第44話 side01 破壊

 美晴のつけていた指輪から発せられた電撃によって、彼女からトルーパーが手を放してしまった。

 しかも、のけぞった姿勢をとっており、その態勢から美晴を殺すのは不可能。


 つまり、今のうちに畳みかけてしまえばいい。


 俺はその場を駆け、左手で頭部につかみかかった。

 のけぞったところにつかむために動いたものだから、そのまま地面にたたきつけるようになってしまった。


 問題は、そのあとでそこそこの威力で叩きつけたがゆえに、トルーパーの体が浮き上がって回避の隙を作ってしまった。

 だが、それを見逃す俺でもない。


 まだ開いていた右手―――刀を持っている腕を使って足を斬りつけた。


 「ぐあっ!?―――クソっ!逃がすのならちゃんと逃がせよ!」

 「逃がすつもりはねえよ。お前の体幹が思ったより弱かったんだよ」


 まあ、想定よりというのは本当だ。

 さすがに弱すぎて面白いくらいにな。


 「くそっ!」


 そう叫ぶと、トルーパーは地面に手を当てて、前方―――つまり、俺がいる場所に向けて衝撃波を伝えてくる。

 直撃すれば、足くらいはとられるだろう。


 しかし、当たる物でもない。そんなに速度もないし、衝撃の波を目視で確認できるようでは話にならない。


 その場を飛び上がって回避し、そのまま落下しながら真っ向斬りを見舞う。

 刃は上を向いていたトルーパーの顔から股間にかけてまっすぐ入っていった。


 生体装甲で強力な耐久性を持っているトルーパーの体は壊れることはないが、切っ先が入ったことによる傷が発生していた。

 そのまま武器を腰のあたりまで引き、一息に前に突き出す。


 グサッ!


 二度目の切っ先は鈍い音を鳴らしながら鳩尾から侵入していき、貫通させた。


 「うぐあ!?」

 「もうお前の運命は終わった」

 「かっ……まだだ。このくらいの傷、力さえあればすぐに―――」

 「刀が刺さっている場所―――なにがあるか知ってるか?」

 「なにが―――」

 「無論心臓ではない。トルーパーの体組織に変化はあれど、内臓の位置が変わったりはしない」

 「じゃあなにが……」

 「お前のスマホだ。変身のためのデバイスとなったお前のスマホは、変身時にお前の体組織に入り込み、腹の中へと鎮座する。体外で破壊すれば重大な後遺症が残るものの、生存は可能になる。だが、この戦闘下で変身を解くような正常者はいない。つまり、体内で破壊しか、リアクトならびにトルーパーの討滅はできない」

 「そんな、負けたって言うのかよ!」

 「世の中、そんなに甘くない。あくまで生存が可能なのは、デバイスが体外にあるときに破壊された場合のみだ。今のお前は体内でデバイスを貫かれている―――もうわかるな?」


 俺の言葉に少しずつ雰囲気が青ざめていく。

 まあ、表情が見えないため、ほぼ雰囲気みたいなものではあるのだが。


 しかし、次に発せられた言葉には明らかな焦りが見えていた。


 「そんなの―――っ!嘘に!決まってんだろ!」

 「嘘だと思うのは勝手だ。だが、体内でデバイスを破壊された場合、トルーパーとしての残存エネルギーが体内で放出される。それが体を蝕み、お前は消滅する」

 「黙れ!」

 「もうわかってるんだろう?お前の仲間が―――脱落者がどうなるのかを。お前は見てきたはずだ」

 「嫌だ!どうにか―――お前ならできるだろ!お前、なんか知ってんだろ」

 「ああ、誰よりもな。だから、教えてやるよ。もう手遅れだ」


 そう言って、俺は縦に入っていた刀を横に倒し、そのまま横凪に肉を断ち切った。


 斬った断面から血が噴き出すが、それもすぐに止まる。

 トルーパーはその場に膝から崩れ落ちてしまう。


 「最後に聞いておく。お前の名前は?」

 「い、嫌!嫌だあああ!死にたくない!死にたくない!死にたくない!うわあああああ!」

 「駄目だな、これ」


 もう会話が成り立つほどの理性は残っていない。


 そのまま名もわからないトルーパーは絶叫しながら光なって消えていった。


 「終わったな……」


 とりあえず、二人を助けることはできた。

 目的には及ばないが、ま、ここは御の字としておこう。


 変身を解き、俺は囚われていた二人のもとへと向かう。

 美晴も会長も特に目立ったけがはない。攫われたその日のうちにここに来れたのもでかいんだろうな。


 まあ、美晴には相応の痣やらが見え隠れするが、手当をすれば痕もなくなるだろう。


 とりあえず、俺はより近くにいた会長へと手を伸ばした。


 「大丈夫か、会長」

 「っ……!?」

 「どうした?立たないのか?」

 「い、いやっ……!」


 パシン!と俺の手が弾かれた。

 原因は一つだけ。会長に、俺の手をはねのけられたのだ。しかも、明確な拒絶の表情で。


 そうか、俺が怖いか。

 なら、早く逃げたいよな。


 「逃げたければ逃げればいい。建物の周りにいたトルーパーもすでに排除している。このまままっすぐ家に帰れば、俺もそれ以上は干渉しない」

 「っ……!」


 会長はなにも言わずに走って逃げていく。

 そんな姿を俺は見届けるが、なぜだか胸のあたりにしこりを覚えてしまう。


 「……」


 胸のあたりに手を当ててみるが効果はない。

 しかし、なんなんだろうか。俺は会長に拒絶されたからなんだというのだ。最初は、俺が望んでいたことだ。


 そう思っていると、胸のあたりに腕を回される。

 攻撃ではない。それをしてきたのは、里中美晴だ。


 「美晴……?」

 「……ありがと」


 他には何も言わず、俺に向けて礼を言うと、回していた手をぎゅっと強めてくる。

 ただなにをするわけでもない。ただ抱きしめてくるだけ。


 そう思っていたら、彼女のほうから動いてくる。


 美晴は、俺の真正面へと移動し、目を合わせてくる。


 「一……」

 「……なんだ?」

 「私、あんまり頭いいわけじゃないからこういうことしかできない。でも、あんたのことくらい振り向かせて見せるから。だから―――」


 そこまで言って、彼女は少しだけ背伸びをしながら、俺の顔へと自身の顔を近づけてきた。


 俺は、それに対しいて引くこともせずにその場で止まると、彼女の近づいてきた顔―――いや、唇が俺のものに触れた。


 「これくらいは許してね」

 「……粘膜接触に意味なんてあるのか?」

 「あ、あはは……なんか、こっちが恥ずかしくなって来るや。でも、その感じなら初めてか。私が一歩リード、かな?」


 そんなこんなで、わけのわからないことを言う彼女を連れて、俺たちは廃工場から立ち去るのだった。




 あとがき

次話から12時投稿の一日一話投稿になります

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Re;Birth~世界は裏切りで塗り替わる~ 波多見錘 @hatamisui

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