまだ遠くないですか?」
「そうか?……アンタの町はこの辺じゃねーのか?」
「え?!聖都に行くんじゃ……?」
「いや、せっかくこうして知り合ったし、どうせだからアンタの町で降ろしてやるよ。聖都にいくのはその後でも問題ないさ」
「なんか悪いですねぇ」
「若いんだから、そんなこと気にすんなよ」
「そんなに歳変わらないでしょ?……でもまぁ、お言葉に甘えさせてもらいます」
「おう。で、どこに行けばいい?」
「もう少し西の方にお願いします。三十分くらい飛べば見えるはずです」
「西に三十分?!結構離れてるじゃねーか」
「あ、すみません。普段は移動魔法でひとっ飛びなので……」
「移動魔法も使えるのか……、バケモンだな」
「あ、見えました!あの風車があるところです」
「川も流れてて湖もあって、畑もある。凄いな、むちゃくちゃいい場所じゃないか」
「はい。全部僕の魔法で整備したんですよ。代わりにどっかの村が水不足になったり、不作になったりしたらしいですけど、まぁ仕方ないっすよね」
「……よし、いい子だ」
「賢いドラゴンですね!すごく静かな着地だ」
「ああ、そうなんだよ。……降りる時、気をつけろよ?浮遊感がすごくて慣れないと転んだり――」
「――うわっ?!」
「言わんこっちゃない」
「あてて……、まぁ魔力が戻ったら治癒魔法で直しますよ」
「ああ、そうか、だから注意力が足りないんだな」
「ん?……なんかバカにしました?」
「ああ、したよ。……お前はバカだよ」
「は?……僕を、下に……見……たな…………」
「おっ、とうとう呂律が回らなくなったな。そいつはさっきの毒が効いてきた証拠だ。久しぶりにやったけど上手くいってよかった」
「……ど、……く?」
「飴だよ、飴。アレは俺の特性毒飴だ。どうだい?魔王軍四天王が一人、『疫毒のハリー』を弟に持つ俺の毒の威力は?」
「……な、……ん……」
「何言ってるかわからん。もういい、黙って死んでくれ。……ちっ、連絡魔法なんて普段使わないから呪文を忘れちまった。…………あー、俺だ。ハリーの兄だ。――聞いて驚け、今俺は『勇者を殺した』。魔王様にそう伝えてくれ。詳細は――積み荷を下ろしたら伝えに行く」
「お前が、疫毒のハリーが兄か?」
「はい、魔王様、お初にお目にかかります」
「で?どうやって倒した?」
「ええ、それがですね。勇者のやつ、《張子の虎》でございました」
終わり。
異世界ヒッチハイク 1話完結 うめつきおちゃ @umetsuki_ocya
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