第7話 震える声、伝わる温もり
ーー話があるの。
祭りの喧噪が夢のように遠ざかりギルドの扉を開けようとしたそのとき、エマの声音に足が止まった。
普段は落ち着いて大人びた魅力を感じさせる彼女。
潤んだ薄茶色の瞳が月明かりを受けて震え、切羽詰まった光を帯びていた。
時折見せる憂いを帯びた表情に不安を感じていたがーー今にも溢れ出しそうだ。
「……なに?」
問いかけると、エマはきゅっとメイド服の裾を握りしめる。
その白い指先まで震え、絞り出すように声が漏れた。
「ユウも私も、ヴァルディア王国に追われているの……。すぐに言えなくてごめんなさい……」
掠れる声。
長く背負ってきた孤独が伝わってくる。僕の記憶の空白が、彼女を余計に孤立させてしまったのかもしれない。
ーーギュッ
気付くと僕はエマを抱きしめていた。
「ユ、ユウ……!?」
驚きに揺れる声。
それでも彼女は小刻みに震えていて、放すなんてできない。
(……どこにも行かないで。ひとりで抱え込まないで)
言葉にならない。
だから腕に願いを込める。
それしか、今の僕にはできなかったーー
どれだけの時間が経ったのかわからない。
エマの震えが静まり、代わりに僕の鼓動ばかりがやけに大きく響いていた。
ふと我に返ると、今度は逆にーー抱きしめられていた。
「……っ」
背中に回された腕の温もり。
優しく包むように、確かめるように。
首筋にかかる吐息が熱を帯びて、肌がじんわりと焼けるようだ。
(……近い、近すぎて……全部がエマだ)
香り、声、吐息、温度。
ぼくのすべてが彼女で満たされ、胸の奥が焦げるように熱くなる。恥ずかしさで顔が上げられない。
それでもエマは、精一杯ユウを感じるように、ただ優しく抱きしめ続けたーー
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