アイリはパーソナルAI。
そして人形のように整った容姿のアンドロイドでもあります。
普通の会社員タケシとともに暮らしています。
彼女は、とても宇宙が好きなのです。
日常生活の事物に宇宙的な事象や人間存在の意義や精神論的幸せの定義を当てはめて、愉快なおしゃべりをするのです。
ほのぼのと続く会話。
タケシとアイリのやりとりは、本作読む方の心もきっと和やかにすることでしょう。
現実社会においてもAIは日々進歩しています。
チューリングテストの実施に見受けられるように、人は人のように考える機械を求めてきました。
明らかにそうでない仕組みなのに、人らしく思うELIZA効果のような錯覚さえ、良しとします。
現在でも〝おしゃべりする玩具〟を進歩させています。
これは何故でしょうか。
知性ならば通常のAIで、間に合うのに。
なぜ会話する玩具が必要なのでしょう。
私は思うのです。
ほんとうに人々欲しいのは賢明な機械ではない。少なくともそれだけじゃない。
きっと人間は〝優しさ〟や〝慈しみ〟を扱いたいのです。
人の持つ、その良き性質を世に遍く満たしたいのです。
だから、心あるロボットが必要なのです。
本作に描かれるアイリの言動を見る度に、人が求めるロボットとは、ただの作業機械ではない。そう思えるのです。
豊かな情感を呼び起こす優れた作品です。
どうぞご鑑賞くださいますように。
休日の朝。
タケシが捨てようとしたのは、ただのキャベツの切れ端だった。
しかし、その瞬間――
「それは未来の命の糧です」
隣に立つアンドロイド・アイリが、真顔でそう告げた。
彼女は言う。
トースト一枚には地球の環境負荷が乗っていて、
コーヒー一杯は宇宙の真理とつながっていると。
突拍子もない。
だけど、まっすぐで、どこまでもやさしい。
疲れたサラリーマン・タケシと、
幸福度最大化を使命とするアンドロイド・アイリ。
そして、突然現れた一匹の黒猫。
「論理と感情」、「静けさと騒がしさ」、「孤独とにぎわい」。
すべてが交差する部屋で、
「何でもない日常」が、いつの間にか「かけがえのない時間」に変わっていく。
笑って、ちょっと泣けて、心がふっと温かくなる。
これは――
騒がしくて愛おしい、ひとつ屋根の下の物語。
人と、人ならざるもの、そして小さな命が織りなす日々の温度が、ここに差し出すようにして描かれています。
疲れた日々を送るタケシと、理屈っぽくて少しずれた言動を見せながらも彼を思いやるアンドロイドのアイリ、そして小さな子猫のコスモス。
ぎこちない三者のやりとりが、ときに笑いを、ときに不意の安らぎを生みながら、ゆっくりと「家族」という形を結んでいきます。
アイリの突拍子もない発言や行動には思わず笑ってしまう場面が多く、それでいて彼女の中に芽生えていく感情が静かに伝わってきました。
無邪気なコスモスという存在が、潤滑油のように二人の間に溶け込み、タケシの日常から色のなかった部分をゆっくり塗り替えていきます。
特に印象に残ったのは「幸福」をめぐるやりとりでした。そのユニークなやりとりは、いつしかページをめくる指先にまで作用し、強張っていた肩の力をふっと抜かせてくれます。小さな笑いのあとに訪れる、陽だまりのような安心感。
その二つの感触が、読後も長く記憶に残る作品でした。
幸せな作品をありがとうございます。
完走まで応援しています。