開くの禁止!

羽間慧

開くの禁止!

 この作品は、宇部松清さまの「初級異世界(新婚?)生活のすゝめ~目指せ、嫌われ精霊召喚士様(♂)との円満離婚?!〜」


 https://kakuyomu.jp/works/16817330664500298613


 の二次創作になります。ネタバレを含んでおりますので、未読の方は本編を先に読まれてくださいませ。


 原作者さまと、続きが読みたい同志さまに捧げます。





 □■□■




 ハイスペックな僕は、時間を無駄にしたくない。

 すぐに戦闘を終わらせたいから、一度に複数の精霊を呼び出して同時攻撃をさせる。早く家に帰りたいから、往復六時間を超える依頼は受けたくない。当然だろう。スロウ・ポートグリフが最初に受ける依頼はちまちまとした採取ではなく、ドラゴン討伐などの超上級ハイクラス以外ありえない。


 なのに、僕の精霊はいつからか言うことを聞かなくなった。むしろ、命令を聞くのは僕の方だと言わんばかりに反発する。かろうじて召喚に応じてくれるのは、炎と風の精霊の二体だけ。この僕に使役されている名誉だけでは物足りないなんて、随分わがままじゃないか。圧倒的な実力を見せつけるだけで「スロウ・ポートグリフの扱う精霊はすごい」と世界中に知らしめることができるのに。


 バディ制度で窓口が勝手に組んだ転移者も、凡人のくせに僕のために働こうとしない。いつも依頼を受ける前に去っていく。たった三時間前は「武器屋で装備を整えるのは、駆け出しの冒険者の憧れだ」と喜んでいたくせに。


 次のバディには愛想なんて振りまくものか。固く決意した僕の前に現れた凡人こそが、スロウ・ポートグリフと結ばれた世界で一番幸せな夫の称号を勝ち取ったのだった。




「すげえ。全然防具が防具の役割できてないじゃん」


 街ですれ違ったエルフの女剣士に、僕の隣を歩いていた男は鼻を伸ばす。彼の名は、オークボ・タイガ。僕を「お前」呼ばわりした初めての転移者であり、しきたりを知らないまま僕を娶った夫でもある。

 美しい僕がそばにいるというのに、相変わらず女性に目がないらしい。寛大な心で許している妻に感謝してほしいものだ。


「軽量化でへそや胸元が見えるようになっているが、着用さえしていれば半径三十メートルまではダメージを回避できるんだ。ああいうデザインが好みなら、妻として願いを叶えてやらなくもない」

「誰がお前に着せるかっ! くそっ! せっかく目の保養になったのに、変な妄想が入り込んだじゃねーか!」


 失礼な。柔らかく細い腕、美女にも引けを取らない脚。僕のプロポーションを持ってすれば、踊り子の衣装を着て潜入することもたやすいだろう。


 頭を抱えるタイガは愉快だった。初夜で僕に手を出さなかった紳士も、三ヶ月目になれば可愛い顔を見せるようになるものなのか。


 ほくそ笑んでいると、タイガは水と雷の精霊に話しかけていた。


「スロウの指に静電気を流してもらえないかな?」

「待て。タイガ、あいつらをそんなことに使うのはやめてや……ひゃあああっ!」


 僕の指にビリッと痛みが走る。その拍子に持っていたカバンが落ちた。

 タイガに快く力を貸せるのなら、少しぐらい僕とも話したってバチは当たらないと思うぞ。


 路上に散らばった荷物をソヨが拾ってくれるわけもなく、僕はいそいそとかき集めた。


「何だ? この折り紙は。花……?」


 タイガの拾った折り紙は、葉っぱがついた花の形になっていた。水色と緑の二枚の折り紙を使われ、ヤパの花を模しているのが一目で分かる。


「俺が折ったやつじゃないな。どうやって折ったんだ?」

「やめろ。無理やり開かないでくれ!」


 何枚も駄目にして、ようやく納得のいくものができたんだ。うまく復元する技術がない人に触れられてたまるか。


「スロウが折ったのか? 俺の折り紙でいつの間にこんなものを」

「言っておくが、勝手に作ったわけではないからな。許可を出したのはお前だぞ。『一緒に寝るのが暑くなってきたから、せめて寝具だけでも涼しくしたい。冷たくできそうなアイテムを具現化できるような形を考えてくれ』と」

「ばっ! 街中だぞ。声の大きさを考えろ。俺らはただのバディだからな。一緒に寝てるけど、やましい意味はこれっぽっちもないからなー!」


 僕の何倍も出しているタイガには言われたくはない。誰にアピールしているんだか。

 困った。献身的な妻が作った芸術品に感動した夫が、情緒を乱してしまった。冷静にさせなくては。


「この僕が考えた天才的な折り方を、早く知りたいだろう? 僕が直々に伝授してやらんこともないぞ」


 ありがたく思うがいい。


「いや。分解したら何となく分かった」

「よくも僕の作品を壊したな!」


 折り目がついた紙をひらひらと振るタイガは、やっぱり何割かオークの血を受け継いでいる気がする。


「飯屋で綺麗に折ったやつをあげるから、機嫌を直してくれ。そんなに気に入っていたなんて知らなかった」

「……絶対だぞ」


 許すかどうかは、タイガが作ってくれたものを見て決める。下手だったら承知しないからな。

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開くの禁止! 羽間慧 @hazamakei

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