第十七話 異能者たち

 クロミアは息を飲んだ。戦争と母、まるでそぐわない2つの事柄。しかもここラガマイア王国と対立していた国で。


「多分何かの縁で君のお母さんはヴィリアインの人達と出会い、薬師くすしとして彼らに治療を施したんじゃないかな」


 戦場に何故、そして一体何を。そう思っていたクロミアの心を読むようなガウスの言葉に彼は何度もうなずいた。母は戦場での惨状を見るに見かねて人助けをしたのだろう。彼女はそういう人だ。


「ところで、「天覚者エレメンティス」は知ってるかな?」

「は? ……ええ、まあ」


 考え込んでいたところで唐突に話題が変わり、少年は我に返った。


「異能者のようなものでしたね。生まれつき身体能力が異常に高いと聞きました」

「うん。半分正解」


 ガウスはにっこりと笑みを浮かべる。


「魔法……ともちょっと違うんだけど、何か武器などに付与して属性による攻撃が出来るんだよ。普段は使わない能力だから一般にはあまり知られてないけどね」

「属、性……?」


 少年の戸惑った様子を見てガウスは彼の顔を覗き込む。


「そして、恐らく君にもその素質がある。それは気付いているね?」


 真っ直ぐに視線を向けられてクロミアは目を泳がせた。


「時折、感情がたかぶるといつもより強い力が出ることは感じていました。ですが、異能者と言われるほどのものではなかったし、ましてや魔法のような力なんて私は……」

「うん、そういうものさ。生まれつき持っている能力でも、はじめから使いこなせる人は少ないよ」


 突然話題に上がった異能とヴィリアイン王国がどう関係あるのか。のらりくらりと焦点が変わるこの会話に、正直クロミアはいらついていた。

 それに気付いているのかいないのか、ガウスは上機嫌で何度もうなずいている。


「さっき名を挙げたヴィリアイン王国の2人、オクトゥビアとエルファンスは天覚者エレメンティスだよ。世界的に見ても少ないはずの異能者が2人揃っているのは珍しいよね」

「──二人は血縁者なのですか?」


 クロミアがそう聞いたのは、天覚者エレメンティスは遺伝によってのみ誕生するからだ。


「いいや。彼らの間に血縁はない。血縁者は……君だよヴァンス」


 予想だにしていなかった言葉に、クロミアは目を見開き硬直した。

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