檻の中からの手紙

杜隯いろり

C

私たちは、生きていると思っている。

それは、そう思うように形作られてきたから。


私たちがみて、きいて、かんじる世界は、この世界そのものではない。


言葉にしてしまったその時から。

捉えてしまったその時から。

それは私たちの知る姿へと変わってしまう。


これは、よくある話。


では一度、目を閉じて、耳を塞いで。

言葉によって捉えない世界そのもの。

これを原像としよう。


そして目を開き、耳を澄ませる。

粒の塊に反射した全ての光と、

べたべたとまとわりつく粒を揺らす波が、

目を、鼓膜を通じて脳に響く。


これではただの景色である。

そして私たちは洗練された脳によって、

この世界を「解釈」する。


私たちの感覚器官と脳という機構は、

「私たち」への写像なのである。


ここまではいいだろうか。


そして、一見ささやかに見えるかもしれないが景色を「解釈」するとは、実は尋常でない偉業である。


ただ映し出されただけの平面的な景色が、私たちの中で、一つの世界として空間的な広がりを持つのだから。


私がこれを積分と呼んだとしよう。

多少の横暴はどうか赦してほしい。


私たちは奥行きを知っていても、

その限界を知ることはない。

だからこれは必然的に不定積分だ。


私たちはは本来似たような目と、耳と、

鼻と、頭を持つはずだ。

それなのに、私たちの心はどうしようもなく遠い。


私たちは永遠に、愛し合い、殺し合い、呪い合う。


そんな私とあなたの違いを表す言葉。

それが積分定数なのではないだろうか。




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檻の中からの手紙 杜隯いろり @m_irori

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