【童話】みおとゆいのへんしん大作戦 ~はだかんぼうは最強なの!~

藍埜佑(あいのたすく)

みおとゆいのへんしん大作戦 ~はだかんぼうは最強なの!~

 おふろに入るまえ、わたしたちにはとても大切なお仕事がある。


 それは服をぬぐお仕事だ。


 「みおちゃん、いっしょにへんしんしよう!」

 「うん! ゆいちゃんも!」


 わたしたちは双子の姉妹。

 みおとゆい。

 今日もおふろのまえの大切なお仕事の時間がやってきた。


 まずくつしたをぬぐ。


 「せーの」

 「はい!」


 ふたりで同時にくつしたをぬぐと、わたしたちは「くつしたをはいていないわたしたち」になる。さっきまでのわたしたちとはちょっとちがう。レベルがひとつあがった感じだ。


 「みお、足のゆびがくにくにうごくよ」

 「ほんとだ! ゆいも見て見て、こんなふうに」


 ふたりで足のゆびをひらひらとうごかしながらくすくすわらう。これですあしキックのじゅんびかんりょうだ。


 つぎにズボンをぬぐ。


 「あれ、みお、いっぽんあしで立てない」

 「だめだよゆい、手をつないで」


 手をつないでよろよろしながらズボンをぬぐと、わたしたちは「パンツいっちょうのわたしたち」になった。これはかなりつよい。


 「今度はかいじゅうをやっつけられるかな」

 「うん! でもかいじゅうが泣いちゃったらかわいそう」

 「じゃあなかよしになろう」


 そんなことをはなしながら、ふたりでにんじゃみたいにくるくるまわる。お部屋がくるくるまわって見える。


 そしてパンツをぬぐ。わたしたちはついに「はだかんぼうのわたしたち」になった。これがさいきょうのけいたいだ。


 「わあー、つよくなったー!」

 「まおうさんもたおせるよね」

 「でもまおうさんにも、お友だちがほしいかもしれないよ」

 「そうだね。いっしょにあそんであげよう」


 うでを大きくふりまわして、ゴリラさんのようにむねをぺたぺたとたたく。でもわたしたちはやさしいはだかんぼうなのだ。だれかをきずつけたりはしない。


 でもここで、わたしたちはいつもかんがえる。


 ぬがれた服たちはどうなるんだろう。


 「ゆい、おようふくたち、あたしたちがお風呂にはいってるあいだになにしてるかな」

 「きっとぼうけんしてるよ」


 そうだ。もしかしたらわたしたちがおふろに入っているあいだに、ぬぎっぱなしの服たちがむくりとおきあがって、かってにぼうけんにでかけているかもしれない。


 「おーい、いくぞズボンたち!」とみおのくつしたがいう。

 「まってよシャツたち! ぼくたち、うらがえしなんだもん!」とゆいのくつしたがいう。

 「おねえちゃんたち、おいていかないで!」とふたりのパンツがいう。


 みおのくつしたのみぎあしがリーダーだ。でもゆいのくつしたのひだりあしがふくリーダー。ふたりでそうだんしながら、せんたくカゴのけわしい山をのぼるけいかくをたてる。


 「こっちの道はきけんですよ」

 「じゃあこっちの道にしましょう」

 「手をつないでいきましょうね」


 かれらはきょうりょくしてゆげがもうもうとたちこめるおふろ場のジャングルをぬけて、まだ見ぬしんたいりくせんたっきをめざすのだ。


 とちゅうでハンガーのもりでピクニックをしたり、タオルのかわでおよいだり、そうじきのどうくつでかくれんぼをしたりする。そしてあさになると、なかよく手をつないでかえってきて、ぺたんとゆかにたおれてわたしたちをまっているのだ。


 「おかえりなさい、おようふくたち」

 「たのしいぼうけんだった?」


 あるいはこうかもしれない。ぬがれた服たちは本当は、それぞれがわたしたちのぶんしんなのかもしれない。


 「今日のみおちゃんは、おえかきで手がよごれちゃったね」と、みおのシャツがいう。

 「ゆいちゃんはこうえんでころんで、ひざのところがちょっとよごれちゃった」と、ゆいのズボンがいう。

 「でもふたりとも、今日もたくさんあそんでえらかったね」と、くつしたたちがほめてくれる。


 みんなそれぞれのばしょで、それぞれのやくめを一生けんめいはたしてくれたんだ。えらいぞ、服たち。えらいぞ、今日までのわたしたち。


 でも本当はこうなんじゃないかな。


 わたしたちが服をぬぐということは、「服をきているわたしたち」がそこにふたりのこるということだ。それはわたしたちのぬけがらみたいなものだ。


 今ごろリビングでは、「シャツをきてズボンをはいてくつしたもはいているみおとゆい」が、いつものようにソファにすわってテレビを見ているのかもしれない。そしてお母さんに、こういわれている。


 「みおちゃん、ゆいちゃん、はやくおふろ入っちゃいなさい!」


 もうわたしたちおふろにはいっているのにね!


 「ぬけがらのわたしたちがおこられてるのかな」

 「本当のわたしたちはだいじょうび」

 「あしたはぬけがらのわたしたちも、もっとはやくおふろにきてもらおうね」


 おふろのあたたかいゆげがわたしたちをつつむ。


 「はだかんぼうのわたしたち」もここまでだ。これからわたしたちは「おふろに入っているわたしたち」になる。これはたぶんむてきのけいたいだ。


 「みお、にんぎょひめになったきぶん」

 「わたしも! しっぽが見えないけど」

 「見えないしっぽでおよごうか」


 ゆぶねに足を入れる。

 「あつっ!」

 「でもきもちい!」


 ふたりでいっしょにゆぶねに入っていく。からだが「あったかいわたしたち」にへんしんしていく。


 おゆのなかでわたしたちは手をつないですわる。


 「ゆい、このおふろ、本当はうみかもしれないよ」

 「ほんとに? おさかなさんいるかな」

 「いるいる、シャンプーおさかなとせっけんクラゲ」


 いきをとめてあたままでゆぶねにもぐる。


 「しんかいたんけんたい、しゅっぱつ!」

 「みっけた! たからもののあわ!」


 あたまをあげていきつぎをする。


 「すごいぼうけんだったね」

 「またあしたもうみになるかな」

 「きっとなるよ、わたしたちのそうぞうりょくがあるから」


 シャンプーの時間がやってきた。


 「みお、わたしのかみあらって」

 「うん、ゆいもみおのをあらってね」


 おたがいのかみにシャンプーをつけて、もくもくとあわをつくる。


 「わあ、みお、アフロヘアーみたい」

 「ゆいはひつじさんみたい」

 「めえめえ」

 「あはは、かわいい」


 かがみを見ると、ふたりともサンタクロースみたいなしろいひげができている。


 「あわのじょおうさまになったね」

 「ふたりでなかよくくにをおさめましょう」


 あわのおうこくでは、みんなあわでできている。あわのけらいたちが「あわのじょおうさまたち、今日のおしろはとてもきれいでございます」とほうこくしてくれる。


 「みんなでおちゃかいをしましょう」

 「あわのケーキもありますよ」


 でもじょおうさまのお仕事はたいへんだ。かみのけというこくどをすみずみまできれいにしなければならない。わたしたちはていねいにおたがいのシャンプーをあらいながす。


 「さようなら、あわのおうこく」

 「またあしたもあそびにきてね」


 からだもいっしょにあらう。


 「せなかあらいっこしよう」

 「くすぐったーい」

 「でもきもちいいね」


 おふろからあがる時がやってきた。


 「みお、もうちょっと入ってたい」

 「でもお母さんがしんぱいするよ」

 「うーん、お母さん、しょーがないなー」


 ゆぶねからでると、からだからゆげがたちあがる。


 「わあ、ゆげにんげんになった」

 「ふたりでくもみたい」

 「手をつないでそらをとべるかな」

 「ためしてみる?」


 でもやっぱりこわいから、あしはゆかにつけたまま。ゆげにんげんはいがいとしんちょうなのだ。


 からだをふく時間だ。


 「おおきなタオルでふたりいっしょにふこう」

 「おくるみあかちゃんみたい」


 おおきなタオルにふたりでくるまって、「タオルでふかふかのわたしたち」になる。これもなかなかつよいけいたいだ。タオルのまほうで、どんなよごれもわるいまほうもぜんぶすいとってもらえる。なにしろお母さんがせんたくして干してくれたふかふかタオルなのだ。


 だついじょにもどると、服たちがまっている。


 「おかえりなさい、おようふくたち」

 「今日はどんなぼうけんをしてたの?」


 ぼうけんからかえってきた服たちは、ちょっとつかれているみたいだけど、めをかがやかせて今日のぼうけんのはなしをしたがっている。


 「わたしたち、今日はせんたくバサミのむらでお友だちをつくったの」とくつしたたちがいう。

 「ぼくたちはそうじきのどうくつでたからさがしをしたよ」とズボンたちがじまんする。


 でも本当は、かれらはずっとここで、わたしたちのかえりをまっていてくれたのだ。


 パジャマをきる時間だ。これもまた大切なお仕事。


 「どっちのパジャマにする?」

 「今日はピンクときいろ!」

 「おそろいじゃないけど、いろがきれい」


 まずパジャマのズボンをはく。すると「パジャマのズボンをはいているわたしたち」になる。これはひるまのわたしたちとはぜんぜんちがう。よるのわたしたちだ。


 「よるのわたしたちは、ひるのわたしたちよりもちょっとしずかだね」

 「でもちょっとやさしいきもちになる」


 つぎにパジャマのうえをきる。これで「パジャマすがたのわたしたち」のかんせいだ。


 「これはねむりのまほうつかいのいしょうかな」

 「このかっこうでベッドに入ると、きっとすてきなゆめが見られるよ」


 くつしたははかない。


 「あしがじゆうだと、ゆめのなかでそらをとびやすいから」

 「くものうえもぺたぺたあるけるしね」


 お部屋にもどりながら、わたしたちははなす。


 「今日いちにちで、なんかいへんしんしたかな」

 「あさおきたときの『ねおきのわたしたち』からはじまって」

 「『服をきたわたしたち』『ようちえんにいくわたしたち』」

 「『お友だちとあそぶわたしたち』『おやつをたべるわたしたち』」

 「『おふろに入るわたしたち』そして『パジャマのわたしたち』」


 あしたはまた、どんなわたしたちになるんだろう。


 ベッドに入りながらかんがえる。


 「みお、こんやねむっているあいだに『ねむっているわたしたち』がぼうけんするかな」

 「するする! ゆめのくにで、ゆめのどうぶつさんたちとあそぶの」

 「くものうえでかくれんぼしたり、おほしさまとおしゃべりしたり」

 「まほうもおぼえられるかもしれない」


 そしてあさになったら、また新しいいちにちがはじまる。また新しいへんしんの時間だ。


 だから今日のところは、。それが今のわたしたちのいちばん大事なお仕事なんだから。


 まくらにあたまをのせると、今日ぬいだ服たちのことをおもいだす。


 「服たちも、あしたのぼうけんのじゅんびをしてるのかな」

 「きっとしてるよ。わたしたちといっしょにすてきないちにちにしようって」


 「おやすみ、服たち」

 「おやすみ、今日のわたしたち」

 「そして、おやすみ、あしたのわたしたち」


 手をつないでベッドに入る。


 「みお、いいゆめみようね」

 「うん、ゆいも。いっしょにいいゆめを見よう」


 今夜も、きっとすてきなゆめが見られるはずだ。だって双子のわたしたちなら、ゆめのなかでもいっしょにぼうけんできるから。

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【童話】みおとゆいのへんしん大作戦 ~はだかんぼうは最強なの!~ 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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