国府凛

君は健気でした。とても、とても健気でした。綺麗な子でした。いつも笑っている子でした。どこか抜けていたけれど、そこも人を、惹きつける魅力だったと思います。嫌な顔、苦しい顔など僕には見せませんでした。


でも、気づいていました。その瞳の奥にある真っ黒な何か。君はあの時何処を見ていたのでしょうか。

僕が心配すると、君は決まって大丈夫と笑います。

本当は何も大丈夫ではないのに。優しい嘘なのです。僕が余計なことを考えないために。そのためにつく嘘。繊細で柔らかくて、針でつつけばすぐ破裂してしまう水風船のような嘘。


僕は君が好きでした。君も僕が好きでした。

ですけれども、僕は優しい嘘をつく君が、世界で一番嫌いでした。

ずっと、ずっと嫌いでした。


多分、君もそんな僕を嫌っていたと思います。


ですが、それは仕様がないことなのですね。人間というものは優しい嘘をつきあって、うまく生きています。僕もつきます。嘘をつきます。


だから、人間が嫌いなんです。

僕自身が一番嫌いなんです。

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国府凛 @satou_rin

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