第8話 決意

「セリアさん、しーーーっ……!!」


祭りの音が遠ざかり、静まった広間にギルド員たちがぞろぞろと戻ってくる。

皆どこかニヤニヤしながら口の前に人差し指を立て、窓から忍び込むように帰還した。


(……なにかしら、この空気)


訝しんだ次の瞬間、理由はすぐにわかった。


赤髪の剣士ーーカレンが、マリアに抱えられて窓枠を跨ぐ。

目は真っ赤に腫れ、うつむく横顔には嫉妬と悔しさがにじんでいた。

そのまま部屋に連れていこうとするマリアの腕を、カレンは必死に突っぱねる。


(……あの子も、これから何が起きるかわかってるのね)


少し前まで突っ走るしかできなかったカレンに成長を感じつつ視線を巡らせる。

若いギルド員を広間から追い出し、酒を飲んでいた幹部陣へ合図を送って集めた。


ーーガチャ。

そんななか扉が開いた。


現れたのは顔を真っ赤に染めたユウ。

そしてその隣で決意を宿した表情のエマ。


集まる視線に驚き一瞬足を止める。

だが周囲を見渡し察したように深く息を吐いた。


「……急に現れて、事情も説明しないまま泊めていただき本当にありがとうございました。ここにいる皆さんには話すべきだと分かっていたのに……心地よい日常に甘えて、口にできませんでした」


深々と頭を下げる仕草は洗練され美しく、橙色の照明に照らされる姿には凛とした気配があった。

だが同時に、その震えが隠せない。謝罪、感謝、そして恐怖ーーすべてが伝わってくる。


高位魔族の極大魔法を無詠唱で吹き飛ばしたエマ。

それほどの力を持つ彼女が、言葉を継ぐのをためらい震えている。

広間全体に緊張が走った。


「……気にしなくていいのよ。話そうと思ってくれただけで嬉しいわ」

セリアがやわらかく微笑み、促すように声をかける。


頭を上げたエマは深く息を吸い込み、吐き出すように言った。


「ーー私とユウは、ヴァルディア王国に追われています。あのときの魔族なんて比べものにならない……もっと恐ろしい化け物に」


カレンの体がぴくりと震えた。

赤く腫れた瞳を見開き息を飲む。その視線はエマに釘付けになったまま揺れる。

(……そんなものを抱えてたのに、私は……)

頬に熱がのぼり、胸の奥で自分を責める声が響いた。


隣に座るマリアは彼女の手を握り、静かに息を整える。

銀の瞳には驚きと同時に、揺るぎない決意の光が宿っていた。

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可愛いって言うな!記憶喪失少年、女装で始まる冒険者ライフ 茅ヶ崎めい @chigamei2323

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