結局、
結局、『明石勇馬』も『矢島健太』も『明石健一郎』も死んだ。死因はどうあれ、『光抱く扉』に絡んだ事件だった。被疑者、容疑者が死んでしまい、訴訟条件を欠き(刑事訴訟法339条4号)、検察は「被疑者死亡」で不起訴裁定書を作成し(事件事務規程75条)全ての事件は不起訴処分となった。
マスコミは大きく騒いだ。
『明石勇馬』の件は反響は強かった。連日テレビでは『明石勇馬』のサイコパスめいた事を取り上げ、何も知らないコメンテーターが蘊蓄を語っていた。警察の行き過ぎた捜査に対し批判も多少はあったが、何よりも無差別殺人事件を未然に防いだことに対する賞賛が圧倒的だった。SNSもそれで騒ぎ出し、中には陰謀論めいたことを書いたりした者もいたが、おおよそ警察に対して好意的な意見の方が多かった。しかし『明石勇馬』の身の上が晒し出され、『光抱く扉』だけではなく新興宗教による家族間の不和がもたらした事が今回の事件の発端となったことに対する世間の批判は厳しく、近く政府もカルト的な宗教団体、名ばかりの宗教団体を洗い出し法改正等を行うらしい。しかし『光抱く扉』は政府の中枢にも入り込んでいる。『矢島健太』の件は報道規制を張った。しかし、マスコミもこの件に関しては興味があまりなく食いついてくる記者は誰もいなかった。
結局、何も起きなかった。
そういう事だ。
…………………………………………………
「坦々麺」と言ってチャンリーが俺の横に座った。
「お前、辛いの好きだな。しかしこの店アタリだな」俺たちは顔も見合わさず話す。俺は先に来て、食っていた。
「大久保で『直久』知らないなんてモグリすぎますよ、あっ『とんさいの塩』ですね」チャンリーが俺の丼をチラッと見る。
「うまいな」
「味噌もちょーイケますよ」
「今回助かった」
「もう少しヤバめのないですかね」
「これからお前がうんざりするくらい頼むことになる」
「あっありがとうございます!おお!うまそっ」と言ってチャンリーは頼んですぐ来た坦々麺を店員から受け取ると、素早く箸を取り、かき込み、ムセながら食べる。
「美味かった。じゃぁな」俺は食い終わると席を立ち、いつものようにチャンリーに小遣いを手渡した。
チャンリーは素早くデニムのポケットに札をクシャッと突っ込む
「あざす!、すいませ〜ん!焼き餃子と炒飯、追加で!」
俺は店を出た。そのままマンボウさんの事務所に向かった。百人町は落ち着く。色々な人間が色々な事に手を染め、蠢いている。新宿なんてその最たるもんだ。しかしここだけは時間の速度が変わり、心臓の鼓動をゆっくりとさせてくれる。子供の頃、誰かにとても優しく背中をポンポンと叩いてもらっている感覚になる。
マンボウさんの事務所に着いた。仕事部屋の中にはマンボウさん、それから珍しくベンジーもいた。
「しかし、今回の件、どこから?」
マンボウさんは俺が土産で買ってきたローソンの新発売『お抹茶大福仕立てのもち食感ロール』を食べながら聞いてきた。
「情報先、ということか」俺はそう言って少し黙った。
「まっ、いいですけど」
「ところで助かった。よく調べてくれた」
「私もタテもヨコも色々教えてくれる連中がいるので」
「ベンジー、お前にも助けられた」
ベンジーはそう言われても黙って下を俯いたままだ。これも土産で買ってきた好物だという『スティックカラムーチョ ホットチリ味』と『アルフォート』を交互に食べながら。
「しかし、今回の事件、またあるんでしょうかね」とマンボウさん。
「どういうことだ」
「今回の件が、3年前の『あの事件』の模倣だとするのなら」
「わからない」
俺はそう言って、事務所を出ようとした。
すると、ベンジーが立ち上がって俺に近づいてきた。
無言であるものを手渡した。
縦横5cmくらいの木彫りの龍だった。
「珍しい」マンボウさんが言った。
俺は受け取った。
「龍神。一番信用できる神様」とベンジー。
「作ってくれたのか」俺は聞いた。
ベンジーは何も言わずに席に戻り俯きながらまた『スティックカラムーチョ ホットチリ味』と『アルフォート』を交互に食べ始めた。
「大事にするよありがとな」
そう言って、俺は外に出た。
……………………………………………………
終。
さっきまで悪魔が、 鏖(みなごろし) @minagorohsi
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