でけぇ

白川津 中々

◾️

 町田浩介まちだこうすけの悩みは嫁の顔がタイプではないという事だった。


「失敗したなぁ」


 酒の席でそう呟きながら、町田は店の隅々を見る。若く美しい女を寸評し、自己憐憫の純度を高めているのだ。


「好きでもない女となんで結婚したんだ」


 町田の悩みに浅はかな連中は皆そう口にする。だが、町田の嫁を知る者は彼に対し十分な理解を示していた。


 町田の嫁は、胸がデカいのである。


 町田は胸がデカいだけで交際を決め結婚に踏み切った。ずっと顔など見る事もなく、胸だけに視線を集めていたのだ。だが、結婚式の後、記念に撮った写真を見て驚愕した。嫁の顔が、あまりにタイプと異なっている事を知ったのである。


「誰だよこれ!」


 町田は絶叫したがそれが自分の嫁であると理解していた。それを否定する事も受け入れる事もできない彼は、混乱するしかなかったのだ。


「ちくしょう、俺はもっと切れ細の目で、唇が薄い方が好みなんだ!」


 酒の勢いで叫ぶ町田ははっきりといって最低の下衆野郎であったが、かといって彼は嫁に対し非道を行なっているわけでもなかった。それどころか逆に、側から見れば愛妻家と評するに相応しい男として認識されていた。世間体や社会の目を気にしているというのもあるが、彼は彼女を、彼女の胸を蔑ろにはできなかったのだ。


 故に、彼は「別れたら?」というアドバイスに対し頑なに首を縦に振る事はなかった。「嫁の胸が萎んだらどうすんだ」という質問には答える事なく、不満を並べ立てて今を生きるのである。

 町田が求めているのは愛なのか劣情なのか。それは本人にも分からない。ただ、彼が彼女の胸を大切にしているのは事実としてあった。それで上手く回っているのであれば、他者が口を挟む問題でもないだろう。

 とはいえ、体と顔、双方揃っていなければ満足しないとは。男とはまったく、贅沢な生き物である。

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