History of "Dreadful"
みやBん
History of "Dreadful"
時は14世紀、神聖ローマ帝国領。のちのドイツと呼ばれる国の南西領での話。
───その日の夜は、地域住民にとって心配の種が尽きぬものであった。
1つは、侵攻対象のイタリアへの最短経路である峠の拠点を失ったこと。
2つ目はその不安を煽る様に天候が崩れ、連日、憂鬱な天気が続いていること。
3つ目は、魔女の噂であった。
当時に於いて、魔女狩りの本格化は16世紀以降の話ではあるが、キリスト教の教示に逆らう異端や犯罪者たちの一部は悪魔に魂を売った者として魔女の烙印を押されていた。犯罪者が近辺にいるかもしれないとなれば、当然、住民の心境は芳しくない。それを受けてか領主は見回りの者を出したと云うが、吉報はとんと耳にしない。
そんな地域にある村の、とある老人の家。
その家の中は酷く閑散としていた。家具と呼べるものは必要最低限なもので、客も滅多に訪れぬ居間には木造の家具がちらほらと散見される程度だ。色を失った灰色の空間には、僅かに火の灯る暖炉からパチパチと火の粉が舞っている。椅子に腰かける老いた男は、その褪せた瞳で過去の日々に馳せるように燻る灰を見つめていた。
思索に耽りながらも、夜だと云うのに眠気が来ないのは、煉瓦造りの壁を打ち付ける雨風のせいだろうか、それとも魔女の噂のせいか。……それとも、己の死期が近いことを悟ったせいか。
老い先短いとしてもこの身体に夜更かしは毒。せめて横たわるだけでも、と曲がった腰を持ち上げたその時である。
ドンドン
いまや遠くなった耳に、古びた扉を強くノックする音が玄関扉から響く。見回りの兵士か、それとも夜盗の類いか……。少なくともわざわざノックなぞする強盗など数少ないだろう。僅かに猜疑心を抱きながら老人は痩せ細った足を玄関まで進め、扉に手を掛けた。
ギギギ、老人の関節同様に軋む扉を開けば、そこには一見してフードを深くまで被った子供が、雨風に晒されながら立っていた。唖然として眺めていると、その者が口を開く。
「夜分遅くに失礼する、ご老人。僕は宣教師でね、やっとこさ峠を越えて来たものの、こんな時間じゃ宿屋も教会も閉まっているときた。せめてひと晩、雨が上がるまで中に上げてくれないだろうか」
宣教師を名乗る者は、滔々と落ち着きのある口調で語った。宣教師を名乗るだけのことはあるのか、童と見間違える背格好の割には、言葉の節々にはどこか納得してしまうような貫禄がある。しかし、声質からは拭えない幼さを感じさせた。
「ふむ、こんな夜中に訪問する宣教師殿とは聞いたことがありませぬな。しかし、わざわざ老いぼれの家を訪ねてくださったのなら、無碍にはできますまい。暖炉の傍で暖まっていくとよろしいでしょう」
訝しく思うも、久々の客人を雨の中に突き返す訳にはいくまい。老人は宣教師を招き入れ、暖炉の前まで招いた。部屋の中をぐるりと見回す宣教師を後目に、老人は火の粉が燻る暖炉へ薪を一つ二つと投げ入れて、腰を椅子へ下ろした。
「火が強まるまで辛抱なさってください。その間、退屈しないよう老いぼれが昔話でもしましょうぞ」
近くの椅子に座るよう促すが、宣教師は暖炉の傍に膝をついて蹲る。
「ご老人、待つ必要はないよ。ここは招いてくれた礼に一つ、僕の特技を披露しよう」
彼はそのまま一息、弱々しく燻る火種に吹きかけると、たちまちに炎が大きく揺らめいた。その光景に目を丸くする老人に、彼はフードの下からルビーの様に紅い瞳を覗かせてほくそ笑んでみせた。
「これはこれは、近頃の教会は魔女も抱えておられるとは」
「神の御業だよ。最近の宣教師はこれくらいできないとね」
彼はいそいそと暖炉の近くまで椅子を引いて腰を落とす。寸刻の間、2人は揺らめく炎を見つめていると、宣教師は沈黙を好まないようで「そういえば」と口を開いた。
「昔話を聞かせてくれると言ったね。是非とも聞かせてくれると嬉しい、宣教師は神の教え以外にも話のネタ蓄えておかないといけないものでね」
好奇心からといった方が正しいか。彼は弾んだ口調で老人にせがむと、老人はクツクツと喉を鳴らしてみせる。彼の宣教師らしからぬ子供らしい一面に笑ってしまったのだ。
「ええ、ええ、良いでしょう。あまり明るい話ではありませんが、是非お話いたしましょう」「ああ、でも、その前に───」
老人は近くの棚からボトルを取り出し、ジョッキを2つ手にして戻ると、ちゃぷちゃぷとボトルを揺らして訪ねた。
「シードル(リンゴ酒)でも如何ですかな? 語るにはこれが必要でしょうが、宣教師殿の口に合うかどうか」
少々意地の悪い口調で尋ねる老人に、小柄である宣教師は見た目で侮られていると思ったのか、思わず肩を竦める。そのような扱いには些か慣れている様子であった。
「これでもね、かなり行ける口だよ、僕は!」
・・・
───あれは数十年前のことになりましょう。若き私ことデニスが、当時の領主様の下で仕えていた時のことでございます。旦那様ことダニエル・フォン・シュミット侯爵は、騎士上がりの貴族階級でシュミット家は周囲一帯の領地を治めておいででした。ダニエル様は趣味の骨董品集めに執心で、よく遠出をするものですから、実質的に奥様のシャルロット様が領地を統べていたと言っても過言ではありますまい。
しかし、あなた様も知っておいでかもしれませんが、今や荒れ地となった場所に鬱蒼と不気味に佇む屋敷こそが、嘗て私の勤めていたシュミット家の屋敷にございます。いまや曰く付きや怪物が住み憑いているなどと囁かれてはおりますが、あの屋敷にはシュミット家の方々が過ごした輝かしい日々が在ったのでございます。
その栄華に彩りを与えていたのは、お嬢様の存在がひとしおに大きかったことを、私は鮮明に憶えております。かつて屋敷の庭園に生い茂った若葉のように、鮮やかなエメラルドの長髪と、赤薔薇を思わせる情熱的な瞳を宿す方の名を"フロレンティーナ"様と申します。光栄にも、私はティーナお嬢様(愛称でございます)の教育係兼お世話役を兼ねさせて頂いておりましたので、旦那様や奥様以上にお傍にいたかもしれません。
・・・
「待った、その可愛いティーナお嬢様のことはひとまず置いておくとして。妻が……女が領地の管理だって? 侯爵の妻だとしても、そんな大事な務めを任せるのはおかしいじゃないか」
宣教師の訝しげな声色が話を遮る。女性の地位が低い時代に於いては、疑問に思う宣教師の感性が正しくあった。デニス翁が考え込むように顎をなぞり、枯れた声で一言「そうですな」と呟いて、言葉を続けた。
「シャルロット様はフランスの名門出身にてございます。旦那様が云うには、奥様は必要以上の学問をお修めになっていたことを奇異の目で見られていたようでございまして、当時遠征中であった旦那様と出会い、恋に落ち、窮屈な家を抜け出すようにしてこちらにいらっしゃったようで。私の仔細知らぬことですが、当時の両家の間にそれはそれはゴタゴタがあったと……」
「それに、フランス遠征中にティーナ様もお産まれになったのもありますからな」
シュミット家のあまりの破天荒っぷりに、宣教師は目を丸くする。駆け落ち同然の恋路、遠征中の娘の出産。モラルはどうなっているのだ、と言わんばかりの秩序の乱れっぷりに物も謂えない。領地が荒廃するのも当然とすら思える。
「ともかく、シャルロット様はフランスの才女でありましたから、ダニエル様に代わり領地を統べることなぞ容易でございましょう」
「そうかな……そうかも……」
デニス翁のさも当然とした態度に呆気にとられ、宣教師の視線は自身の足先に向けられる。そんなことは意に介さず、デニス翁はシードルで喉を潤すと、滑らかになった喉で再び昔話を始めた。
・・・
さて、ティーナ様はシュミット家のマリアでありましたが、それはそれは両親に違わずお転婆な娘でございました。あれは9歳の頃でしょうか、落ち着きを覚えたレディになれと奥様に口を酸っぱくして言われていた光景は今でも鮮明に覚えております。なにせ、私が刺繍を教えようとするも、寸刻も経たぬうちに庭へ飛び出すような快活っぷりでございます。それからお嬢様は決まって、庭にそびえる一本の老木に隠れるのが常でありました。
「ティーナ様、いつまでも刺繍から逃れることはできませんよ」
「いーやっ!」
老木から顔を覗かせて、膨れっ面で答えるお嬢様。何とか説得しようとする私。その光景を見て、クスクス笑いながら洗濯物を干す女中たち。それが昼のシュミット家の日常でございました。いつもの事ならば、日中は追いかけっこに時間と体力を費やされることになるのですが、その日に限ってはこちらに秘策があったのでございます。
「お嬢様、今日は旦那様が帰ってくる日でございましょう。お嬢様が淑女として成長した姿をお見せしたいのではないですか?」
「お父様が……! でも、うう……刺繍って面倒くさいし。私、お料理の方が好きよ」
その日はダニエル様が遠征からお帰りになる日でございました。屋敷にいることが少ない父親に会えることは、お嬢様にとってはさぞ喜ばしいことでしょう。旦那様の携えた土産を楽しみにしていた面もありましたが、喜ばしい気持ちに変わりはありません。
しかし、まだ踏ん切りがついていないご様子のお嬢様に、私はもう一押しを加えたのです。
「ではお嬢様、刺繍の後はご一緒にお菓子をお作りになるのはどうですか? 旦那様の分もお作りになれば、きっと喜ばれますよ」
「……そうね。良い考えだわ! たくさんお菓子を作って、お父様を出迎えましょう! 早く刺繍を終わらせなきゃ!」
ティーナ様は少し逡巡してからひょいと木陰から飛び出して、ぱっと明るい笑顔を浮かべながら、私と肩を並べて屋敷へと戻って行きます。女中たちも私も、お嬢様の笑顔を見るとこっちまで口元が綻んでしまっていたのを思い出してしまいますな。お嬢様は天真爛漫でお転婆ではありますが、それは聖書の教えのように、私達の心を照らす光であったのは間違いありますまい。
「ねえねえ、デニス。今日は刺繍だけでいいでしょ? もしかしたら、お父様が陽の高い時間に帰ってくるかもしれないもの」
「いいえ、しっかり座学も学んでいただきますよ。奥様からの言いつけですから」
私がそう言うと、お嬢様の顔から血の気がさぁっと引いていくのは一目瞭然でした。何せ座学はお嬢様のもっとも苦手とするものの五指に入ることでありましたから、その足が逃走の準備を始めていることに気づくことは容易いものです。
「────ですが、座学中に旦那様が帰って来られたら今日はそこまでとしましょう。それまではキッチリと、座学に励んで頂けますかな?」
「う、うう……わ、わかったわ……! お父様が帰って来るまで、ね!」
結局、その日は旦那様が陽が沈むまでお帰りになることはございませんでしたな。座学中に外の様子を幾度も見やり、馬車が門の前を通るたびに「お父様かしら!」と立ち上がっては肩を落として席に着くのを繰り返す始末。それから、座学の終わりには大分お疲れの様子でしたから、少し仮眠を取っては如何かと提案したのですが、旦那様の帰りを待つのだと言って聞きませんでしたな。健気なところもまた、可愛らしいでしょう?
・・・
宣教師はフードを深く被り、どこかバツが悪そうに肩を竦めてみせる。デニス翁はそれを柔らかな目で一瞥して、シードルを自らのジョッキに注ぎながら語りを続けた。
・・・
さて、旦那様がお戻りになったのは陽が沈み切った夜でございました。ウトウトと船を漕いで、眠気に耐えながら外を眺めるお嬢様の瞳に、夜闇に揺れる馬車のカンテラが映り込んだ時の期待に満ちた表情といえば、筆舌に尽くしがたいでしょう。馬車が門をくぐったことをしっかりとその目で確認すると、私が声をかける間もなく風のように飛び出していきましたな。
「お父様、お帰りなさいっ!」
お嬢様は、荷下ろしの指示をする旦那様の脚に勢いのまま飛びついたものですから、旦那様は少しよろけてしまっておりました。そんなことも気にせず、花が咲いたような笑顔を浮かべるお嬢様に旦那様は少々の苦笑いを返しておいででした。それから旦那様はひょい、とお嬢様を抱きかかえられますと、子供らしいあどけない表情を浮かべるのでした。
「おお、久しいなフロレンティーナ。背丈も新芽の如く伸びている気さえするぞ」
「そうよ! どんどん大きくなって、立派な淑女になるんだから! それとね、お父様。今日は刺繍とね、座学をたくさん頑張ったのよ! デニスは色んなことを教えてくれるけど、いつかは私の頭が破裂しちゃいそう! それからお菓子もたくさん作ったし、それからね────」
「落ち着きなさい、フロレンティーナ。立派な淑女となりたいのなら、まず落ち着いた所作を身に着けるところからだ。そんなに一遍に話されては父の耳が破裂してしまうぞ?」
お嬢様は「はっ」とした顔を浮かべてみせますと、コホンと軽く咳払いをしてから淑女らしい表情で取り繕います。もっとも、口を横一文字にきゅっと結んだ神妙な顔でございましたので、旦那様は思わず笑っておいででしたな。
「さて、デニス。俺の留守中に苦労をかけたな。家の様子はどうだった、変わりはないか」
お嬢様の後ろに控えていた私に、旦那様は父と領主の顔を入り混じらせながら訪ねます。遠征帰りには毎度、この質問を奥様か私に投げかけておりましたが、答えはいつも決まったものでした。
「お変わりなく。ただ強いて申し上げるのなら……」
「ふむ、申してみろ」
私はお嬢様に視線を移しまして、口を開きます。
「ティーナお嬢様のお転婆っぷりに磨きがかかっていることでしょうなぁ」
「フ、ハハハ! それは違いない、娘についていけるのはお前ぐらいなモノだろうよ!」
「お父様!! デニス!! もう!!」
湯気が立ちそうなほど耳まで真っ赤に染めたお嬢様は旦那様の腕から降りますと、足早に屋敷まで戻っていきました。少しからかいすぎたか、と顔を見合わせる私と旦那様でしたが、玄関口からこちらに向かって不機嫌そうに舌を出して抗議するお嬢様を見て「大丈夫そうだ」と安堵するわけでございます。
それから旦那様は、土産物の一つの、大きさで言えば成人男性の腰当たりまである長方形の箱でしょうか。それを指さして言うのでございます。
「そうだ、これを見栄えのいい場所に立てかけてはくれないか?」
「それはよろしいのですが、これは一体?」
旦那様は何やら妖しい笑みを浮かべますと、中身を取り出してお見せになりました。
「どうだ、美しいだろう」
……それは一振りの剣でございました。刀身が炎のように揺らめいて波打つ、異様な刀剣でございます。正直に申しますと、私はそれを見てとても美しいなどとは思えませんでした。カンテラの灯りがギラリと反射し、旦那様の顔を映すそれには背筋の凍る思いでありました。
「骨董品の他に、刀剣の収集も始めたので?」
私は思わず訪ねました。古物を集める旦那様がこのようなものを持って帰るなど珍しいことだったのです。
「これでも俺は騎士……とはいえ、これまで刀剣の類いに芸術的価値を見出せていなかったが、この刀身には酷く魅入られてな。わざわざ鍛冶師に一本打たせたのだよ。これは玄関に近い廊下にでも飾っておいてくれ、有事にも役立つ」
「そう、ですか。使われないことを願うばかりですな」
やはり悪寒が拭えない私はその一振りを受け取り、足早に屋敷へと戻りました。旦那様の言いつけ通り、玄関からほど近い壁に飾りはしましたが……その近くを通るたびに、あの剣が目に入らぬように目を伏せていた記憶がありますな。
程なくして、荷物をほどきになった旦那様は食事を済ませると、奥様とお嬢様に贈り物やらを渡し、土産話に花を咲かせておいででした。しかしやはりというべきか、お嬢様は夜更かしに慣れておられないようで、こっくりこっくりと睡魔と競り合っておられましたな。それに気づいた奥様は話を切り上げて、お嬢様を寝室まで連れて行ったのですが……。
私は気づいたのです。お嬢様の首に、鈍い輝きを放つアクセサリーをかかっていることに。三角の立体に加工されたそれは、角が酷く鋭利なものでしたから、些か心配になりつい声をかけてしまったのです。
「おや、それは……」
「隕鉄とやらを加工したネックレス、らしいですよ」
落ち着きの払った声で、シャルロット奥様はお答えになりました。お嬢様と同じく紅い瞳を持つ奥様は、私と同じようにネックレスを見つめておいででした。訝しく見つめられる隕鉄は、ランプの光を鈍く反射するだけで何も答えるはずはございません。
「あなたの考える事はわかりますよ。あの人はまったく、今のこの子に似合うものを渡してあげれば良いのにね」
「あはは……。このネックレスも時が経てば、いずれティーナ様にはお似合いになるかと……」
……直感というべきか、私には、ネックレスを見たこの時からある不安を感じておりました。お嬢様の身に何か良からぬことが起きるのではないかと、ネックレスがお似合いになることなど永遠に来ないのでは、と。
当然、そんな無礼を奥様に申し上げることなど出来るはずがございません。ただ、私は愛想笑いを浮かべて奥様とお嬢様が寝室に向かうのを見守ることしかできませんでした。
・・・
老いて淀んだ瞳が虚空を見つめる。デニス翁の心は後悔の念一色に染められて、溜息の一つに数十年の重みが込められていた。
「随分と後悔をしているようだけど……それで、その悪い予感は当たったのかい?」
遠慮もせず、話を深堀りせんとする宣教師。その態度に怒りを買われたことはないのだろうか、呆れられたことはないのだろうか。そう突きつけられても仕方のない態度に、デニス翁は顎を撫でながら、表情を変えることなく淡々と言葉を続けた。
「結論から言ってしまえば、当たりましたな」
「────今から話すことは、御伽噺でも、老人の妄言でもありません。実際に私がこの目で見て、心に刻んだ過去の話なのです」
デニス翁はシードルを一気に飲み干すと姿勢を正し、鋭利な眼差しで宣教師を見つめる。
「どうか、この話をお忘れにならないでくだされ」
・・・
時は少し経ちまして、フロレンティーナ様が12歳となりました頃でございます。数年前と比べますと、お転婆な態度は些か鳴りを潜め、淑女の雰囲気も纏い始めておいででした。刺繍もすっかりお上手になり、私から教えられることも数える程となったところ。唯一気にしておいででしたのが、身長が思ったほど伸びなかったことでございました。
「まだまだ伸びるわよね……!?」
旦那様や奥様を始め、不安を拭うように私や使用人たちに毎日お尋ねになっておられましたね。「まだ伸びますよ」と皆で宥めては奮い立ったように背が伸びる(とされている)運動などを試しておいででした。なんとも温和で、穏やかな日々でありましたな。
それもあの日が訪れるまでは、でございますが……。
ある日の午後でございます。私は奥様とお嬢様のためにお茶を淹れようと準備しておりました。その日は一日中、どんよりした暗雲が立ち込めておりましたので、屋敷の中は薄暗く不気味な様相を呈していたのです。奥様方にはせめて朗らかな午後を過ごして頂きたいと茶葉を選んでおりますと、不規則な足音が私の後ろから近付いて来たのでございます。
「デニ、ス」
聞き慣れた声に振り返りますと、そこにはお嬢様がおりました。ただし足取りはふらふらと乏しく、呼吸は見るからに荒いのです。私は急いでお傍に寄り、額に手を当てました。─────手のひらから伝わる、尋常ではない体温。ただの風邪では決して届かぬであろう高熱にお嬢様は侵されておりました。
「お嬢様、いったい……」
体調不良であることは既に理解しているというのに、なぜこんな質問をしたか疑問に思われたでしょう。それは午前のお嬢様がいつも通り元気に過ごしておられたからでございます。だというのに、こんな急に体調を崩すには何か理由があるのではないか。そう考えたのです。
「ネック、レスで……指を、切っちゃって……何か、ヘン……なの……」
ぜぇぜぇと息も絶え絶えで人差し指をお見せになられますと、ほんの少しのひっかき傷から血が滲んでおりました。武器に塗布して扱う毒のようなものも考えましたが、わざわざネックレスに塗ることなど非効率的でしょう。ひとまず、私は使用人たちに濡れ布巾の用意と奥様への伝言を頼み、お嬢様の自室まで抱えて運ぶことと致しました。
「ああ、フロレンティーナ。どうか無事でいて……」
「おかあ、さま……わたし、よく、なったら……。お父様、と……お出かけ、したいわ……」
ベッドの傍らで、奥様の啜り泣く声が響きます。荒い呼吸を繰り返し、苦しそうに胸を上下させるティーナ様を案じるように、その小さな手を奥様は両手で包んで神に祈っておいででした。しとしとと降り始めた雨と、啜り泣く奥様の声。私どもに出来ることは、ただお嬢様の回復を祈ることばかりでした。
「フロレンティーナ!」
ダニエル様が帰っておいでになられました時、あの人のあれほど焦燥しきった顔は─────。
・・・
デニス爺は言い淀む。言葉を詰まらせたが正しいか、きっとダニエルに関して思うことがあるのだろうと、宣教師は勘ぐった。
「続けていいよ。僕は気にしないからね」
「ほほ、こちらの方も労わって欲しいものですな」
皮肉めいて乾いた笑いを零し、短く息を吐きだして再び語り始めた。
・・・
とにかく、お二方含めて屋敷の使用人たちはお嬢様の身を案じていたのでございます。村医者もお手上げ、ただ峠を越えるまで支えることしか出来ないもどかしい時間が過ぎていったのでした。あれほど1日が長く感じたことはそうありますまい。
ところが、です。神の軌跡か思し召しか、ティーナ様の体調は翌日にはすっかり良くなっておりました。昨日の危篤な状態はどこへやら、活力の漲るいつものお嬢様が帰ってきたのです。皆それぞれ胸を撫でおろし、娘を天へ連れて行くことを思い留まってくれた感謝の祈りは、未だにどんよりとした厚い雲に吸い込まれていきました。
その晩、親子揃っての晩餐が行われました。ダニエル様は翌日からまたお出かけになられるとのことで、お嬢様の回帰祝いも兼ねて豪勢な食事が出る予定だったのです。そこで出された前菜のスープが、すべての始まりでした……。
・・・
「宣教師様は、貴族がなぜ銀のカトラリーをお使いになるかご存知でしょう?」
「うん、銀は毒物に反応するからだろう?」
「その通り。なら、これから語ることに察しはつきますでしょうな」
・・・
シュミット家の方々がスープを掬い、口を付けようとしたその時でございます。私はティーナ様の銀スプーンがどす黒く変色していることに気づき、「お嬢様!」と素っ頓狂な声を上げました。
「そのスープを飲んではなりません!」
びっくりして固まるお嬢様からスプーンを取り上げますと、旦那様が険しい表情でズカズカと近づいて来たのです。
「デニス! いったい何を────」
旦那様は変色したスプーンを見やりますと、その顔を怒りと猜疑心に染め上げました。震える拳でナイフを引っ掴み、未だ状況を把握しきれていないお嬢様を置いて厨房へと向かっていったのです。冷静でない旦那様を案じ、私も後に続きました。
「料理人共、そこへ直れ!」
安寧を切り裂く怒声が厨房に響きます。旦那様は状況を把握しきれず、膝をつく料理人たちの周りを囲うようにゆっくりと歩いておられました。石畳を叩く革靴のコツ、コツという音がまるで獲物を狙う肉食獣のようでありました。
「娘のスープに毒が入れられていた。我がシュミット家のフロレンティーナを狙って! どこの家門の差し金だ! 今すぐ名乗り出れば、騎士の名に於いて『多少は』楽に殺してくれよう!」
ヒステリックに叫ぶ旦那を後目に、私も目を光らせます。毒の混入が可能なのは、調理と配膳まで行う料理人たちのみなのです。彼らの怯える姿は真に迫り、誰もが無実であるように見えました。今思えば、彼らは本当に無実であったのかもしれませんが……。
それから旦那様は、一人の新人に詰め寄りました。彼は以前まで別家門の下で調理人をしていた身でありました。彼は動機のない者たちの中から、憐れにもそれらしい容疑者に仕立て上げられてしまったのです。あの時、私がいくらか冷静であれば旦那様の尚早な行いに一言申せたかもしれません。ですが私も気が気でなかった故、旦那様を止めることは叶いませなんだ。
結局、新人の男は『別家門の差し金である』という烙印の下、旦那様の手にしたナイフで喉をゆっくり切り裂かれてしまいました。最後まで無実を訴える彼の声に誰も応えません。庇ったところであらぬ疑いをかけられるのは必然でありましょう。私はただ、悲痛と絶望の広がり青ざめていく彼の顔から目を背けることしかできませんでした。
結局、晩餐は最後まで行われることはありませんでした。その日は各々の自室で、旦那様が監視の元に私共が作った軽食をお食べになりました。
「ねえ、デニス……」
食事を運び、部屋を出ようとする私にお嬢様はまだ動揺を隠せない声で語り掛けます。
「私、何か悪いことをしちゃったかしら……」
「そんなことはございませんよ。ティーナお嬢様が行う悪いことなど、座学をサボろうとするぐらいでしょうから」
敢えて冗談めかせて、お嬢様の気を紛らわせようとしたのを覚えております。お嬢様は怒ったような顔の後、小さく微笑んでみせました。
「まぁ酷い人。明日の座学も休んでしまおうかしら、殺されかけちゃったし?」
「スケジュールに変わりはありませんよ、今日はゆっくりとお休みになってくださいませ」
背後でベッ、と舌を出されたのを感じながら、私はお嬢様の部屋を後にしました。
そして後日……ああ、酷いことですが、薄情者と言われてしまっても構いません。当時の私はきっとお嬢様は天に見放されてしまったのだと考えてしまったことがあります。それもそのはず、お嬢様のカトラリーが再び黒く変色してしまったのです。旦那様は訝しみました。なぜならその日はダニエル様の監視のせいで毒の入れようもなかったからであります。
ですが私は見てしまったのです。スープを掬う匙の部分からではなく、お嬢様の手元から変色していく様子を。見間違えであったと、そんなはずはないと繰り返して自身に聞かせました。お嬢様が毒に触れることなどありえませんし、仮にお嬢様が原因であるならば新人の男の死はまったくの無駄であるなどと……そんなことは、当時の私には認められませんでしたから。
────私は『あのペンダントの呪いなのでは』とまで勘ぐっていました。
お嬢様は呪われてしまったと。
・・・
デニス翁のジョッキを持つ手が震える。当時の心境を思い起こしたせいか、やや動悸すら覚えていた。しかし彼の語る話の峠は今ではない、彼が見せる動揺はこの先を語ることへの躊躇いだ。短い静寂の中で宣教師は短く唸ってから口を開いた。
「……僕は神父という訳ではないけど、懺悔の一つや二つぐらいは聞こうじゃないか。なぁに、口は鉄器並に固いさ」
瞼を閉ざしたデニス翁は口をもごもごとさせて、些かの躊躇を溜息と共に吐き出す。
「この話は、あなたにこそ相応しいでしょう。どうか憐れな老人の話を、聞いて行ってくだされ」
・・・
不可解な出来事はそれからも起こり続けました。原因不明の女中の体調不良、家屋の軽微な腐食、気が触れる先ぶれかと錯覚させる軽微な幻覚症状の報告。芳しくない体調は流行り病であるかもしれません。しかし女中との接触、お嬢様がお触れになった場所、ほんのりと薫る甘い香り……。それらに関わるお嬢様が発端であることなど、奥様、旦那様、私などは薄々気づいておりました。それはお嬢様自身もおわかりになっていたのでしょう。お嬢様は必要な時以外、私共と顔を合わせることが少なくなっていましたから。
ある日のことでございます。執務室の前を通りますと、旦那様と奥様がお話になっているのが聞こえてまいりました。
「今度の遠征にあの子を連れていこうと思う。私に着いて外を見回るのは良い刺激となるだろうから、な……」
「ええ、そうね……。この頃は塞ぎ込みがちでしたから、きっと喜ぶと思うわ。あの子もあなたと出掛けることを望んでいましたし、外の世界を広く知る子になって欲しいものね」
奥様の我が子の未来を見据える声とは対照的に、旦那様の声はどこか淀みが含まれておりました。それが意味するものに、当時の私が気づけたらどれほど────。
遠征当日。めかし込んだお嬢様は、浮足立って馬車の傍らに立っておいででした。そわそわと私の近くを行ったり来たり、髪を弄ったりと興奮冷めやらぬと云ったご様子でした。
「デニス、私がいない間にお腹とか壊しちゃダメよ……!」
「お嬢様こそ、出先でお怪我などされませんように」
以前のような、やや快活な様子を取り戻しになったお嬢様に軽く微笑んでみせますと、クスクスと小さく笑うのでした。
そうして馬車の御者と旦那様は何やら会話を終えますと、出発の旨を伝えに奥様の方へと近づいてまいりました。どこか表情に影を落とした旦那様はただ「行ってくる」と、そう告げて馬車の中へと入っていきました。
「フロレンティーナ、たくさん見て学んできなさい。貴女は私に似て聡明な子のはずなのだから」
「ええ、お母様!」
ティーナ様は奥様と抱擁を交わし、馬車に乗り込みます。窓から顔を覗かせて、未知の世界への期待を胸に抱く御姿には眩しさすら覚えました。
「それではティーナ様、此方を」
そして私は旅路を祈り、組紐のチャームをお渡したのです。この旅路を不安に思った私が、夜なべして編んだ物ものでございます。髪留めにも使えるだろうとも思いましてな。
「それじゃあ、行ってくるわね。みんな!」
開け放たれた鉄門を潜り、旦那様とお嬢様を乗せた馬車はお屋敷を離れていきます。しかし、あれほど朗らかな別れをしたというのに、私の胸中には言いようのない悪寒が渦巻いておりました。馬車が点となって消える頃には、気のせいであろうと誤魔化しておりましたが……。
・・・
「で、その何度も言っている悪い予感っていうのは?」
宣教師はシードルをちゃぷちゃぷと揺らす。どうにもじれったさが隠し切れていない。デニス翁がわざと回りくどく話しているようにも思えたからだ。その感覚は間違っていなかったのだろう、デニス翁はポツリと溢すように確信へと切り込んだ。
「二年でございます」
「何がだい?」
「お嬢様がお帰りになるまで、二年以上が経ったのでございます」
デニス翁の喉奥から絞り出した、積年の想いが灰色の部屋に吐き出された。
・・・
旦那様がお戻りになったのは半年後でございました。帰りの日程を手紙でお知らせになられた時には、お二人を盛大に迎えようと奥様と話し合ったものでございます。私どもはいつかのお嬢様のように、窓を眺めて馬車のご到着をお待ちしておりました。そうして夕闇の中で、ゆらりゆらりと不気味に揺れるカンテラが馬車の接近を伝えます。
敷地に入り、馬車から降り立った影が一つしかないことに僅かな不安を抱いた私は、背を向けたままの旦那様と相対いたしました。
「おかえりなさいませ……。旦那様、ティーナお嬢様は如何されたので?」
カンテラの炎に揺られ、ダニエル様の顔がゆっくりとこちらに向けられます。私は思わず息を飲みました、そのお顔はまるで亡者のように青白くあったからです。生気を感じさせない蒼白とした顔をゆらりと揺らして、うわ言を零しました。
「ティーナなどという者は、我が家門に────存在しない」
「は……?」
言葉を失いました。脳が理解するのを拒みました。私は思わず「喧嘩でも為されたのですか、近くに降ろされたのですか」と情けない声で質問を投げかけていたはずです。ゆらゆらと幽鬼のように揺れる足取りを止めて、振り上げた刃を思わせる鋭い瞳が私を貫きました。これ以上の言及は許さないと、質問を投げかけることは許さないとでも言いたそうな……。私はその場に縫い付けられてしまい、情けないことに屋敷へと戻る旦那様に言葉を続けることはできませんでした。
「あら、お帰りなさいダニエル。……どうしたの、今にも死にそうな顔をして。ティーナにイタズラでもされたのかしら」
廊下にて旦那様と遭遇したシャルロット様はお嬢様の影を探して、旦那様の後ろを覗き込んでみせますが当然そこにはおりません。首を傾げてみせる奥様に、私は心苦しいながらも震えた声で耳打ちしたのです。
「ぉ、奥様。お嬢様は……」
途端、みるみると奥様の顔は怒りに染まっていきます。しかし言葉は冷静に、問いただす為に冷静を装った言葉を紡いでみせます。
「ダニエル、あの子は近くにいるの?」
「答えなさいダニエル。どこに、あの子を、置いて来たの?」
穏やかなシャルロット様があそこまで鬼気迫る表情をなさるとは想像だにしませんでした。お嬢様と同じ赤い瞳で睨みつけ、未だに一向に答える気のない旦那様に痺れを切らし、奥様は襟首を掴んで壁に叩きつけます。身を任せる旦那様は、我々を見下すように力ない視線を投げました。
「────ヤツは、魔女は、ひたすら遠い地へ置いて来た」
平手打ちがダニエル様の右頬を捉えます。乾いた音が廊下に響き、静寂の中には奥様の怒気の含んだ息遣いが聞こえるのみでした。
「この、人でなしッ!! 今すぐに場所を言いなさい。でないと、今度はあんたの首を掻き切って……!」
「知らん。ひたすら御者が選んだ土地を転々として、4か月してからヤツをそれらしい町へ置いて来た。名も知らぬ土地だが、そこそこ栄えていたからなぁ。しばらく生き抜くことはできよう」
まるでそれが、慈悲とでもいうように旦那様はどこか遠くを見つめておいででした。ならば御者を問いただせばとお思いでしょう。ですが、その御者というのもわざわざ別の土地の者を選んでおいでで、荷を降ろした瞬間には早々に敷地から出て行ったのです。奥様は腹立たしくも巧妙な手口に苛立ち、旦那様を放り投げました。無気力に倒れるダニエル様に蔑視を飛ばし、ズカズカと執務室へと奥様はお戻りになろうとしていましたのでその背中を追いますと、自暴自棄となったダニエル様の声が廊下に木霊するのです。
「この家がなんと呼ばれているか知っているか! 魔女の棲む家だ! ハハ、フハハハハッ!」
「ティーナは、娘は、魔女ではありませんッ!」
……シャルロット様もご存知でした。近頃の市井ではシュミット家が魔女を抱えているとの噂が流れていたのです。料理人が消えたり、使用人が病にかかったり。それらは魔女であるフロレンティーナ様の仕業であり、シュミット家は神の教えに反した冒涜的な行いをしていると。
市井との不和は統治者にとって大きな問題でありました。そのため長く土地を統べていたシャルロット様はいずれ誤解は解けるだろうと、フロレンティーナ様が民に害を成す子ではないことを示そうと落ち着いた視座をお持ちでした。それに対し、地位をお築きになった当人であるダニエル様は家門の揺らぎを見過ごせなかったのやもしれません。余裕を失い、焦りに覆われたその瞳は一族の宝であったお嬢様を邪魔者として映してしまったのでしょう。同情こそ致しますが、彼の行いに擁護する気などありません。短絡的な道を選んだあの方に待ち受けるのは破滅であったからです。
あれから数ヵ月が経ちました。旦那様は何かに怯えてめっきり外に出ることは無くなり、屋敷に籠ることが多くなりました。一方の奥様は考えうる手でお嬢様の行方をお探しになっておりましたが、芳しい成果は一向に上がりません。屋敷にて病に伏せる者はいなくなったものの、お嬢様が欠けて活気を失った屋敷はまる時が止まったように静謐としたものでした。我々はフロレンティーナ様を通して、彩りのある世界を見ていたのかもしれませんな。
そうしてまた数ヵ月が経ち、一年となりました。屋敷はほんの少しだけ明るさを取り戻しました。それはシュミット家に新たなご家族が加わったからです。お名前はフェリシア様。シュミット家の次女でございます。ですが残念ながら、お労しいことでございましょう。旦那様は世継ぎである男子をお望みであったと同時に、ティーナ様と同じ赤い目をお持ちになっていたのが原因でしょうか、我関せずといったご様子であったのです。そんな境遇に置かれましても奥様はお強い方でした。フェリシア様にティーナお嬢様を重ねて見ているのは間違いございませんでしたが、確かに愛情を持って接しておいでだったのです。すくすくと育ちゆくフェリシア様は屋敷に新たな色彩を呼び込んで、かつての華やかだった屋敷が徐々に姿を取り戻していく……はずだったのです。
それからまた1年。その日はやってまいりました。
私が庭園を整えていた時の事、雲間から太陽の覗く穏やかな日でございました。日中の雑務を終わらせ、フェリシア様に必要な用品を揃えねばと考えていたところ。
ガシャンッ
振り返ると、鉄柵を揺らす何かがおりました。頭までボロを纏ったそれは縋るように格子を掴み、庭園を舐めるように見回しておりました。当然、不信感を抱いた私はそれに近づこうとすると摩れた赤い瞳が私を射抜きました。あり得ないモノを見たと呆然とする私に、あの方はしわがれた声で語り掛けます。
「デ、デニス……! 私よ、フロレンティーナよ。帰って来たわ!」
「ぁ、ああ……お嬢、さま……!?」
感極まった動揺で内鍵に伸びる手が、ある心配と杞憂に阻害されます。まず一つは旦那様のこと、もう一つはフェリシア様のことです。お嬢様は旦那様にとって邪魔者でしかなく、帰還を歓迎されることはないであろうということ。そして私共がフェリシア様にかまけて、お嬢様を一時であるにしても思考の隅に置いやったこと。それらを思い返すと自身に対して遺憾の思いが溢れるというもの。どこかでお嬢様を諦めていた自身が恨めしくて仕方ありませんでした。
「……お、お父様ったら、ひ、酷いわよねっ。こ~んなに大切な、に、荷物を置いていっちゃうなんて。ここまでの冒険は、た……大変だった、のよ?」
そう語るお嬢様の顔にはぎこちない笑みが張り付いていました。瞳からは光が消え失せ、長髪にツヤはなくボロボロ、足は目を覆いたくなるほど擦り切れておりました。お嬢様がここに至るまで、どれほどの苦難に見舞われたのかは想像もできません。
「だから、開けて、デニス」
「はやく」
お嬢様の格子を握る手に力が籠り、『ギィ……』と不穏に軋みます。以前の朗らかなお嬢様から感じられるはずもない、僅かな害意の混じったプレッシャーが私を硬直させたのです。その様子に苛立ちを隠せないお嬢様は、私から視線を外して屋敷の方へと向けました。そこには偶然にもこちらを覗きになっていた奥様がいたのです。フェリシア様を抱え、心配そうにこちらを眺めておいでだったようですが……。
「あれ、お母様ね。元気そうでなによりだわ。あとは、ねぇデニス?」
「あの子は、だぁれ?」
奥様の腕の中で眠るフェリシア様の存在に、お嬢様は薄々気づいておいででした。ただお嬢様は確証を得たいが為に、私に尋ねたのです。ただ、私はこう答えるしかありませんでした。
「あなたの、妹君でございます……」
「そ、そう……」
息を飲んで、言葉を詰まらせます。私が推し測るのもおこがましい事ですが、きっとお嬢様の中では様々な思いが逡巡し、葛藤が脳を駆け巡っていたことでしょう。自身が不在の間に、その席に変わりの者が居座っていた時の気持ちなど……。
それからしばらくの間、俯いていたお嬢様は格子から手を離して作り笑いを再び浮かべたのです。
「きょ、今日はやめておくわ。ちゃんと身なりを整えてから帰ってきたいし、デニスからお母様とお父様にも知らせてあげなきゃ、でしょ? こんな汚い恰好じゃ、可愛い妹ちゃんを怖がらせちゃうかも、だし」
今にも泣きそうな声で、お嬢様はボロを深く被り顔をお隠しになりました。情けないことに、私はかける声も見つからず、ただ「いつ戻られるのですか」と問うことしかできません。
「そう、ね。まだわからないけども……」
その時です。屋敷の玄関がけたたましく蹴破られました。反射的に振り向きますと、険しい顔を浮かべる旦那様の姿がそこにはあったのです。
「一歩たりとも! 魔女が敷地を跨ぐことは許さんっ!」
どこからか見ておられたのでしょう。そして感じ取ったはずです。かつての行いが裁かれる時が来たのだと。
旦那様は声を張り上げて威嚇されておりました。けれど、玄関から離れることはありません。恐れを抱いていたからです。
「ああ、やっぱり……」
底を這うような、冷え切った声がお嬢様の声から漏れだします。失望と落胆、僅かに抱いていた親の愛への期待を容易く裏切られたショック。それらが大粒の涙となってボロボロと頬を伝っておりました。
「私を、捨てたのね!?」
────私はあり得ざる光景を目にしました。鉄格子を再び掴んだお嬢様の手から煙が上がっていたのです。そして『じゅぅ……』と音を立てて鉄格子を融解させますと、子供一人は通れるスペースを作りお嬢様はゆらりと敷地に踏み入ってきました。
一歩、また一歩。擦り切れた足を引き摺って、青々とした芝生が怨嗟によって枯れていきます。
二歩、そして三歩。近づていくお嬢様から逃げるように、旦那様は屋敷へと退いていきます。
ギシッ、ミシリッ、ギシシッ……
お嬢様が屋敷へと帰還なさりますと床板すらも腐食が始まります。久しぶりの我が家を見渡す視線は、復讐に駆られて獲物を求める動作そのものでありました。そしてその獲物は、とある得物を持って立ち塞がります。
「我が家の恥は、俺の手で葬らねばならないか……っ」
刀身が炎のように揺らめく刀剣。その名は『フランベルジュ』。かつて私が廊下に立てかけていた刀剣を、旦那様は我が子に向けていたのでした。睨み合う父と娘の間には愛情など介さず、ただ憎悪のみが渦巻いておりました。
「アハ、ハハハ。は、恥? 恥、ですって? 私がいつそうなったの、望んでなった訳じゃないのに!」
「フロレンティーナ!」
乾いた笑いと悲痛な叫び。失望の中に、どこか救いを求める声に応える者がおりました。最後までお嬢様の味方であった、シャルロット様です。フェリシア様を抱え、顔は蒼白とさせながら旦那様の前に立ちはだかったのです。赤く、鋭く、咎める為に研ぎ澄まされた瞳に、旦那様は刀剣を振り上げたままたじろぎます。
「そこをどけ……! 汚点はここで排除せねばならないっ!」
「よくも我が子に向かって……! ダニエル、あなたこそ怪物よ!」
「黙れェ!!」
柄で押しのけられた奥様は大きく体勢を崩し、危うく怪我をするところを私が支えることには成功いたしました。しかし、ダニエル様の刃はお嬢様の右肩口に向かって振り下ろされて────深く、刃が沈みこんだのです。
フランベルジュの刃は肉を切り裂き、出血を強いる刀剣。肩口から噴き出した鮮血が灰色の壁や旦那様を鮮やかに彩りました。その光景に奥様は思わず金切り声を上げ、気を失ってしまわれます。
「ク、ハハハ! 魔女とは云えども血は赤いようだな!」
旦那様は完全に気を違えておいででした。いつからか妻子への愛を完全に捨て去り、過去に執着するばかり。それらを断ち切るために、フランベルジュの刃が更に押し込まれてお嬢様の肉と骨を裂かれるグロテスクな音と、娘から生まれる苦悶の呻きに、悦すら感じていたように思えました。
「……ッ。ふ、ふふ。 もう、名前も呼んでくれないのね」
お嬢様は一歩踏み出します。同時に刃も滑り、グシャリとグロテスクな音を立てて肉を裂きます。
更に一歩。そして更にもう一歩。滴る血が旦那様に迫り、悦に浸っていた表情は恐怖に染まっていきました。
「ねぇ、無理やり歯を引き抜かれたことはあるかしら? 刃が少しずつ喉や舌を切り裂いていったことは? 身体の一部を切り取られて、口に押し込まれたことはどうかしら?」
「ありがとう、お父様。あなたのお陰で外のことはた~くさん学べたわ」
「しばらくは見世物小屋にいたのだけれどね」
いつの間にか、フランベルジュの刃がグズグズと融解して『ゴトリ』と粘着質な音を立てて血溜まりに沈みます。あまりに異様、悪魔が見せる夢や幻のような光景が繰り広げられていました。すっかり腰の引けた旦那様は尻もちをついて、冷え切った眼差しで見下すお嬢様にうわ言を並べ立てておりました。
「わ、私は間違っていなかった。やはり貴様は魔女なんだ!」
「……本当に可哀想な人。そうだわ、お母様があなたの事を怪物と呼んでいたかしら」
「ならば────」
お嬢様が冷酷な、いたずらな笑みを浮かべ旦那様に馬乗りの体勢になりますと、血に塗れた右手を旦那様の顔に押し当てたのです。
「こわぁい怪物らしくしてあげる! アハハハハッ!」
「や、やめっガア、ギイィアアアッ!?」
無邪気な笑いを上げるお嬢様。そして身を裂くような悲鳴を上げる旦那様の顔が煙を上げて溶けていきます。顔の半分以上は溶け、元の端正な面影も無く、彼は地獄の底から這い出た悪鬼のような容姿となったのです。お嬢様が離れた後も呻き、のた打つ様子を見せていた旦那様はついに痛みに耐えきれなくなったのか意識を手放してしまいました。
「はぁ、さて……」
お嬢様はこちらへ振り向き、ゆっくりと歩みを進めます。全身が血濡れのまま、肩口から絶えず血を流して迫る様には恐怖を抱かざるを得ませんでした。お嬢様は右手を振り上げる素振りみせた瞬間、私は咄嗟に目を閉じて怯えてしまいました。それと示し合わせるように、お眠りになっていたフェリシア様がぐずり泣きを始めたのでございます。
「────っ」
一瞬の間の後『ギッギッ』と床を蹴るような音が鳴ったかと思えば、次に目を開けた時にはお嬢様はおりませんでした。しかし遠くに行った訳ではないようで、赤い足跡が転々と庭園へと伸びていました。私はあの人を追わねばならないと思い、ぐずるフェリシア様を抱えて、お嬢様に一言でも伝えようと後を追ったのです。
……お嬢様はやはり、あそこに居ました。庭に聳える一本の老木、そしてその根元にお嬢様は膝を抱えて啜り泣いていたのです。
「お嬢様」
出来るだけ柔らかく声をかけますと、泣き腫らした様子のお嬢様が顔を上げます。
「デ、デニス……私……っ」
「わ、悪いこと、しちゃったから、ぐすっ、置いて行かれたって……思ってぇ……」
「なっ、仲直りっ。したかったの、お父様とぉ……! ひっぐ……」
その言葉に頷きながら、涙を流してしゃくり上げるお嬢様のお顔を濡れ布巾で軽く拭います。旦那様と相対した時の冷徹さはどこへやら、二年前と同じあどけないお嬢様の顔を覗かせるのです。啜り泣く二人のお嬢様を宥めながら、フロレンティーナ様が落ち着くのを待ちます。徐々にしゃくり上がるのが収まるのと同時に、あれ程までに深かった傷が徐々に再生していくのです。まるで御伽噺の魔法のようでありましたが、当時の私は驚きはしましたが、それほど不思議には思えませんでしたな。少し変わったところがあろうとも、お嬢様はお嬢様でしたから。
「デニス、これから私……どうしましょう……」
膝を抱えたまま、地面を見つめるお嬢様。長旅の末に家へ戻るという結果がこのようになり、呆然自失とされているようでした。このまま家に、という訳にはいかないでしょう。何よりお嬢様がそれを許さないでしょう。家族を傷つけてしまったという事実は、それ程までにお嬢様の心を引き裂いてしまったのです。
私としましてはお嬢様には近くにいて頂きたく、村に隠れ住むことを提案致しましたが、やはり首を横に振られてしまいました。
「ではお嬢様、如何なさいましょうか……」
「……旅に出るわ。私、とにかく遠くへ行きたいの」
地面を見つめていた瞳は空を見上げて、ここではないどこか遠くを見つめていました。
「旅、でございますか。しかし……」
「大丈夫よ。実は二年前からお腹を壊したこともないし、病気にもなってないんだから。傷の治りもほら、早いし……」
お嬢様は安心させようと説き伏せようとしますが、そこはまだ子供。やはり無理に明るく振舞おうとしているのが明け透けでございました。しかしお嬢様の言う通り、普通の子供ではないという事も事実。遠い地からこの屋敷まで帰還なされた手腕もございます。
ですが、やはり……。
「寂しく、なりますな。何より奥様が……」
今生の別れをいざ目の前にしますと、やはり名残惜しさはあるものでございます。腕の中のフェリシア様を揺らしながら、私はシュミット家の今後を憂うのでした。
そんな私をお嬢様が鼻で軽く笑い、フェリシア様を呆れた目で見つめておりました。
「何が寂しくよ。お母様にもその子がいるでしょ、この泥棒猫ちゃんが」
ベッ、と舌を出して冗談めかして柔らかく微笑みます。やはり自分のいない間に、代わりとなっていたフェリシア様のことを気にしておられたようですが、皮肉を交えながら妹への慈愛を示す辺り、優しい方なのでございますな。
「……名残惜しいけど、そろそろ行かなくちゃね」
「お、お待ちください……!」
お嬢様は深く、重い溜息を吐き出してお立ちになられました所を、私は呼び止めます。首を傾げるお嬢様にここで待つように言いつけ、フェリシア様を預けました。
「わ、わ、ちょっと……! この子、私が抱っこしちゃってもいいのかしら!?」
素っ頓狂な声を上げるお嬢様を後に、私は屋敷の中へ急ぎ足で戻って行きました。
およそ数分後、私は再び戻って参りました。左手にはパンパンのトランク、右腕にはお嬢様のお召し物を抱えて。
「ご出立前に、身形は整えていきましょう。シュミット家の淑女として恥ずかしい思いをせぬように」
「わあ……」
前に申しました通り、お嬢様はボロを纏っておいででしたから。その上、旦那様に切り裂かれたせいで殆ど外套として意味を為しておりませんでしたからな。その時の私が出来る最後の奉公として、精一杯の送り出しをしたかったのでございます。
そして、別れの時はやってまいります。
「それじゃあ、デニス……」
お嬢様は軽装の上にケープを羽織り、しっかりとした革靴で地面を踏みしめて、鉄門の前にお立ちなっておられました。未練を滲ませつつも、凛とした佇まいでこちらを向いて────。
「さようなら、今までありがとう! フェリシアはお母様によろしくねっ!」
「ええ、どうかお元気で」
最後にニコリと微笑んで、お嬢様は振り返ることなく、エメラルドの髪を揺らしてお屋敷から離れていくのでした────。
・・・
「さて、老人の長話はここまで。ご感想をお聞かせ願いましょうかな」
デニス翁はゆったりとした足取りで宣教師の元まで近づき、脈絡もなく深くまで被ったフードを引っ掴んで下げた。短い悲鳴が一つ響くのと同時に、なんとフードの下から短く切り揃えられたエメラルド色の髪が覗かせたのだ。
「わ、ちょっと……!」
「お久しゅうございますな、お嬢様。老人を弄ぶのは楽しかったですかな?」
頭を抑えながら、むすっとデニス翁を見上げる宣教師……いや、フロレンティーナ。その姿は髪型以外、つまりはデニス翁が語って聞かせた年齢や背格好、雰囲気までもが当時と変わっていないように思えた。
「も、もう! ちょっとは僕の……私も気持ちも汲んでちょうだい! 今生の別れをしたって話を今したばかりだわ!」
ふんす、と鼻を鳴らして腕を組んでみせる彼女。その仕草は昔のままであるが、デニス翁はその姿にどこかわざと臭さを感じ取った。まるで昔の自分を演じているような、そんな違和感を。
それでも彼は再び暖炉に薪をくべて、かつてのお嬢様の前に椅子を近づけて腰を落ち着ける。いつかの二人の様に。
「まったくもう……。あ、そうだ。その後のシュミット家はどうなっちゃったのかしら。フェリシアはちゃんと淑女になれた?」
「それが、ですね……」
デニス翁が語るに、シュミット家の晩年は明るいものではなかった。フロレンティーナが旅に出た数年の間にダニエルは隠居し、実質的な領主はシャルロットに。フェリシアは十五の時に他家門へと嫁いでいったが、その後の消息が知れず。その後のシャルロットは心労により倒れて、亡くなってしまったとのことだ。その後のダニエルも姿をくらませて、シュミット家は霞むように没落していった。……とのことだ。
「お父様は結局、お母様に全部押し付けてしまったのね……。あれ、でも私の時より詳細じゃないわ。喋るのに疲れちゃった?」
「ああいえ、私は旦那様が隠居なさる前にクビを切られましてな。密かに奥様を支えるつもりでありましたが、新たな生活との両立が難しく……故に仔細は存ぜぬのでございます。情けない話でありますが……」
「あら、そう……。おばちゃんになったフェリシアと会ってみたかったわ。お姉ちゃんはまだこんなに若いのよって」
フロレンティーナはデニス翁が気負い過ぎない為に軽い冗談を交えた。彼のハリの無い口角が僅かに上がるのを見るに、試みは成功のようだ。
束の間の静寂。かつては彩りの少なかった老人の家には、二人だけの華やかな空間が広がる。パチパチと暖炉で小さく爆ぜる火花は、積年の思いで育てられた花が芽吹いたようであった。
「しかし嬉しいものですな。こんな老い先短い老人の元に、お嬢様が現れてくださるとは。私の人生には数々の未練はありますが、その一つは確実に……」
しぱしぱと瞬きを繰り返すデニス翁。彼が纏うのは緩やかな眠気と安心感。酔いが回ったせいか、心地よい酩酊感がフロレンティーナの映る視界を揺らす。彼女はすっと立ち上がると、枯れたデニス翁の手を優しく握った。小さくも懐かしい暖かさ、脳裏に浮かぶのはお嬢様と庭園を駆けたあの日。屋敷を去る後ろ姿。デニスの瞳は、幕を下ろすようにゆっくりと閉じていく。
「デニス、眠いのね?」
「ええ、少し……」
弱弱しい返事が零れる。フロレンティーナはゆっくりとデニス翁の手を引いて、寝床へと横たわらせた。
ゆっくりと意識が沈んでいく。お嬢様の輪郭がぼやけていく。
きっと、私が目を閉じればお嬢様は再び旅へと赴くのだろう。
それを私は眺める事しか出来ない。旅の一助となることはもう難しい。
無念。私は最後まで情けない────
「いいえ、デニス」
「あなたは最高の────」
────デニス翁は安らかな表情を浮かべ、一言だけ呟くと、意識をゆっくりと閉ざしていった。
「どうか、お元気で」
・・・
後日、村ではささやかな葬式が行われた。老人に親族はいなかったが、参列者の数はそこそこのものだった。彼らは生前の彼に世話になった者が多く、彼の人徳がどれほどの物だったを如実に表していた。きっと本人が見れば驚いたことだろう。
……棺に眠る老人の手には古びたチャームが握られていた。色はすっかり褪せてボロボロであったが、かつては丁寧だった編み込みがどれほど大切な人に向けて作られたものかを物語る。その想いと共に、老人は永い眠りにつくのだ。
その葬式を、遠目に眺める者が一人。宣教師を名乗る小柄な少女が、潤んだ瞳を拭って踵を返す。
見送られたからには、相応に生き続けなければならない。少女は赤く腫らした目元を前に向けたまま、まだ見ぬ世界へと一歩踏み出した。
History of "Dreadful" みやBん @miyabi_sy
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