第5話「双子の登場と古の予言」

【前回のあらすじ】

緋滅組の真実を知った桐人とさくら。大宮家が代々務める対吸血鬼組織の隊長である爺さんから重要な話を聞いている最中、突然の訪問者が現れた。

———————————————


俺とさくらが爺さんを見ると、爺さんが頷いた。


俺たちは来客者の対応に向かった。



門を開くと、そこにはおそらく双子だろう、顔がそっくりの二人の女の子がいた。



身長は150センチくらいと小柄で、おかっぱ頭————ボブというよりはやはりおかっぱというのが似つかわしい雰囲気で、前髪に5センチ幅で白いメッシュを入れている。



「小梅と小菊ではないですか。どうしてこんな時間に?」



「「さくら様、こんばんは。お館様に呼ばれて参りました」」



さすが双子、声がピッタリ揃っていた。



後ろから爺さんが大きな声で言った。


「花房の二人を拙が呼んだのじゃ。二人は事情を既に知っておる」



「二人は緋滅組の事、既に知っていたのですね」



「「はい、さくら様。頭領から聞いておりました」」



「えーっと、二人はさっき話に出ていた、大宮家に仕える御庭番の花房家の人って事でいいのかな?」



二人は顔を見合わせたかと思うと、くるりとこちらを向いた。



「桐人先輩、花房小梅です。今から稽古をつけてください」


「桐人先輩、花房小菊です。今から稽古をつけてください」



「ああ、いいぜ。二人は双子なんだよな」



俺が尋ねると、また二人は顔を見合わせた。



「あら、見たら誰でもわかる事をわざわざ聞いてきましたよ、小菊さん」


「なんの捻りもない話のとっかかりですわね、小梅さん」



(うわあ、初対面でいきなり毒を吐くな、この双子)



こんなやりとりをした後、くるっとこちらを見て、



「前髪の右側に白い部分があるのが小梅で」


「前髪の左側に白い部分があるのが小菊です」



「ああ、わかりやすいね」



すると、また二人で向き合った。



「桐人先輩には髪よりも、大きい方が小菊で、小さい方が小梅と言った方が良かったのでは?」


「あら、小菊さん、私に喧嘩を売ってるのかしら?」



小梅が眉をひそめる。


「さくら様と比べれば、私たちの差なんてあってないようなものですわ。でもこのクズ男にはその方が覚えやすいのかしら」



「さっきの髪の説明でちゃんと覚えたから、初対面でいきなりクズ男ってのはやめてもらえると嬉しいかな」



「こう言ってますが、どうしますか? 小梅さん」


「どうしましょうか? 小菊さん」



(なんだこの二人、俺の評価が既に決まってるみたいじゃないか)



「ええっと、まあそのままでもいいや。二人で打ち込んでもらって、俺が受けるって事でいいかな」



「あら、このクズ男自信満々ですわ、小菊さん」


「『井の蛙もって海を語るべからざるは、虚に拘ればなり』ですわ、小梅さん」



(なんか難しいことわざまで出てきたぞ。この双子、只者じゃないな)



     *  *  *



道場に戻り、稽古が始まった。


二人はあまり見たことのないスタイルで連携もよく、最初は少し驚いた。



(速い! しかも二人の呼吸が完璧に合ってる)



だが、二人の竹刀が俺の身体に触れる事はなかった。



「二人は強いね。何流なの?」



「稽古の前にきちんと自己紹介したのに、雑に『二人は?』ですって? 小梅さん」


「ひどいですわね、小菊さん」



「ああ、ごめん、ごめん。君が小梅ちゃんで君が小菊ちゃんだよね」


俺が指差すと、二人の表情が固まった。



「この男、前髪じゃなくて、防具を外した私たちの胸元を見て名前を言いましたよ、小菊さん」


「はい、確かに見られました、小梅さん」



(だって、あんな風に言われたら気になるし、振りかなって思うじゃん)



俺が上手く言葉を返せないでいると、



「このクズ男、さくら様だけでは飽き足らず、私たちの事まで見ましたわよ、小梅さん」


「ええ、小菊さん。でも大抵は私よりも小菊さんの方を見られる事が多いのに、同じくらい私の方も見てましたわよ」



「あら、嬉しいのかしら、小梅さん」


「いーえ。鳥肌ブツブツですわ、小菊さん」



そう言って、小梅は自分の二の腕をさすった。



(この双子、毒舌だけど妙に息が合ってるな。それに実力も相当なものだ)



その後、俺は定期的に水前寺館に稽古に来るように爺さんに言われた。


花房の双子も、俺の訓練相手として度々顔を見せることになるらしい。



「坊主、明日以降週に二回は稽古に来い」


爺さんの表情が真剣になった。



「お前の身体の変化、もう少し詳しく調べる必要がある」



(やっぱり、俺の変化に気づいてるんだな)



爺さんの言葉には、いつもと違う重みがあった。



     *  *  *



【深夜の大宮家の蔵にて————大宮秀豊視点】


薄暗い蔵の中、古い巻物や書物が整然と並ぶ中心で、拙は一つの影と向き合っていた。



「秀豊、予言の書を持て」



低く響く声に従い、拙は奥の棚から古い巻物を取り出した。



『~予言の書~


聞け、蒼天より響く声を。星々の定めに刻まれし言葉、汝らに告ぐ


災厄は世を覆いし時、五つの地にて兆しを告げんとす


東の海荒れ狂う時、すなわち三陸の地は揺らぎ、火の国は目覚めん


肥後の地、轟きと共に裂け、陸奥よりさらに北の大地、雪崩と共に沈まん


能登の国は土砂に呑まれ、日向灘は怒り狂う竜のごとく荒れ狂う


五つの災厄、世を滅ぼさんと地に満ちる時、希望の光、火の国より生まれ出でんとす


その者、いずこより来たるや、定かには非ず


されど、その力は災厄を打ち払い、世に光をもたらすであろう』



巻物を読み終えた拙が顔を上げると、影の中から声が響いた。



「三陸の大地震に始まり、熊本、北海道、能登、そして日向灘と予言通りの地震が起き、妾の目が覚めた」



「はい」



「この予言通りだとすると、災厄が迫っておる」



影がゆらめいた。



「血染めの爪牙どもの動きが活発になるのであろう」



拙は巻物を大切に巻き直しながら答えた。



「拙はこの火の国より生まれ出るとされる希望の光は、さくらの事だと思っておりましたが、もしや————」



「ふむ、可能性はあるのう」


影の声に思慮深さが滲む。



「いずれにしろ、其奴は一番隊に入れる他なかろう」



蔵の中に静寂が戻った。



古い予言が現実となり、運命の歯車が動き始めていることを、二人は確信していた。


【次回予告】

翌週、さくらの剣道部の後輩である一年生・絢音が桐人に接触する。さくらに強い憧れを抱く彼女は、水前寺館で稽古をする桐人への嫉妬心を隠さない。剣道部での稽古を通じて、桐人の実力を認めざるを得なくなる絢音。しかし、その瞳に宿る複雑な感情は、新たな波乱を予感させていた。


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