第16話 二次創作原作
その日も撮影現場は慌ただしかった。
セットのライトが肌を焼くように照りつけ、スタッフの声が飛び交う中、私は笑顔を貼り付けて歌っていた。
──ステージの上では、完璧な宮園沙耶を演じる。それが、私の仕事だ。
休憩時間、控室に戻ると、
衣装が見当たらなかった。
「ごめーん、間違えて別の部屋に置いちゃった」
軽い口調で謝ったのは、同じグループの先輩メンバー。
笑いながらスマホをいじるその目の奥に、
どこか冷たい光があったことに、
なぜあの時気づかなかったんだろう。
案内されたのは、普段は使わない予備の更衣室。
そこは照明が弱く、廊下のざわめきから切り離されたように静かだった。
ドアを開けた瞬間、
空気の密度が変わった気がした。
背後でカチリとドアが閉まる音。
振り向くと
──そこには、見覚えのある男。
しつこく後をつけていた“熱心なファン”が、
笑みを浮かべて立っていた。
足がすくむ。
声を出そうとしても、
喉が固まったように動かない。
男が近づくたび、視界が揺れ、呼吸が浅くなる。
その瞬間、
背中に冷たい壁が触れ、
逃げ道が消えた。
衣装の布地が床に滑り落ちる音だけが、
やけに鮮明に耳に残った。
◇
どれだけの時間が経ったのか分からない。
楽屋に戻った時には、
心も体も別の場所に置き去りにされたように、
空っぽだった。
口紅を塗り直す手が震える。
鏡に映るのは、
笑顔を作ることさえ忘れた、見知らぬ顔。
「大丈夫?」と聞くスタッフの声に、
私は笑って頷いた。
──大丈夫じゃないことは、
自分が一番よく分かっていたのに。
その夜、スマホを握りしめたまま、私は何度もある番号を呼び出しかけた。
けれど画面に映る名前を見て、指は止まる。
数ヵ月前、助けを求めた私を冷たく突き放し、
「僕だって大変なんだ」と吐き捨てた彼
── 佐伯 悠真
彼のことが今も胸の奥で凍りついた棘のように残っていた。
それからの日々は、ひたすら耐えるだけだった。
仕事をすれば笑顔を作り、
終われば部屋にこもって呼吸を整える。
メンバーたちの陰口や、
小さな嫌がらせは日に日に増えていった。
そして突然の吐き気や下腹部の違和感などに悩まされることが増えていった。
私はもう限界に近かった。
誰にも言えない。
言えば、またあの時みたいに突き放される。
なら、いっそ全部──。
◇
気がつけば、夜の街を歩いていた。
行く先など考えていなかったのに、足は勝手に高い場所を目指していた。
ビルの非常階段を一段ずつ登るたび、世界の音が薄れていく。
屋上の柵に手をかけると、金属の冷たさが掌に伝わった。
下を覗けば、街の灯りが滲んで揺れている。
ここから飛び降りれば、痛みも不安も全部終わる。
拒絶されるのが怖くて連絡できなかった彼にも
一つメッセージを送る
◆
私は、やっと楽になれる。
その前にあなたに復讐を果たす。
私はアナタのせいで死ぬんだからね。
じゃあね。佐伯くん
◆
僕は、送られてきたメッセージを観た。
最初、訳がわからなかった。
付けっぱなしにしていたテレビのニュースで
飛び降り事件の報道をしていた。
未だ身元は、わからない。
わかっていることは遺体は二十代前半の女性のものであること
そして、妊娠していた事だけだ。
僕は、部屋の電気を消して
ベットに戻る。
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