煙草の好みは、シガレットよりも。

雷師ヒロ

本編

 辺りは断続的な銃声と砲の着弾音で充満している。


 首をすくめて迷路のような塹壕ざんごうを進み、辿たどり着いた場所には先客がいた。


「マッチ持ってるか?」


 投げ出されたスコップをまたぎ、男のそばに寄る。

 男がくわえた紙巻き煙草シガレットの先端に、ともした火を近づけてやった。


「つまんねえよなあ」


 マッチの炎を吸い込んだ男は、口の端から紫煙しえんをはみ出させてニヒルに笑う。


「戦争がですか?」


「ちっげえよ、そんな規模デケェ話は将校にでも考えさせとけ。——こいつだよこいつ」


 男がその指に挟んだ煙草を強調する。

 せっかく一服の手伝いをしたというのに、男は大層不満げな表情だ。


「すぐ吸えて手軽なのはいいんだけどさあ……。俺はじっくりと育てるように手をかけるパイプの方が好きなんだわ」


「そうですか」


「まあ、こういう時は、便利、だけど……な」


 男の手が重力に逆らえなくなり落ちていく。

 同時に傾いた体を支え、ゆっくりと横たわらせた。



 近づく銃声にはっとし、その場を急いで離れる。


 しばらく走り、土壁を背にして座り込むと、男を支えた際に服に染みついた煙草の香りが鼻にのぼった。



 彼の指先からこぼれた紙巻き煙草シガレットは、もう燃え尽きただろうか。

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煙草の好みは、シガレットよりも。 雷師ヒロ @raishi16

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