「夜を見上げる少年」
@setsu0217
夜を見上げる少年
夜って、嫌いだった。
暗いし、静かだし、何も見えない。
星が見えても、それがきれいだなんて、思ったことなかった。
俺の家は、いつも誰かが怒鳴ってた。
父親は仕事で疲れて帰ってきては、母親に八つ当たりする。
母親は俺に「あんたさえいなければ」って吐き捨てる。
兄はいつもスマホでゲームをしていて、俺が話しかけても無視だった。
家にいるのが息苦しくて、夜になると意味もなく外に出た。
人気のない道を歩いて、公園のベンチに座って、ただ空を見てた。
何かが変わるわけじゃない。
でも、家にいるよりは少しだけ楽だった。
中学のとき、俺はクラスでも浮いていた。
誰ともうまく話せなかったし、何をしても「変なやつ」と言われた。
授業中にボソッと答えを言っただけで、
「なに急に答えてんの、きも」と笑われた。
体育ではボールが顔に当たって、みんなに爆笑された。
俺は、いつからか「自分なんかいらない」って本気で思うようになってた。
ある日、夜の公園でひとりベンチに座っていたとき、
ふと、隣に人の気配がした。
「……まだ、こんな時間に外いるの?」
驚いて顔を上げると、そこにいたのは――
佐久間結南だった。
制服の上にパーカーを羽織っていて、髪は少し乱れていたけど、
どこか芯の強そうな目をしていた。
「……誰?」
「ただの通りすがり。」
そう言って、彼女は俺の隣に座った。
「夜、嫌い?」
唐突なその言葉に、俺は黙ってうなずいた。
「そう。でもね、夜って、全部隠してくれるから。
人に見せたくない顔も、涙も、傷も。
……私は、夜に救われたことあるんだ。」
俺はそのとき、初めて“自分と同じ匂い”のする人に出会った気がした。
彼女は多くを語らなかった。
でも、ほんの少し話すだけで、心が軽くなった。
「人間なんてさ、ちょっと壊れかけてるぐらいがちょうどいいんだよ。」
結南は笑って言った。
それが、俺の中の“何か”を変えた瞬間だった。
数日後、またその公園で彼女を探したけど、もう姿はなかった。
名前も、学校も、何も知らない。
でも、俺はあの日の彼女の言葉を、ずっと忘れなかった。
そして、高校に入って――
偶然、彼女の写真を手にしていた誰かに声をかけた。
「ねえ、それ……結南、だよね?」
そう言って振り向いたその子が、今、俺の隣にいる――愛菜だった。
「夜を見上げる少年」 @setsu0217
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