呼水は、更に波紋を連ね。

長く帰っていなかった山が直ぐ傍にある
実家への帰省は、突然だった。
 寂れた無人駅は昔のままだ。木造の
小さな駅舎には扉もなくて、待合室とは
名ばかりの黒ずんだベンチが一つきり。

 折しも、霧雨に濡れて。

山々の木々や田んぼの緑が霞む。緩く
湿り気を帯びた風が纏わりついてくる。
ぐぁ ぐあ ぐぁ 蛙の声が。

    蛙の声は、嫌いだ。

「もしもし」
       聞いた事のない声の主が
告げた、一人故郷に残った母の 死


 弟は、ずっと以前に居なくなった筈だ。



居なくなった弟を探して、少年だった彼は
河途神社の境内へと辿り着く。後悔と焦燥
そして、様々なものが蛙の声と共に脳裏に
渦巻いて行く。
 足は自ずと松の根を避けて草叢を行く。
水の匂いと、蛙の声が。




 自分は一体、何を願ったのだろう。