第2章「高校2年進級 ボーイミーツガール?」

第1話「美少女剣士と暴力従妹」

【前回までのあらすじ】

視線の呪いを制御するため、カメラアイと周辺視野を身につけた桐人(きりひと)。しかし、女子からは相変わらず敬遠されていた。中学に進学し、男友達はできたものの、女子との関係は改善されないまま過ごしていた。

—————————————————


中学を卒業して高校に入った。


少しは周囲との関係も好転するかと思ったが、現実は甘くなかった。



俺は相変わらず"視線の呪い"のせいで変態扱いされる。


女子からはひそひそと避けられていた。



(まあ、もう慣れたけどな)


噂や陰口はもう慣れたものだ。



何より"通報"されていないのだからギリギリセーフ。


そう自分を納得させていた。



昔と違ったのは、男友達ができたことだ。


バスケ部の山本とサッカー部の木下。


バカ話ができる仲間たち。



ただ、山本や木下には彼女がいた。



(俺は女子には興味ねえから別にいいけど)



そう、俺は女子に興味なんてなかった。


本当に。


絶対に。



     *  *  *



中学を卒業した春休み。


同居していた祖父母が相次いで亡くなった。



あまりにも突然の別れだった。


その大きな家には、従妹のユリの一家が隣町から引っ越してきた。



「桐人(きりひと)も一緒に住もう」



叔父さんと叔母さんは優しく言ってくれた。



でも————


(同じ高校に通うユリと一緒に住むのは、なんか気まずいだろ)



あの呪いの始まりを知っている唯一の人物。


それに、相変わらず暴力的だし。



俺は敷地内にあるアパートの1室で暮らすことにした。



     *  *  *



春の柔らかな日差しが教室に差し込む。



高校二年生のクラス替え初日。


知らない顔と見慣れた顔が交じり合い、誰もが新しい関係を探り合っている。


教室はざわめきに包まれていた。



そんな中————


教室の扉がゆっくりと開いた。


瞬間、教室が一瞬で静まり返る。



(なんだ?)



そこに立っていたのは、息を呑むほどの美少女だった。


艶やかな黒髪が背中までまっすぐに流れている。


切れ長の瞳は凛として、その立ち姿には独特の気品がある。



まるで時代劇から抜け出してきた姫武者のような————


(うわ、マジか……)



「誰だ、あの子……」


誰かが呟く。



「大宮さくら。知らないのか?」


別の声が答えた。



「高1の時に剣道インターハイ優勝。家は江戸時代から続く道場なんだってさ」



「マジか、全国制覇かよ」



「しかも美人で巨乳とか、最強じゃね?」



剣道? 道場? インターハイ優勝?



(へー、すごいな)



でも俺の意識は別のところに————


(だめだ、また呪いが……!)



     *  *  *



彼女が教室の中へと進み出る。


一歩、また一歩。



その度に————


(揺れる……めちゃくちゃ揺れてる……!)



制服のブラウスが今にも弾けそうだ。


ボタンが悲鳴をあげている。


いや、もはや物理法則に反しているレベル。



(なんだあの質量兵器は……)



俺の全神経がその揺れに釘付けになった。


視線が磁石のように吸い寄せられる。



抗えない。


呪いが俺の意志を完全に無視している。



(やばい、完全に見てる。これはまずい)



必死で視線を外そうとする。


でも無理だ。


まるで重力に引かれるように————



「よろしく」


顔見知りの女子に声をかける彼女の声は、静かで芯の通った響きがあった。



頭を軽く下げた瞬間————


(メロン二個分か……いや、それ以上)



その時————


「桐人、あんた、いま、さくらの胸をガン見してたでしょ」



(!?)



俺は一気に現実に引き戻された。



この声は————まさか従妹のユリ。


振り返ると、案の定ユリがニヤニヤしながら立っていた。



     *  *  *



「そんなにびくっとして、図星だったみたいね」



(くそ、バレバレかよ)



「いや、急に大声で話しかけられたからびっくりしただけだろ」


俺は必死に言い訳をする。



「ユリも同じクラスになったのか、よろしくな」



「なに、ごまかそうとしてるのよ」



ガツン!



「いてっ!」



俺はユリに頭を叩かれた。



「痛えな、この暴力女め。何歳になっても変わらねえな」



(相変わらず容赦ない……)



「あんたこそ、小5から全然成長してないじゃない」


ユリが呆れたように言う。



「相変わらず胸ばっかり見て」



「うるせえ! これは呪いのせいだって何度も———」



そんなやり取りをしているうちに———


大宮さくらが近づいてきた。


俺の広い周辺視野が、それをしっかり捉えていた。



(やばい、こっち来る)



「さくら、こいつがあたしの従兄の桐人」


ユリが紹介する。



「すぐ人の胸を見てくる変態なの。ごめんね」



(おい、紹介がひどすぎるだろ!)



「桐人さん、初めまして」


大宮さくらが優雅に頭を下げた。



「私はユリとは一年の時に同じクラスでした。大宮さくらです」



「よろしくお願いします」


丁寧だが、どこか武人らしい凛とした口調だった。



(めちゃくちゃ礼儀正しいな……)



(ユリ以外の同世代の女子とまともに話すの、何年ぶりだ?)



テンパった俺は———


「俺のことは桐人って呼び捨てで構わねえよ」



なぜか口が勝手に動いた。



「もし俺が無意識に胸を見てしまっていて不愉快だったらごめん」



(何言ってんだ俺! 自爆かよ!)



「それでは私のことも呼び捨てで構いません、桐人」



さくらは微笑んだ。


なんと綺麗な笑顔だろう。


そして早速呼び捨てにしてくれた。



「それと、私はこの身体的特徴のため視線を向けられることが多く、慣れております」


そう言って、自分の胸を軽く手で示す。



「まあ、制服のサイズが合わないのは困りものですが」



(自虐ジョーク!?)



「桐人はそれほど気にしなくても大丈夫です」



そう言って笑い、俺の左斜め前の席に座った。



(めっちゃいい人じゃん……それに比べてユリは)



ちなみにユリは俺の後ろの席だった。



「何か言った?」



ユリが拳を握る。



「いや、なんでもない」



(これは……波乱の予感しかしねえな)



美少女剣士と暴力従妹に挟まれた新学期。


授業が始まる前から、俺の心臓はバクバクと鳴っていた。



なぜなら———


さくらが振り返るたびに、その質量兵器が俺の視界を占領するからだ。



(授業中、まともにノート取れるかな……)



【次回予告】

万有引力の法則に例えられるほどの「質量兵器」に翻弄される桐人。授業中も視線との戦いは続き、さくらに見破られてしまう。そんな中、さくらから意外な提案が———。剣道の才能を見込まれた桐人の運命は?次回「万有引力と質量兵器」

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