雑貨屋、その後
ミナが王宮に入ったあと、小さな雑貨屋は一時閉店していた。
──が、ほどなくして再開された。
経営を引き継いだのは、あの妹・サラ。
最初こそ「なんで私がこんな地味な仕事……」と文句ばかりだったが、
ミナからの支援と、最低限の経理指導を受け、しぶしぶ経営に乗り出すことに。
彼女なりに努力し──
たまにレジを間違えたり、値札を貼り忘れたりするものの──
ギルに叱られつつ、今日も何とか店は回っている。
とはいえ、サラの真の目的は「お姉ちゃんの代わりに王子様と会えるかも」という淡い期待だった。
事実、ミナの婚礼後、店には若い女性たちが「レオン様って、ここにいたのよねぇ〜♡」と押しかけることが時折あった。
そこで考えた。
「……ギル、ちょっとこの王子の服着て、あんたが“レオン”って名乗ってみてよ。騙せるって」
「え、俺が?」
「どうせ顔は見たことない人ばっかなんだから、いけるいける!」
半ば無理やり王子っぽい服を着せられたギルは、渋々対応することに。
「……わ、私は、レオニールだ(棒)」
結果──全員にドン引きされ、静かに店を後にされた。
中には金を払って「もう二度と来ません」と言い残した客もいたらしい。
「……ギル、あんたほんと演技ダメね」
「そもそもお前の計画が無理あるんだよ……」
それでも、なんだかんだで毎日ケンカしつつ、二人は店を守っている。
時折、王宮から贈り物が届く。ミナからだ。
贅沢品ではない。洗剤や布や、お店で使う実用品ばかり。
「……ほんっと、お姉ちゃんてば。余計なお世話なんだから」
そう口では言いながらも、届いた箱を開けるサラの表情は、どこか穏やかだった。
雑貨屋は今日も、街の片隅で小さく、けれどたしかに息づいている。
野に咲く花と隠された秘密 @007NYASU
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