第13話 稽古②
稽古が始まって、いつの間にか二十五日が過ぎていた。八歳という若い体のせいなのか、それとも脳がまだ柔らかいおかげなのか――理由はわからない
だが、俺の体は驚くほどの速さで成長している。まるでこれが「子供の成長力」というものだと証明するかのように
そして、その加速を自分の身で体験する日が来るとは思いもしなかった。
今はただ、その事実に心から驚いている。
そんな感想を寝起きに考えながら今日も稽古だ
26日目は投擲武器への対応だった
朝の空気が張り詰める中、父は腰の袋から金属製の短い筒や、先端に重りのついた縄を取り出した
どれも見覚えのない形状だが、刃物ではないのに妙な威圧感がある
「今日は投擲武器への対応だ」
父は軽く言い放つと、一本の短剣をひょいと指先で回し、俺から距離を取った。
「飛び道具は音や影で察知しろ。目で見てからじゃ遅い」
そう言い終わるよりも早く、ヒュンッ――と空気を裂く音が耳をかすめた。 反射的に腰をひねると、短剣が背後の杭に突き刺さっていた。
(やっべ……全然見えなかった)
「ほとんどの投擲は、手の動きや腕の軌道だけじゃ完璧ではない 風切り音、影の揺れ、地面の砂の跳ね――そういう“兆候”で動け」
父は次々と形の違う武器を投げてくる。 鉄球、鉤付きの鎖、そして刃のついた円盤。 どれも速度も軌道もバラバラで、受け止める余裕などない
俺は意識を耳と視界に集中させると心がスキルが発動した《感応視:心域通達(リンク・パルス)》すると地面に伸びる父の影、その腕がわずかに動く瞬間――音と影が重なった瞬間に、身体を横へ飛ばす
ドン!トン! 投擲物が気付けば後ろの土の上に落ちていた
(……避けられた)
数秒認識した後、父が口元だけで笑う
「よし、その感覚だ。あとは投げる側の癖を読む。そこまでいけば、飛び道具は脅威じゃない」
訓練が終わる頃、腕も足も土まみれになっていたが、耳の奥にはまだ風を裂く音が残っていた
27日目には狭い場所での戦闘訓練
訓練場の端、父は木板と樽で簡易的な迷路を作っていた
(よく俺が寝てから作り始めて朝の訓練に間に合うよな父は疲れ知らずなのだろうか?)
通路は大人一人がやっと通れる幅。天井代わりの板も低く、長物を振り回すには不向きだ
「今日は狭い場所での戦闘だ」
父は腰に短剣を差し、俺に木剣を渡す
「場所によって間合いは変わる。広場と同じ感覚で動けば死ぬぞ」
そう言って父は迷路の奥へと消えた。 俺も追いかけるが、すぐに壁の圧迫感で動きが鈍る踏み込もうとすると
木剣の切っ先が壁にぶつかり、腕が止まった
「……くそっ」
その隙を突くように、背後から足音――振り向く暇もなく、父の短剣が肩口にチョンと触れる
( 剣を振る前に…すでに)
「今のは“間合い負け”だ」
父は短剣を引き、さらに追い打ちをかけるように狭い通路で詰め寄ってくる長い木剣ではどうにも扱いきれない
(武器が邪魔なら……)
俺は木剣を後ろ手に回し、片手で構え直した 握りが短くなれば威力は落ちし、短剣の取り回しには負けるが動きは通路に収まる
今度は父の突きを壁際で滑らせ、肩をすり抜けることに成功した
「そうだ。武器だけじゃない、足の置き方も変えろ、横移動が封じられるなら、膝と腰で高さを変えて死角を作れ」
狭い場所での戦いは、ただ攻撃を当てるよりも、相手の動きを詰まらせる工夫が必要だった
迷路を抜けた頃には、腕と脚にじんわりとした疲労が残っていたが、足の運び方が少し変わったのを自分でも感じていた
狭い場所での戦闘を通じて足運びがそれに備えるようになった
―今日も残り三日間を頑張ろうと庭へ向かうと、父はいつもの位置に、例の剣を握って立っていた。俺が足音を立てるのを確認すると、父は無表情のまま声を出した。
「アドル。今日から残りの日数は、俺と戦って一勝を取ることを目的に、ひたすら実戦訓練だ」
言葉の重さが胸に落ちる。俺は素直に首をかしげた。
「……え、でも今の俺が父さんに勝つなんて、正直無理だと思うんだけど」
頭の中で冷静に数える。身長、筋力、経験の差。修羅場や死と隣合わせの経験所謂“本物の経験”が決定的に足りない。それを訓練が進むほど強く感じるようになった。
父は肩をすくめるように笑みを浮かべた
「分かっているよ。お世辞にも今のお前が俺に勝てるとは言えん。だから条件をつける――俺に一撃を与えられればお前の勝ちだ。剣でも魔法でも飛び道具でも構わん。一撃だ」
その条件は正直、可能性をゼロではない形で残してくれている本当にゼロでは無いだけだがな、俺は小さく息を整えた
「……わかった。全力で勝ちに行くよ」
「よろしい。それと、この訓練にあたって休みを取った。いつでも仕掛けてこい」
そう言われても、正直どう動けばいいかわからない。子供と大人の差は文字通り大きい。新しい何かを出されると、今の俺はすぐに劣勢になる父の言葉に緊張と期待が混ざるやはり分からないことだらけだが、ここで怯んでいても仕方ない。最初の一戦で決着をつけろと言われるわけではない
だからまずは試行回数だ。命がかかっているわけじゃないが、父は間違いなく本気で来る。最初から全てを出してくるわけではないだろう。だからこそ父の癖を探り、自分に足りないものをひとつずつ埋めるそして勝つ為自分に必要なものを徹底的に探す。父が言っていた通り、時間はまだあるようだ。
父と向かい合う
朝の空気はひんやりとしているはずなのに手のひらは汗でじっとりと濡れていた
構えた木剣がいつもよりも重く感じる
「さあ、来い」
父の声は淡々としていた
挑発もなければ余計な圧もない
それなのに一歩前に出るだけで巨大な壁が目の前に立ちはだかるような感覚に襲われる
(……行くしかない!)
俺は息を吐き、勢いよく踏み込んだ
狙いは父の胴まずは真正面からの斬撃
ガキィン!
「っ……!?」
木剣が弾かれた瞬間腕に衝撃が走る
父は一歩も動かず剣を弾く為に軽く合わせただけ
俺の体勢が崩れるのを見逃さず刃先が喉元へと止まる
「一本目」
「……早っ!」
(こんなすぐ終わるのかよ!)
悔しさで奥歯を噛み締め二戦目に挑む今度は速度を落としフェイントを混ぜてみる
しかし剣を振るう前に父の足が一歩動いたその瞬間圧に押されて無意識に手が震え剣筋がぶれる
「二本目」
肩口に剣が軽く当たり、また負け。
「……っ、マジで隙がない」
三本目父は無表情のままただ淡々と剣を構えているこちらが焦れば焦るほど勝手に自滅していくのがわかる
わかるのに剣を構えた父の圧に押されて焦りと震えが抑えられない
今度は魔法を混ぜようと決意する木剣を振るふりをして掌に魔力を込める《燈火の抱擁》で高温の火球を撃とうとした
「遅い」
父の木剣が、あっさりと俺の手首を弾いた
火球はかすかに散っただけでまともに撃つ前に潰される
「三本目」
「くそっ……!」
当たり前に全敗、一撃を与えるどころかかすり傷ひとつつけられないこれが経験の差積み上げてきたものの差か痛感せざるを得なかった
父はスキルや魔法そして剣の型何も使っていないのに
だが、父は剣を下ろさずに言った
「悪くない。だが今のお前の動きはすべて“読める”
次は工夫してみろお前の強みは型にない型から外れろ」
父の言葉は厳しいが突き放す響きではなかった
悔しさと共に不思議な感覚が胸の奥に灯る
(一撃、必ず当ててやる)
三連敗したあとも休む暇は与えられなかった
「立て。今日一日はこれを続ける」
(……やっぱりか)
まぁ疲れてはいないが
俺は息を荒げながら木剣を構え直した
四戦目、五戦目、六戦目…… 何度挑んでも剣筋はあっさり読まれ魔法を使おうとしても動き出しで潰される
「型に頼るな」 「狙いが単調だ」 「迷うな、次を作れ」
父の言葉は短くしかし的確だった 気づけば俺は頭の中で“こうすれば当たるはずだ”という計算ばかりをしていた
その計算が、父には筒抜けなのだ
(……読まれるのは“俺の予想通りに動いてる”からか)
昼食の休憩を終え午後の戦いが始まった 俺は半ばやけくそで木剣を投げ捨てて突っ込んでみた
素手で掴みかかり、父の剣を止めようとしたが
「甘い」
あっさりと体を払われ、地面に転がる
その後も足払いを仕掛けてみたり石を蹴り飛ばして気を逸らそうとしたりした
だが、ことごとく見破られる 石を蹴れば逆に目を逸らされた瞬間を狙われ、足払いはタイミングを読まれて逆に倒される
「悪くないが、浅い」 父の言葉に、苛立ちと悔しさが募る
(……考えすぎてる。どんな手も“次はこうするだろう”って読まれてるんだ 経験..か.クソ)
陽が傾き始めた頃、身体は限界に近づいていた 視界が霞み、剣を握る手も震える
だが、不思議と頭は軽くなっていた
「来い。今日の最後だ」
父の言葉に、俺は深く考えずに動いた 剣を正面から振るように見せて、直前で膝を折り、転がるように滑り込む
(最初はただ見せかけだっただから今度は直前で..)
そのまま手近な土を掴んで投げつけた
「っ!」
父の目がわずかに細められる 次の瞬間には剣で土を払われ、木剣の切っ先がまた俺の喉に止まっていた
(.対処が早い)
「……惜しい」
でも負けは負けだ だが、父の声にわずかな笑みが混じっていた
「今のは“即興”だ。考えるより先に身体が動いた、それこそが戦場で生き残る力になる」
息を切らしながら、俺は地面に手をつき、ぼんやりと思う
(そうか……俺に必要なのは“計算通りの勝ち筋”だけじゃない予想も、型も含めてそれを超えた上での場で掴む工夫だ)
何か作戦を立て動かないとこのままただなぁなぁに突っ込んで戦うだけじゃ絶対に勝てないだから何か考えないと
二次設定と公式設定が入り混じる世界よこんにちは 落石 @yuuki555
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