2章「聖女へのめざめ」:第2話


 夜。SNSのタイムラインに流れてきた“都市伝説”が、俺の目を奪った。


 《一生に一度だけ、他人と身体を入れ替えられる方法。成功しなければ死に至る》


条件と準備(すべて満たさないと失敗=死)


交換相手の「日常の欠片」を3つ集める

 ※ 本人、または本人の家族の「痕跡」が必要(DNAではなく、日常性が鍵)


入れ替えたい日の前夜に、相手と同じ時間に同じ動作をすること

(例えば、相手が22:30に歯を磨くなら、自分もその時間に磨く。23:00に寝るなら、自分も寝る。)

 → SNSの“体験談”曰く、これで「心が近づく」らしい。


深夜0時、日付が変わる瞬間に“入れ替わりノート”に名前を書く

 ・相手の名前を上、自分の名前を下に書く

 ・ノートは白紙で、前後に他人の文字がないことが条件

 ・書く手は“相手が利き手として使っているほう”


最後に、

 自分の「本音」を10秒間だけ声に出して言う

 ※ その言葉が“嘘”だった場合、儀式は失敗し、体が動かなくなる(昏睡状態)成功した場合は、↓


翌朝、相手の体で目覚める(24時間限定)


終了後は、もし誰も入れ替わりに気づかなければ、相手の記憶は曖昧になる(夢だったような違和感)。さもなければはっきり残る。


ただし、曖昧になったとしても「強い感情」が絡んだ場面だけはぼんやりと残る。



失敗した場合の代償


入れ替わりは発生しない


自我が崩壊して廃人になる。やがて死に至る


 そんな馬鹿げた話、普段の俺なら笑い飛ばしていた。

 でも今は――違った。


 (……もし、俺があの人の夫だったら)

 (あの人を、本当に幸せにできるのは――)


 そこから先は、早かった。

 彩菜の夫が水曜定休だと何気ない会話から聞き出したのも、偶然を装って。


 そして、儀式の準備をする俺の目は、彩菜しか見えなかった。


 大丈夫。一日だけ――それでいい。先生が本当に望むものを、俺が見せてあげる。


 ……現実と妄想の境界線は、静かに、しかし確実に崩れ始めていた。

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君の夕日は何色 沖野大夫 @Albert-okinoread

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