短編小説 門番という仕事?

@katakurayuuki

門番という仕事?

父から昔聞いたことがある。私たちの仕事。使命はある時空からの託宣によって定められたと。

 それ以前に何の仕事をしていたかもわからないが、その託宣を聞いて以降人々はじぶんの仕事、やるべきことが決まり、それに従って人生を過ごすようになったらしい。

 父は昔から門番の仕事をしていた。1日交代で休みの日は私の訓練相手になってくれた。私もいつかは門番の仕事をするのだと思った。

 そんなある日、父が死んだことを知った。魔物の襲来があったのだ。

 昨日まで一緒に暮らしていた父。父が最後に何を思ったのか。普段何を思っていたのか。それすらもわからずいきなり父は死んでしまった。

 それからは私が門番の仕事をするようになった。

 父がしていた仕事。でもいつ死ぬかわからない。仕事。

 それからは色んな事が起きた。

 私の跡継ぎのために結婚相手を見つけることになり、街中で見合いが行われ、ちょうどいい相手がおり、その人と暮らすことになった。今では子どもが出来た。かわいい息子だ。

 この子も私が死んだら門番になるのだ。

 ある日の事。部屋を掃除していたらノートが見つかった。開いてみると父の日記だった。日記にはこの町には『祈りの剣』というものがあるらしいことと、その噂を聞いて勇者一行がこの町に来るらしいとのことだった。

 私が生まれる前の話だ。

 だが、おかしいことがある。

 それは最近街に『祈りの剣』というものが封印されてあると噂になり、それを勇者一行が見に来るという話が最近になって出てきたのだ。

 父のノートと全く一緒だった。


 勇者一行がやってくる日がやってきた。

 それはどこから見ても勇者一行だった。勇者は愛想がよく魅力的であり、武道家は筋骨隆々として弱い魔物なら一撃で倒せそうな人間だ。魔法使いは長いコートと杖を持っており一匹の黒猫を従えており周りを警戒している。

 門番として、荷物チェックを済まし、街中で過ごす許可証を渡す時、ふと気になったことを聞いてみることにした。

 「勇者様。一つ聞いてみたいことがあるのでいいでしょうか?実は父も門番を長年務めており様々な人と会ってきました。その父が昔、この町に『祈りの剣』があると聞いて勇者がやってくるという日記を見つけたのです。まるであなたのように。この偶然の一致についてどう思われますか?」

 勇者は少し迷った後、

 「いつの世も勇者がいる。それを待ってる武器がある。そういうことではないかな?」

 笑顔で語られるその言葉に納得しながらもどこかなっとくできないでいる自分がいた。

 でも許可はとれたのだから彼らを遠さなけねばと手続きをしていたら魔法使いの猫がこっちを凝視しているのが目に入った。すると、


 「こまるんだよね。想定外の事をされると。」

 猫がしゃべった事に驚いたのもそうだが、気づくと周りの人が止まっていた。いや、火の揺らぎも動かない。世界が止まったのだ。

 「長い時間が過ぎると決まったルーチンをしなきゃいけないのに君のようなバグがどうしても生まれる。だから私のような小動物が君たちを監視しているのだが、この物語の重要人物である勇者に迷わすようなことを言っては困るのだよ。彼の記憶をいじらなくちゃいけないし、君の記憶も精密にいじらなきゃいけなくなる。」 

 そこまで言った猫を見て、私は言ってはいけないことを言ったらしいと気づいた。

 「私は、どうなるのですか?」

 「言っただろう。記憶をいじると。世の中には役割がある。それをこなさなきゃいけないんだ。そうしないと世界がバグる。そうなったら混沌の世界になってしまう。それだけは避けなくちゃいけない。」

 そこまで黒猫が言った後、混乱する私を見ながらため息をして、言った。

 「でも君がそうなってしまったのにもこちらの落ち度ではある。だから一つだけ願いを叶えてやろう。勿論記憶をいじらないでくれとかはダメだぞ。」


 そこまで言った後、私は猛烈に考えた。ここで私の一生が決まるのだ。


 「父がいました。父は門番をしていてある日魔物に襲われたと聞いてそれきりです。きっと私もそうなるのでしょう。

 お願いがあります。遺言状を書かせてください。この仕事に誇りを持っていると。この国が好きだと。そして妻と息子を愛してると。その遺言状を私が死んだあと息子に渡してください。それが私の願いです。」


 そうだ。私は父の喪失に耐えられなかった。いきなりだったが、そのあと色々あったからどうにか紛らわせることが出来たが心のどこかにはしこりがあったのだ。息子にはそうはさせたくない。


 「君の願い。承った。君は私という黒猫と会話をしたことは忘れるだろう。だが、君はこの後遺言状を書き、君が死んだあとその遺言状が家族にわたることを約束しよう」


 そこまで聞いた後。ふっと心が楽になった。


 「君大丈夫いかい?」

 勇者が私を見ていぶかしんでいた。どうやらぼーっとしていたらしい。

 「すみません。街に入る許可証はこれです。どうぞ楽しんでいってください。」

 私は勇者一行を見送った。これで大役を一つこなすことが出来たと少し安堵した。

 そういえば最近遺言状というシステムが出来たらしい。私だっていつ何があるわからないから一筆書き留めておこう。内容はいつも心では思っていても恥ずかしくて言えないことでもいいだろうか。でもやっといて損はないだろう。


 そう思い日常業務に戻る私を魔女の黒猫が見送るのだった。

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