太陽のマジック

ヤマシタ アキヒロ

太陽のマジック

すべては太陽のせい?


すべては夏の光が眩しかったから?


高校二年の夏休み、まだ受験シーズンが始まらないうちに、私は江ノ島の中腹にある見晴し茶屋で、夏季だけのバイトをすることにした。老夫婦が細々といとなむ、行楽客目あての小さな食堂だ。


毎朝、大船にある自宅からモノレールに乗り、終点で降りて陸橋を渡る。そして汗をふきふき徒歩で急な坂道を登る。けっこうな距離だが、私はその往復じたいを楽しんだ。17才の夏は今しかない。青春を謳歌するのだ。


おかげで日焼けした肌はこんがりと小麦色になった。もともと色白ではないので、日焼けは気にしなかった。学校でもモテたためしはなく、彼氏ももちろんいない。化粧もしたことがない。一度だけ友達に「目がパッチリしてていいなぁ」と言われたことがあるが、特に嬉しくもなかった。


そんな取るに足りない私を、見晴し茶屋の老夫婦はとても重宝がってくれた。私は知り合いがいないのをいいことに「いらっしゃいませ!」と元気なキャラを遠慮なく演じた。


八月に入ったある日、大学生と思しき男子三人組がお店に入って来た。短パンサンダル穿きで、かき氷の冷たさに大騒ぎしながら海を眺めていたが、その中の一人がときどき私の方をチラチラと見ているのに気付いた。


手持ち無沙汰の私は、空いた器を下げるため彼らのテーブルに近寄り、食器を片付けながらなぜかニッコリと微笑んだ。こんな表情が出来ることに自分でも驚いた。きっと開放的な気分のせいであろう。


ところがビックリしたのは、その、私を見ていた一人が、なんと次の日も、ほぼ同じ時間にお店にやって来たのだ。「あれ?」「こんにちは」―――彼は白い歯を見せた。温かいものが胸に湧き上がった。


それからは自然の成り行きで、彼に誘われ、私たちは何度かデートを重ねた。江ノ島水族館に行ったり、由比ガ浜を散歩したり、お決まりのデートコースを辿った。私もいつか彼の屈託のない笑顔に惹かれるようになり、また彼の目に映る私も、きっと一番輝いている私だったであろう。


しかし、トキメキはそう長くは続かなかった。


夏休みも終わり、元の学生生活に戻った私は、もはや小麦色の夏の少女ではなくなっていた。彼の方も、せわしなく日常を語るその言葉遣いに、あの日見た精彩はなかった。


そして、ごくごく自然に、太陽が西に沈むように、夏に始まった恋は、夏が終わる前に消えた。涙が一すじ流れた。


眩しい太陽はきっと、お互いの一番いい部分を、多少の潤色を添えて、マジックのように見せてくれたのであろう。そのことに感謝しこそすれ、決して恨みを抱くべきではない。


高校二年の夏、私は人並みの喜びと悲しみを味わった。


いまはただ、等身大の私を包んでくれる、やわらかな秋の日差しが恋しい。


                            (了)

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