異世界転生ファンタジー「3日無罪 ~裏切りの72時間~」
志乃原七海
【第一話:ようこそ、最低で最高の地獄へ】
異世界転生ファンタジー「3日無罪 ~裏切りの72時間~」
【第一話:ようこそ、最低で最高の地獄へ】
(検索ワード:異世界転生、チート能力、ダンジョン攻略、魔王討伐、スローライフ、ハーレム、裏切り、3日ルール、浮気、不倫、代理戦争)
「…で、このGPSジャマー『サイレンス』の最新モデルが、今ならローンで月々たったの9800クレジット」
スーツ姿の男が、うさんくさい笑顔で手のひらの黒い塊を掲げる。闇商人、と名乗った男の目は、まるで値踏みするように俺の全身を舐め回していた。場所は、錆びたコンテナが積み上げられた港の倉庫。潮の香りに、微かな硝煙の匂いが混じっている気がした。
俺の名前は、佐藤健太。30歳。
かつては、この平凡な日常から抜け出し、魔法が飛び交い、モンスターが徘徊する「異世界」で「チート級スキル」を駆使して「ダンジョン攻略」や「魔王討伐」に明け暮れる、そんな「スローライフ」と「ハーレム」に憧れていた。
だが、現実は甘くなかった。魔法なんて使えるはずもなく、俺のステータスは「平凡」で固定されたまま。「裏切り」という言葉とは無縁の、静かで、そして退屈な日々。
そんな俺を、「異世界」でもないのに、文字通り「異世界」に突き落としたのは、誰あろう、俺の妻、美咲だった。
「旦那。こいつは軍事用の横流し品でね。あんたの奥さんが正規店『ザ・ヴェンジェンス』で最新鋭の追跡ドローン『アイズ・オブ・トゥルースMk-Ⅲ』を買ったとしても、半径50メートル以内ならただの置物に変えちまう。保証するよ。…ただし、バッテリーは1日8時間しかもたない。使いどころが肝心だ」
美咲。35歳。大手企業の敏腕営業部長。
俺が「魔王」か「ダンジョン」に夢中になっていた頃、彼女は着実に「ギルド」を築き上げていた。いや、築き上げていたのは、僕らの「家庭」という名のギルドだったのかもしれない。
「本当に3日間、俺の居場所をくらませるのか?」
「旦那。…そういえば、あなたが探してた『異世界転移』の小説、最近どうなの? 『3日逃げ切れば無罪』っていう、あの変な設定のやつ」
闇商人は、突然、俺の検索履歴でも覗いたかのように言った。
「…!?」
俺は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「お、お前、何を知ってるんだ?」
「知ってるさ。この世界では、そういう『特殊な事情』を抱えた連中が、後を絶たないんだからな」
男はニヤリと笑った。
「『浮気、不倫、だから3日逃げろ』…そんな、アホみたいなルールで、みんな必死に『代理戦争』を戦ってる」
「代理戦争……?」
「そうさ。この世界は、かつて国家間の『戦争』で疲弊しきってね。『もう二度と、あんな殺し合いはしない!』って誓って、その代わりに、国民みんなで『家庭』を舞台にした『代理戦争』をやるようになったんだ」
男は、まるで昔話でも聞かせるように語る。
「『裏切り』をしたら、3日逃げ切れば『無罪』。捕まったら、負け。逃げ切ったら、勝ち。それだけのシンプルなゲームさ。まあ、捕まるか逃げるかで、人生の明暗が分かれるんだけどね(笑)」
俺は、突然、頭が真っ白になった。
美咲が、俺を追跡している。それは、俺が「裏切った」からだ。
だが、その「追跡」は、単なる夫婦喧嘩の延長じゃなかった。
それは、この世界の「平和維持活動」であり、俺は「国家の平和」を乱した「反逆者」であり、そして美咲は「平和を守るための追跡者」だったのだ。
「…買う」
俺は震える手で、けして安くはないクレジットチップを男に渡した。
読者諸君は、きっとこう思うだろう。
「だったら、するなよ」と。
ごもっとも。まったくもって、その通りだ。浮気、不倫はいけません。小学生でも知ってる。
でも、考えてみてほしい。毎日毎日、同じ時間に起きて、同じ満員電車に揺られ、同じデスクで働き、同じ家に帰る。そこには、愛しているはずだが、もはや空気のような存在になった妻がいる。そんな日常に、ふと差し込んだ光。若くて、快活で、俺を「すごい」と尊敬の眼差しで見てくれる彩香という名の光に、手を伸ばさずにいられる聖人がどこにいる?
それに、この世界は親切だ。
ちゃんと「解決策」を用意してくれているじゃないか。
テレビをつければ、爽やかな笑顔の夫婦が最新の捕獲ネットランチャーを構えている。
「あなたの“想い”、届けます。ノー・エスケープ!」
雑誌をめくれば、高機能スニーカーの広告。
「最後の72時間、一瞬も気を抜くな。Urban Ninja」
この国では、愛憎劇は巨大な経済活動であり、国民的エンターテイメントなのだ。
俺は闇商人から受け取った『サイレンス』をポケットにねじ込み、倉庫を出た。タイムリミットは、美咲が証拠を確認した瞬間から始まる。おそらく、もう始まっている。
スマホが震えた。
美咲からだ。
メッセージは一言。
『戦争、しましょう』
その文字列を見た瞬間、腹の底から奇妙な高揚感が湧き上がってきた。恐怖と、罪悪感と、そしてほんの少しの、歓喜。
ああ、そうだ。
退屈な日常は、終わったんだ。
俺は走り出した。アスファルトを蹴る。背後で、聞き慣れた甲高い飛行音が聞こえた。
美咲のドローンだ。
早い。さすが、一流企業の営業部長。仕事が速い。
俺は路地裏に飛び込み、ポケットの『サイレンス』のスイッチを入れた。
ピタリ、とドローンの飛行音が止む。
静寂。
72時間の、たった数秒の静寂。
ここから始まるのだ。
俺の、俺だけの戦争が。
妻から逃げ、自分自身から逃げ、この狂った世界のルールの中で、俺は「無罪」を勝ち取らなければならない。
ようこそ、諸君。
最低で、最高の地獄へ。
ゴングは、もう鳴らされたんだ。
異世界転生ファンタジー「3日無罪 ~裏切りの72時間~」 志乃原七海 @09093495732p
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界転生ファンタジー「3日無罪 ~裏切りの72時間~」の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます