第15話 二次創作原作 宮園沙耶 前編
あれは小学生の頃。
放課後のグラウンドで、サッカーボールを蹴り返す佐伯くんの姿を、私はフェンス越しに見ていた。
泥だらけになっても笑っているその顔が、なぜだか眩しくて
──それが私の初恋だった。
同じ班になったときは、わざと彼の得意な図工の課題を相談した。
真剣な横顔に見惚れながら、「私、この人の隣にいたい」と子供ながらに思った。
でも、家の事情で転校し、会わない時間が長くなった。
それでも、彼にふさわしい自分になりたいと努力を続けた。
歌やダンスを習い、姿勢を正し、笑顔を練習した。
その結果、高校に上がる頃には芸能事務所から声がかかり、私はアイドルとしてデビューすることになった。
◇
そして高校で再び彼と再会した。
私は地方の仕事の合間に、やっと通えるようになった学園で彼を見つけた。
背は伸び、女子からの人気は凄まじく、休み時間の廊下はいつも人だかり。
やっぱり、魅力的だった。
遠い存在になってしまったようで少し寂しかったが、それでも諦めなかった。
撮影終わりや授業の合間に会話を重ね、距離を縮めようとした。
──卒業式の前日。
勇気を振り絞って、彼に伝えた。
「好きです。付き合ってください」
少しの沈黙のあと、返ってきたのは静かな拒絶だった。
「ごめん、好きな人がいる。キミの気持ちには応えられない」
その夜は、布団の中で声を殺して泣いた。
でも、私は笑って送り出すしかなかった。
◇
卒業後も私はアイドルを続けた。
スポットライトの下、笑顔を浮かべ、ファンの歓声を浴びる日々。
──だが、輝きの裏側には影があった。
人気順位の発表で順位が上がるたび、陰口が増えた。
衣装が隠されたり、
立ち位置を勝手に入れ替えられたり、
マイク音量を下げられることもあった。
「沙耶は調子に乗ってる」と陰で囁かれ、距離を置かれる。
そして、ある頃から特定のファンが私を執拗に追いかけるようになった。
握手会後の駅のホームで待たれたり、楽屋口で帰り道を塞がれたりする。
マンションのポストには差出人不明の写真や手紙が詰め込まれ、
ドアノブにはリボンが巻きつけられていた。
スタッフに訴えても「人気の証拠だよ」と軽く笑われるだけ。
グループの子たちはそんな私からさらに距離を取り、
楽屋の空気は冷たくなった。
グループチャットは私抜きで作られ、
急なスケジュール変更も私だけ知らされない。
家に帰っても、カーテン越しに視線を感じる夜が続いた。
外に出るのが怖くなり、眠れないまま朝を迎える日が増えた。
光り輝くはずの世界は、いつしか私を削る檻に変わっていた。
限界は、ある日ふいにやってきた。
イベント帰り、
マンションに帰った私は家でテレビを観ていた。
私の出演する番組がちょうど帰った時にやっていたからだ。
すると、、
私の部屋のドアから変な音が聞こえた。
誰かがこじ開けようとする音だ。
私は、テレビ消してドアのレンズを見る。
ドアをこじ開けようとする男の正体は
ファンの男性だった。
一度、私たちのグループのファンとして
テレビにも出演したことのある人だった。
男の顔は
笑っているのに目だけが冷たい。
体が凍りつき、声も出なかった。
その夜、心細さに耐えきれず、スマホを握りしめた。
──最後にすがったのは、佐伯くんだった。
「……助けてほしい」
しかし、返ってきたのは乾いた声だった。
「僕だって大変なんだ」
それだけ告げられ、通話は切れた。
耳に残る無機質な通話終了音とともに、何かが胸の奥で音を立てて折れた。
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