第19話 会えぬままの時間

なには(わ)がた 短きあしのふしのまも

あはでこの世を すぐしてよとや

——伊勢



——


封筒を開けると、紙の匂いとともに、懐かしい高校時代の風景が目の裏に浮かんだ。文字は乱れているが、そこに込められた想いははっきりと伝わってくる。


――


なにはの短き足の節の間も、会えずに過ぎてしまうこの世。

君にもう一度会えないまま、僕はすぐにこの世を去るのだろうか。


あの頃、何気なく笑い合った廊下の隅、部活帰りに肩を並べて歩いた帰り道。

君に伝えたい言葉はいつも胸の奥に押し込めたままだ。


でももう、時間は残されていない。

だからこうして手紙にして、僕の声を君に届ける。


短い命の中で、たったひとつの願いがある。

君がこれからの日々を、僕のことを思い出すたび、少しでも優しい気持ちで過ごしてくれること。


僕はもう行く。けれど、君の心の中でだけ、僕は生き続けるだろう。

会えずとも、覚えていてくれ。


――


局員は手紙を胸に抱きしめ、しばし動けなかった。

窓の外には柔らかい陽光が差し込み、校庭の銀杏が風に揺れている。

その揺れに、まるで友人の息遣いが混じっているかのように感じた。


手紙はただの紙切れではない。短くても熱を帯びた生命の断片だった。

局員は小さく息を吐き、心の奥で友の言葉を抱きしめた。

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風の郵便局 チャッキー @shotannnn

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