第2話
アメリカンスクールに転校して、遅れに遅れた勉強を取り戻す羽目になったのは、想像に難くないが、「いじめ」という、人類の宿痾ゆえだった。
「蜂蜜」という、なんだかファンタジーな名前すら、からかいの種にされた。
「お前、”熊のプーさん”でも呼び寄せるつもりかよ。 ”ハニトラ”って、かえって普通の男に警戒されるぜ! 虎が蜂蜜になるっていう童話の”ちびくろサンボ”みてえなツラしてさ! ぎゃはは」
憧れていた男の子にも、そう言われて見事にフラれた…
勉強ができて、スポーツ万能で、”立て板に水”にペラペラと喋る子…対照的に、蜂蜜は鈍重で、口が重い。 そういう子のことを、”横板に雨水”というのだと教わったのもこの子からだったが…
傷ついてばかりだったので、不登校になり、うちにこもって読書ばかりするという生活にだんだん移行していった。 図書館が唯一の居場所だった。 ネットには小説や詩を書く、同じようなひきこもりやら自殺未遂で足を引きずっているような、まあいろんな”脛に傷を持つ”? 拗ねもの? がたくさんいて、さびしくはなかった。
蜂蜜は好きなタイプのファンタジーを真似て、いろいろな童話を書いて、そういう拙い習作でも、ずいぶん褒めてくれる人もいたりした。
一度は自分が大嫌いになって、死ぬ方法ばかり模索していたが、”世間知らず”ゆえに、物事を近視眼に悲観してばかりいるのが、自分の感じやすくて信じやすい性格の弱点故で、他人の言うこととかを一切「この馬鹿が」と、無視して捨象するということを意識的に心がけていれば、やり過ごしやすくなる…そういうおかしな適応方略に気が付いたりした。
両親はとっくに離婚していて、母親が身を粉にして働いて、蜂蜜を扶養してくれていた。
「芙美子」という母の名前と、芙蓉の花と、扶養家族という言葉が、なんだかおかしな連関、強迫観念になっていた。
母から独立したい! という強い気持ちを持たないと、自分はつぶれてしまうような、そういうなんというか先験的な直観? がいつのころからか芽生え始め、蜂蜜は焦りつつ、こころの迷路の中をさまよい、迷い子になっていた。
ー”stray sheep"
<続く>
https://kakuyomu.jp/users/joeyasushi/news/16818792438100537487
SS・『蜂蜜と檸檬』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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