第14話 革命

 事前に連絡はあったらしいけどIT推進課の人達が私がいる労務課を訪ねてきた。


 〈神代さん〉と後二人は若い男女の課員だ。

 担当チーフじゃない〈神代さん〉が来るとは思っていなかった。


 給与システムにエラーが起こる原因を調査するために、エラー状況の聞き取りに来てくれたんだ。


 本来の担当チーフと〈神代さん〉とに感情的なもつれがないか、私は気になってしまう。


 レストランで私が愚痴を言った事に〈神代さん〉が応えてくれたんだ。

 少しの不安と大きな嬉しさが私の心を占める。

 〈神代さん〉の中で私は特別な存在なんだと勘違いしてしまうじゃない。


 労務課の職員は「おぉ」とどよめき、大きな驚きを隠せないでいる。

 来てくれた人達は長年放置されてきた問題を真剣に考えてくれているからだ。

 勇者か聖女か愚者か、何かであるのは間違いない。


 かなり大げさだけど泣きそうになっている人もいる。

 私もこれは一種の革命だと思う。

 古い体質の私の会社が変わりつつあるんだ。


 〈神代さん〉は〈豆子さん〉の整えてもらった緩いパーマと〈テーラ梅木〉で作ってもらったお洒落なジャケットで颯爽としているじゃない。


 私はITに詳しくは無いけど、〈神代さん〉の若い課員への指示も的確のような気がする。

 〈一本桜〉の中でもそうだけど、現実世界でもかなりやるじゃない。

 私は自分の事のように誇らしい気持ちになってしまっている。


 「へぇー、〈八重〉が不潔と嫌っていた〈神代さん〉って、すごくイメチェンしたんじゃない。 エラー調査をしてくれるから依怙贔屓もあるけど、なかなか良い男だったんだな。 惚れちゃいそうだよ」


 「はぁ、〈かすみ〉は何を言っているの。 不倫は絶対にダメだよ」


 前は全く関心も無かったくせに〈かすみ〉の手の平返しにムカムカしてしまう。

 〈かすみ〉が〈神代さん〉の何を知っているって言うのよ。

 私は一杯知っているんだからね。


 「あははっ、心配なんていらないわよ。 あっちが子持ちの中年の女なんか相手にしないって」


 まったく〈かすみ〉は笑っている場合じゃないわ。

 同い年なのに中年って言ってほしくないな。

 私はまだ独身なのよ。


 順番が来たから私と〈かすみ〉も聞き取り調査をされることになった。

 私の話を聞いてくれるのは〈神代さん〉だ。

 私の顔はカアッと赤くなってしまう。


 太ももを吸われてお尻を吸った相手と、職場で顔を合わすのはとんでもない羞恥プレイである。


 17年間も強固に変わらず続く私の職場に、異次元の異常性が急に飛び込んできたんだ。

 ある意味深い中の男性が乱入して来たって事でもある。

 私が平常心でいられるはずが無いじゃないの。

 心が乱されるのはしょうがないでしょう。


 〈神代さん〉に正面から話しかけられるとドキンドキンと胸の鼓動が早くなってしまう。


 チューチューと吸われてピンク色に染まった太ももをどうしても思い出してしまうんだ。

 ジンジンとうずくような、熱くなるような感触を思い出してしまうのよ。

 棘の毒に一時的に犯されたせいに決まっているわ。


 〈神代さん〉の顔も赤いような気もする。

 ひょっとしたら私が股間を触ったのを思い出しているのだろうか。

 

 きゃぁ、そんなの忘れてよ。

 ひゃぁ、こんなのとてもじゃなけど冷静じゃいられないわ。


 「〈八重〉どうしたの? 顔が赤いよ。 あっ、そうか。 ギャップ萌えってヤツなんだ」


 「ち、違います。 燃えてなんかいないわよ」


 「ふふふっ」


 「くっ、気持ち悪い笑い方をするんじゃない」


 〈神代さん〉達は聞き取り調査を終えて帰っていった。

 私はドッと疲れて呆けた顔をしていたと思う。


 〈カスミ〉はそんな私を見てまたケラケラと笑っている。

 私はもうムカつく気にもなれない。


 帰っていく〈神代さん〉のお尻をただ見ていたんだ。

 毒はもう大丈夫かな。

 痛くなったりしないかな。


 あっ、そうだ。

 裁縫が苦手な私だけど、不細工だけど一生懸命に穴を繕ったパンツを会社まで持って来ているんだ。

 洗濯機の中で私の下着と一緒にグルグルと洗ったのだけど、一緒に並べて干すのをためらってしまったよ。


 どうしてなんだろう。


 元カレの下着を私のアパートで干したことが無いからかも知れない。

 私の彼でもないのにって感じたんだろうな。


 いい機会だったから、さっき渡せば良かったかな。


 ううん、会社で男にパンツを渡す女なんて聞いたこともないわ。

 例え夫婦だったとしてもそんなのしないよ。


 〈一本桜〉の中で渡せば良いでしょう。

 んー、良く考えたらパンツなんて持ち込めるのだろうか。





 桜色のビキニアーマー姿で私は立っている。

 手には〈神代さん〉のパンツを握っている感触がある。

 ビニール袋に入れて鞄の中に入っていた物をどうして私は握っているのだろう。


 ふん、そんなの考えても時間の無駄でしょう。


 それよりも〈一本桜〉の中へ来ると、次はどんな化け物が出てくるのかが心配でしょうがない。

 毒棘の上なんて想像もしたくないわ。


 〈一本桜〉よ、いい加減にしてくれないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜守に選ばれた私は、なぜかビキニアーマーで奮闘中 品画十帆 @6347

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画