第24話 単身赴任へ(最終話)

 純玲と家族での対話を終えて、古田探偵事務所を訪ねた。椿弁護士、万里江さんも

話を聞いてくれた。

「妻とは離婚せずに、家族に対して、今回、判明した過ちを償ってもらうことになりました。」

「そうなると思っていました。」

3人は、穏やかな顔で、俺の決断を支持してくれた。

「あの、どうして奥さんは、携帯を処分せずに、クローゼットに置いておいたんでしょう。見つかればバレる可能性があるのに。」

万里江さんが、つぶやいた。

「それは・・・・・。」


「純玲、なぜクローゼットにあの携帯を置いておいたのか教えてくれないか。」

純玲は、遠くを見つめ15年前を思い出すように話し始めた。

「私は、あの男と関係を持ち、あなたと家族を裏切った。罪悪感にさいなまれた。でも、自分からあなたに話す勇気はなかった。話せばあなたを傷つけ、家族を不幸にするから。でも、黙って隠し続けるのも辛かった。だから、不貞の証拠になる携帯をあそこに残した。私の罪をどう裁くか、運命に決めてもらおうと。見つかれば私は、罰を受ける運命、見つからなければ一生消えぬ罪悪感を抱いて生き続ける運命。弱い私はそうして逃げた。」

「でも、あなたを傷つけてしまったけれど、見つけてもらってよかった・・・。」

純玲は、また、静かに涙を流した。


「そうだったのか・・それで携帯を。」

銀行の食堂で浜島とテーブルをはさんでいた。

「かみさん、お前と純玲さんがやり直すと聞いて、喜んでた。」

「亜希さんにも、今度お礼しなくちゃいけないな。」

「おう、お前のおごりだぞ。若菜さんも呼んでな。」

「分かった。ほとぼりが冷めた頃な。」

俺と浜島は、カレーを口に放り込んだ。

「広島へは、いつ行くんだ。」

「2月の最終週だ。」

「単身赴任か?」

「そうだ。」

「大丈夫か?」

「ああ、今はLIMEもZOONもある。俺も毎週帰るつもりだし、帰れない週は、純玲と子どもたちが来てくれることにした。あの時の間違いは繰り返さない。」

「そうだな。」


あの携帯を見つけてから、いろいろあった。そして、俺の人生は変わった。


過去の妻を、俺は、許した。そして、俺と妻は未来を生きる。


              【完】

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過去の妻を俺は @shalabon

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