真夏の夜の夢

🐉東雲 晴加🏔️

真夏の夜 貴方の声を聞かせて






 深夜と言ってもいい時間帯なのに、まだ熱気の消えない温度の外からカランカランとドアベルを鳴らして店内に入るとひんやりとした空気が流れてきた。


 間接照明で薄暗い店内の中央には舞台があり、それを囲むようにテーブルが置かれて皆が思い思いに食事を楽しんでいる。


 舞台ではスポットライトに照らされて、若い青年のバンドがしっとりとしたバラードを歌い上げていた。


 今しがた入ってきた客は食事のテーブルにはつかず、バーカウンターの方に座り酒を注文する。バーテンダーはにこやかに客の注文を請け負うと流れるような動作で注文の酒を用意した。


「やぁ、彼らいい声だね。『カクテル』だったかい? バンド名は」


 受け取ったアルコールを口に一口含みながら舞台の方に目と耳を傾ける。バーテンダーは頷きながら客に訪ねた。


「……お客様、こちらのお店は初めてですか?」

「そうだよ。帰省する時いつも一緒になる顔馴染に教えてもらったんだ。帰る前に一杯やれるいい店があるって」

「左様でしたか。それはようこそ。彼らは毎年この日にうちの店で演奏してくれているんです。お客様の評判も上々ですよ」


 四人組のバンド『カクテル』は若手ながらアップテンポの曲もしっとりしたバラードの曲も歌い上げる実力派のバンドだ。バーカウンターで酒を楽しむ客もテレビで彼らの演奏を聞いたことがあった。今彼らは切ない恋の歌を感情豊かに歌い上げている。テレビのモニター越しに観ていた時も上手いとは思っていたが、実際に今こうして聞いてみるとより心に滲みた。


「うん……いい歌だね」


 客は酒をもうひとくち口に含んでゆっくりと楽しむように嚥下した。


「実はね、今日妻の元気がなくてね。このままあちらに帰るのも後髪が引かれる思いだったんだが……。彼らの歌を聞いたらなんだか元気が出たよ。『カクテル』か。幾つもの音が混ざりあって一つになって……聞いた者を酔わせてくれる。うん……素敵なバンドだ」


 もう少し早く彼らの歌を知っていればよかったな、と呟く客にバーテンダーは微笑んだ。


「彼らは毎年この時期にここに来てくれます。今度は是非奥様といらして下さい」


 客は残りの酒を飲み干すと有難うと席を立った。


「……妻と来るのはもう少し先になると思うけれど、そうだな、いつか二人で寄らせてもらうよ」


 客は笑うと、バーテンダーに小さく会釈して店を出ていった。


「有難うございました」


 バーテンダーは深々とお辞儀をすると客の後ろ姿を見送った。そしてまだ舞台上で演奏を続ける彼らに目を向ける。


「……良かった。貴方達の歌はまだ、人を元気にする力があるようですよ」


 彼らにここで演奏をしないかと声をかけた時、そうすることに何の意味があるんだと絶望の顔で下を向いていた彼ら。それでも今はこの店に来た人の心の癒しになっている。


「いつかきっと届きますよ。貴方達の声が」


 バーテンダーは小さく呟くと次の客を迎え入れるためにグラスの準備をするのだった。





 ……夜が明けて、またいつもの日常が戻ってくる。




「このお店、いつ潰れたんだっけ」


 ちょっと不気味だよねー、と廃墟のレストランの前を女性が通る。


「もう10年以上は前じゃない? 取り壊されないのが不思議だよね。なんかさ、この時期になると夜な夜な店の中から音楽が聞こえてくるらしいよ」

「ちょっと!! やめてよね! しゃれにならない!」


 怖ー!! と言って二人は足早に去っていった。




 夏の夜だけに開くレストランは、いつか貴方を待っている。



❖おしまい❖


 2025.8.14 了

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 ❖あとがき❖


 概要にも書きましたが、こちらの作品は三つのお題を使って1時間で作品を書く……と言う企画の元書きました。


 最近作品を書けてなかったから良い訓練になりましたー(*´ω`*)


 かかった時間は大体45分くらい。10分くらいで頭の中で設定やなんとなくの話の流れを決めて、あとは書きながら考えて書いてました。


 1時間しかないと迷っているヒマがないですね(^_^;)


 お題が割とイメージのしやすい物だったことと、ちょうど時期が時期だったので安直ですがお盆で帰ってきた人が集うレストランのお話にしてみました。


 文の中の小さな違和感に気がついてもらえたかなー。


 1時間しかないので遂行等は全くしておりません。よって文章が荒いのはご容赦下さいませ(笑)



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真夏の夜の夢 🐉東雲 晴加🏔️ @shinonome-h

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