第十六話 ヴィリアイン王国

「ヴィリアイン王国は……ここラガマイア王国の隣国のひとつだね。長い間国境をめぐって睨み合う仲だ。希少な宝石「蒼水玉ヴェリウム」を産出する一方、麦の栽培が盛んで多くを輸出している。地下水脈を持ち、旅人が水を求めて立ち寄るために、貿易街も多いね。恵まれた環境のために、周辺国だけでなく東大陸などの大国からも狙われている」


 両目を閉じて唱えるようにそう言ったあと、ガウスは片目を開いてクロミアの表情を伺う。そうして素直にメモを取っている彼に笑いかけた。


「……とか、そういうことを知りたい訳じゃないんだろう?」

「えっ、いえ……あの……」


 動揺したクロミアはペンを取り落とす。そのペンが床に落ちる前に、ガウスが空中で掴み取った。


「──すみません。」


 手渡されたペンを受け取って、ぎゅっと握り締める。

 ガウスの言う通りだった。ヴィリアイン王国を含む西域八ヶ国の産業や公用語、文化や簡単な歴史なら図書館で調べて知っている。クロミアが知りたいのは、そこに載っていない何かだ。自分が何を知らないのかさえわからない。そんなもどかしさをずっと感じていた。


「いいんだよ。知りたいことを知る権利が君にはある。僕が知っている限りのことでよければ話して聞かせてあげよう」


 ガウスはクロミアの机の横に自分の椅子を寄せて座った。


「……さて。どこから話したものかな」


 彼は机の上に肘をつき、クロミアの顔を覗き込むような恰好で話し始めた。まるでその反応を楽しもうとしているかのように。


「15年前まで、ここラガマイア王国とヴィリアイン王国は国境を巡って争っていたのは知ってるね?」


 クロミアはこくんとうなずいた。 


「その戦争で陣頭指揮を執ったのはオクトゥビア王子……いや、戦いが続く中で国王は病に倒れたから、オクトゥビア陛下、だな。それに陛下の補佐役のエルファンス・ルーン将軍。そして……多くの目撃情報があったのが、髪も肌も真っ白な女性……君のお母さんだ」

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