うちの同居人、ちまくて可愛すぎる

白昼夢茶々猫

うちの同居人、声がでなくなったらしい

ある朝、起きてリビングにいったら同居人の持田ほのかが用意してくれた朝ごはんの前にちょこんと座って、謎のボードを膝に乗っけていた。


「おはよ~、ほの」


声をかけると珍しく返事がない。ただ、


「ん!」


と持っていたホワイトボードを掲げてきた。どっから引っ張り出してきたんやそれ。

なになに……。


『おはようです、凪咲。恐らくクーラーで喉を痛めちゃいました。今日はこれで会話します』

「まじ? 大丈夫なの?」


そう聞けば、元気よくグーサインが返ってきた。大丈夫ではあるらしい。

持田ほのか。身長149.8cm。これでも成人済み。もっちりとしたつやすべ頬っぺたがチャームポイントでくりくりした黒目がちの大きな目がかわいい。

あたし、桜庭凪咲の同居人であり、主にほのには家事を担当してもらっている。あたしは会社で働いているので。

ほのは小説家をしているらしい。暇では決してないらしいが、家にいることが多いので家事を担当してもらっている。代わりに家賃と光熱費は折半じゃなくて、あたし:ほので8:2だ。食費はすべてあたし。


「大丈夫ならいいけどさ……」


いただきます、と手を合わせてほのが用意してくれた朝ごはんを食べる。

折角なら出来立てのうちに食べてしまいたい。

ほのもあたしも、朝食にはご飯かパンかといったこだわりは特にない。だから週四日と三日のように平等に出てくることが多い。

今日の献立は和食らしい。お茶碗に白米、お椀にほうれん草の味噌汁、それから四角い皿の上に焼き塩じゃけと卵焼き、それからなんとも器用に整形された猫耳を生やした大根おろしが乗っていた。まじどうやってんのこれ。


「んっ!」


先程より弾んだ『ん』がとんできた。なにごと。


『見て見て、ハチワレちゃんです』


そう言うほのの皿の上を見れば、これまた器用に片耳ずつに醤油をたらされたハチワレ猫大根おろしが鎮座していた。

満面の笑みで醤油さしを持ってほのが待っている。ああうん、それじゃ醤油足りないもんね。


「ふはっ、かわいいじゃん」


うん、ほの可愛いな。

あたしが吹き出したのに満足したのか、醬油を適量までかけていくほの。

あたしはといえば、口に運んだ卵焼きの美味しさを堪能していた。甘いものが好きなあたしとほの。当然卵焼きも甘いやつだ。この砂糖加減が実にちょうどいい。


「今日の卵焼きも美味しい~」


そう微笑めば、ほのは声は出さないものの満面の笑顔で体を左右に揺らす。喉を痛めたとはいえ、その分、感情をちゃんと動作で表してくれるんだから本当にほのは可愛い。



「ほの、大丈夫そうだけど具合が悪くなってきたらちゃんと連絡するんだよ? クーラーの可能性が高いけど、夏風邪の前兆って可能性もあるんだからね?」


皿洗いを手伝い、スーツに着替えて玄関に立ったあたしは、しつこく何度もほのに確認をしていた。


『わかってるよ。ほら、遅刻しちゃう』


いい加減にしろと、とうとうボードに書かれてしまった。

しょうがない、心配だけど仕事は勝手に休ませてくれはしない。しかも今日は外せない予定が入っちゃってる。ちぇ。


「じゃあ、いってきます」

「ん!」


『いってらっしゃい』と書かれたボードが元気よく振られているのを見たあたしは渋々ながらも足を会社へと向けた。

ほのが可愛いのはいいんだけど、いつも言ってくれるほのの可愛い、いってらっしゃいがないと一日仕事を頑張る気力がでない気がする。

……何より寂しい。

よし、今日はほのの好きなピーチ味ののど飴でも買って帰ろう。



「た、ただいまぁ……」


一日中働いてへろへろになったあたしは、文字通りへろへろの声でドアの鍵を開ける。鍵のがちゃんという回る音とともに、なんだかばたばたと足音のようなものがドアの奥から聞こえた気がした。

ドアを開けたその瞬間に『おかえり!』と書かれたボードが目に入った。

自然と落ちていた視線をあげれば、満面の笑みのほのが立っていた。

すぐにきゅっきゅっと音を立てて、何かを書き足したかと思えば、こちらに見せてくる。


『今日は遠くからおかえりって言えないからお出迎えだよ』


「……! ほの~!!!」


可愛い。なんだこの可愛い生物。

声という可愛い成分が一つなくなってもこの可愛さ。可愛さがカンストしてる。


「はい、ほのにおみやげ」


帰りにスーパーによって買ってきたのど飴をほのに渡す。もちろん味はピーチ味。


『ありがとう!』


というボードがすぐさまこちらに向けられた。

うん、やっぱりほのの声が聞きたいや。早く喉治してね、ほの。

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うちの同居人、ちまくて可愛すぎる 白昼夢茶々猫 @hiruneko22

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