君の見ている世界
気分屋
第1話
「れいな、れいな!こっちのこい。そして逃げよう。このままだったらみんな死んでしまう、だから!」
「でも先生がここにって、それに避難訓練でもしたでしょ」
「おい、せいや早くしろ。そんなやつにかまうな。行くぞ」
「まって、まだれいなが。れいな、れいなー!」
「せいや、せいや、早く起きなさい」
「はっ!なんだ夢か……あぁ、分かった。すぐ行くよ」
(それにしても目覚ましをかけたはずなんだけどな、疲れてるのかな。
いや、あいつの仕業に違いない。)
せいやが目を覚ました時、部屋の中は沈黙で包まれていた。
「おい、出て来いよ。ユー」
せいやが言うと壁の中から白い幽霊が出てきた。
「へへ、寝坊だ寝坊だ。遅刻しちゃうぞー」
「今日で何回目だよユー」
「えーとねー、覚えてないや」
ユーは子供っぽく無邪気な笑顔で言った。
「ユーは俺の守護霊のはずだろ?しっかりしてくれよ」
「そーだねー、それより早く行かないと学校遅刻するよ?」
せいやが時計に目を向けると針は8時を回っていた。
「おい、学校8時30分からなのに、これじゃ遅れちゃうって。
今まで皆勤なんだぞ!遅れたらユーのせいだ」
「そんなブツブツ言わないで早く行こうよ」
「ふん、調子のいいやつめ」
そう言った後、僕は部屋を出て食卓へと向かった。
「おはよーおばあちゃん」
「おはよーおばあちゃん」
僕が言うとそれに続けてユーも言った。
「あら、ユー。おはよう。今日も1日せいやを守ってあげてね」
おばあちゃんは椅子に腰をかけ、ユーに向かってそういった。
「もう、おばあちゃんたら。こんなのに守られても意味ないよ」
せいやはユーを指差して言った。
「えーひどーい。ショックショック。もしかして反抗期?」
「そんなわけないだろ。ただユーが鬱陶しいだけさ」
「もう、2人とも喧嘩はやめなさい」
「は、喧嘩なんてしてねーよ(し)」
せいやとユーは口を合わせて言った。
「あらあら」
おばあちゃんは僕たち2人を見て笑った。
「それより早く食べてしまいなさい、遅刻しますよ」
「あ、そうだった。ユー、俺はご飯を食べてるから学校の準備してきてくれ」
「ハーイ、がってん」
そういうとユーは壁をすり抜けていった。
「2人とも仲がいいこと」
おばあちゃんは僕たちのやり取りを見てつぶやいた。
「せいやー。準備できたよー」
ユーはカバンを持って僕に言ってきた。
「ありがとう、ユー。それじゃ行ってくるねおばあちゃん」
「はい、行ってらっしゃい。悪霊には気を付けるのよ」
「うん、わかってる」
「まかして、僕がいるからのはせいやに指1本触らせないよ」
ユーがおばあちゃんに向かって自身ありげに言った。
「あら、たくましいこと」
そうして僕とユーはおばあちゃんに見送られながら学校に向かった。
「そういえばさ、もう俺たち出会って8年目だよな」
せいやは学校に向かう途中、走りながらユーに向かって言った。
「そーだねー。それがどうしたの?」
「いや、ただこの関係がいつまで続くのかなって思ってさ」
「なに言ってるんだよせいや。僕はせいやが死ぬまでずっと一緒だよ。なんたって僕はせいやの守護霊だからね」
「僕が死んだらユーはどうなっちゃうの」
「え、」
僕の唐突な質問にユーは言葉を呑んだ。
「そんな、まだせいやは若いんだから気にすることないよその話の続きはせいやがおじいちゃんになったときだね」
「そ、そうだね。なんかごめんね。こんな質問しちゃって」
「せいやが気にすることないよ、僕はせいやの守護霊。質問に答えるのも僕の仕事さ」
ユーは暗い顔から一転、明るい顔に変わっていった。
「この角を右に曲がったら学校だ。あと5分、これならギリ間に合う」
「ちょっとまって」
せいやの言葉にユーは口を挟んだ。
「何だよユー、もう学校に着くっていうのに」
「そこを右に曲がっちゃだめだよ、迂回しよう」
「迂回なんてしてたら学校に間に合わないよ、それにどうしてだめなんだよ」
「悪霊がいるんだ」
僕はユーの言葉に足を止めた。
いつもヘラヘラしているユーの表情が今となっては真剣な表情をしていた。
「悪霊って、どのくらいのサイズなの?」
「一番小さいサイズだよ。多分、最近生まれたんだと思う」
「え、それなら俺でも勝てるんじゃね」
「今のせいやなら可能かもしれないけど、僕はせいやの守護霊として一番安全な道を選ばさせてもらうよ……ってせいや?」
ユーが語っているうちにせいやは話を聞かずに右へと曲がっていった。
「ちょっとせいやぁー」
ユーが角を右に曲がったとき、せいやは悪霊を眺めていた。
「せいや、大丈夫……?」
「ねぇ、ユー。これが悪霊って言うのかい?俺には黒い石にしか見えないんだけど」
「そうだよね、初めて見たときはそう思うよね。でもこれは間違いなく悪霊だよ」
せいやとユーが見る先には、黒い小さな禍々しい悪霊が浮かんでいた。
「これってどうしたらいいの?」
「うーんとね、そうだね。おばあちゃんから貰った首飾り持ってる?」
「うん。持ってるよ」
せいやはそういうとシャツの中に入れていた首飾りを右手で取り出した。
「これだよね?」
「うん。そうだよ。ならそれを悪霊に向けてごらん、ずっとだよ」
せいやはユーの指示通り、首飾を悪霊に向けた。
すると悪霊は、首飾に吸い込まれるようにゆっくりと近づいてきた。
「ねぇユー、どうしたらいいの!こっちに来てるよ」
ユーはせいやの慌てぶりを見て笑った。
「そんなに焦らなくていいよ、その悪霊はまだ生まれたばっかだから襲ってはこないよ。ただその首飾に引き寄せられてるだけさ」
「何だよユー、それならそうと早く言ってくれよ」
「いやーだってさ、悪霊が近づいてきたときどんな反応するか気になっちゃってさ」
「それが守護霊の言う言葉かよ」
「まあまあ、それより次はお守りを出してごらん」
「あぁ、これだよね」
せいやは左のズボンのポケットからお守りを取り出した。
「そう、それ。ならそのお守り開けちゃおっか」
「え?お守りって開けちゃっていいの?普通開けないもんだよね?」
「そんな細かいこと気にしない気にしない。それより早く開けないと悪霊が来ちゃうよ?」
「そんなこと言ったって右手で首飾り持ってるんだから開けることができないよ」
「あ、そうだったね。もー世話が焼けるんだから」
そういうと、ユーはせいやの左手からお守りを取った。
そしてお守りの中身をせいやに渡した。
「え、なにこれ。鍵?」
「うん、そうだよ。鍵。ならそれを近づいてくる悪霊に刺す感じで向けてごらん」
「う、うん」
すると、鍵は悪霊に刺さった。グサッと。
「ユー、刺さったよ。この後はどうしたらいいの」
「なら鍵を右に回してごらん」
「うん」
「ガチャ……」
すると黒く禍々しい小さな悪霊は、ガチャっという音と同時に輝き消滅していった。
「やったね、せいや。初めての悪霊退治だよ」
ユーがそういうとせいやは呆然としていた。
「せいや?初めての悪霊退治だよ?喜んでもいいんじゃないかな」
ユーは不思議そうにせいやに尋ねた。
「そうだね。でもさ、なんか実感がわかないよ。無抵抗に倒しちゃってさ」
「それはそうだけどさ、あれが成長していったら大変なことになるんだよ?」
「大変なことって?」
「悪霊はさ、人間の負のエネルギーから生まれるってことせいやもおばあちゃんから聞いたよね?」
「うん、おばあちゃんに何回も聞かされたよ」
「その悪霊がねたくさん集まると自然現象を起こしちゃうんだよ」
「今の僕たちが住んでる世界だって地震とか津波とかそれに異常気象とかが起こってるでしょ?それ全部悪霊の仕業なんだよ」
「そうなんだ、初めて知ったよ」
せいやはユーの話を聞いて驚きを隠せなかった。
「そしてこの僕、守護霊のことなんだけどね……」
ユーが何かを話し出そうとしたとき、学校の方からチャイムの音が聞こえた。
(ユーってば自分の話になったら周りの声が聞こえなくなるんだよなー、仕方がないか)
「ごめんユー、その話また今度ね」
ユーの話を遮る形でせいやは学校の方へと走り出した。
しかしユーはそれに気づかず一人で淡々と話し続けている。
「あれ、先生いないじゃん」
学校に着き教室の扉を開けるとそこには先生の姿はなかった。
「あ、せいやじゃん」
1人の生徒が僕に話しかけてきた。話しかけてきたのは隣の席でもあり、友達でもあるだいきだった。
「先生ってまだ来てないの?」
「うん、まだ来てないよ。それにしてもお前運いいな」
「まじかよ、ラッキー」
そんな会話をしていると教室に先生が入ってきた。
「おはようございます、遅れてすいません。早速ですが転校生を紹介します」
「え、こんな時期に転校生?中途半端じゃない?」
「そーだよなー」
「かわいいこかなー」
「男の子かな女の子かな」
教室全体は転校生がどんな子なのかという話題で溢れかえった。
「せいやはどんな子だと思う?」
みんなが騒いでる中、隣から大輝が問いかけてきた。
「そんなの興味ねえよ、別に誰でもいい」
せいやは机にうつ伏せになって答えた。
「相変わらず冷たい奴だなー」
そんな会話をしていると1人の少女が入ってきた。
「初めまして、川口れいなです。よろしくお願いします」
入ってきたのは髪が長く美しい女性だった。
「おい!せいや!あの転校生めっちゃかわいいぞ」
だいきはうつ伏せになっているせいやに向かって言った。
「そんなわけないだろ、女の子だって化粧したらみんな同じ顔だって」
「いいから見てみろよ!少しだけでもいいから」
だいきにそう言われせいやは体を起こして転校生の方を見た。
「え……」
せいやは転校生と目が合うなり固まった。
「おいおい、どうしちゃったんだよ。もしかして一目惚れじゃ?」
だいきはせいやの様子を見て煽るように言った。
「いや、そんなんじゃないよ。むしろそれだけじゃ収まらないよ」
「は?どういうことだよ……」
だいきがせいやにどういう意味か聞こうとしたとき走ってくる音がした。
「せいや~!せいやだよね!」
転校生がせいやを目掛けて走ってきた。
そしてその勢いのまま転校生はせいやを抱きしめた。
「え、ちょ、どいうこと?って、お前らどういう関係だよ!」
横からキョトンとした顔のだいきがせいやに問いかけた。
「俺たち(私ら)幼馴染なんだよね」
せいやとれいなが口をそろえてそういうと教室中は狂乱の嵐に飲み込まれた。
「え、なんだよそれ……転校生が幼馴染なんて、それにかわいいし。
もう恋愛漫画の展開じゃん!お前ばっかずるいぞ!」
僕たちに質問が飛び交う中、だいきだけは野次を飛ばしていた。
「おい、お前じゃま。質問しないならしゃべるなよ」
「え、あ、ごめんなさいさい。せいやはずっと非リア友達だと思ったのに……」
だいきは他のクラスメイトにそう言われるなり地面に泣き崩れた。
「はい、みなさん。席に戻ってください。授業が始めれません。質問などは休み時間に各自行ってください」
先生の言葉で教室に起こった狂乱の嵐は過ぎ去っていった。
「せいやくん?どうやられいなさんと仲がよろしいみたいなのでお昼休みに校内を案
内してもらえませんか?」
「え、はい!もちろんです!」
「よろしくねせいや!」
「うん、まかして」
授業が始まると、れいなはよく僕に質問してきた。そのたびに横から強い視線を感じる午前中だった。
「やっと終わったね」
校内にチャイムの音が鳴り響くと同時にれいなは僕に笑顔で話しかけてきた。
「うん、そうだね。なら行こっか、校内探検!」
「うん!行こ!」
そうして僕たちは昼休み、校内を探検しに行った。
「そういえばさ、れいなってどうしてこの時期に転校してきたの?」
せいやは校内を案内している途中にれいなに問いかけた。
「お父さんの仕事の関係でね……ちょっとこっちに来なきゃ行けなくなったの」
「そっか、あと4日で夏休みなんだから2学期からでもよかったんじゃない?」
「それはね、早くせいやに会いたいから来たんだよ!」
れいなの言葉にせいやは頬を赤くした。
れいなが続けて何かを言おうとしたがそれを予鈴のチャイムが遮った。
「え、今なんか言った?聞き取れなくて」
「いいや、何でもないよ。それより早く教室に戻ろ」
「うん、そうだね。あ、違うよ。午後の授業は体育館であるんだよ」
「え?体育館で何するの?」
れいなは不思議そうな顔でせいやを見つめた。
「全校生徒が集まって災害について学ぶんだよ」
「そっか……」
そういうと僕とれいなは体育館に向かった。
体育館での話は地震による被害だった。
8年前、地震が起こり津波が発生した。そして津波の影響で当時、原子力発電所で稼働していた機会が水素爆発を起こして大量の放射線物質を飛散させてしまい、今もなおその町は立ち入り禁止区域とされ当時の状況を描いているという話だった。
「せいやー帰ろ」
ホームルームが終わると同時にれいなが話しかけてきた。
「ごめん、今から直接塾に行くんだ」
せいやは申し訳なそうな顔で答えた。
「そっか、もう高校2年生だもんね。来年受験生だし当たり前か」
「うん、そうなんだよ。」
そう言い残してせいやはだいきと一緒に教室を後にした。
「ここにいちゃ、ダメなのに……」
せいやが教室を出た後、れいなは悲しい表情でつぶやいた。
「せいや、本当に良かったのか?」
教室から出てすぐ、だいきが問いかけてきた。
「なにが?」
「いや、せっかく幼馴染と再開できたのに塾を優先しちゃっていいのかなって。
俺なら絶対塾なんてほったらかして2人で語り合うよ」
「そうだよな、やっぱりそうだよな!」
だいきの言葉を聞いたせいやはだんだんと声を張り上げながら言った。
「俺、なんか大切な何かを忘れてた気がするよ。今までいい大学に入ろうと勉強ばっかり頑張ってきたけど、それは間違ってるって今になって分かったよ。だいき、ありがとう」
「お、おう、今まで、いや……空白の8年間を取り戻せよ!」
せいやはだいきを背に、教室目掛けて走り出した。
教室に戻ると、れいなは席に座って憂鬱な顔で外を眺めていた。
「れいな!」
「え、せいや?せいや!戻ってくるって信じてたよ」
れいなは席を立ちあがりせいやに近づくにつれて笑顔を取り戻していった。
「帰ろっか、一緒に」
「うん!」
そうしてせいやとれいなは手を繋ぎ一緒に教室を出た。
「私、せいやの家に行きたいな」
帰り道、れいなはせいやに恥ずかしそうに言った。
「え、れいなが行きたいって言うならいいよ」
せいやがそういうとれいなははしゃぎ、喜んだ。
「ここがせいやの家?」
「うん、まあ家っていうか神社なんだけどね」
そう言いせいやはれいなを玄関まで案内し、玄関の扉を開けた。
すると、その先にはおばあちゃんとユーが立っていた。
「え、何?どうしたの」
せいやは異様な光景に疑問を持った。
「あ、何あれ、かわいい」
そんな中、後から家に入ってきたれいなはユーを見て言った。
「え、どうしてあれが見えるの……」
幽霊は一般人には見えないということをせいやは知っていた。
「彼女、半幽霊だよ」
おばあちゃんはせいやを見つめそう言った。
「え、半幽霊って何?」
「まあ一旦家にあがりな」
おばあちゃんがそう言った後、せいやとれいなは家にあがり、リビングの椅子に腰を掛けた。
「単刀直入に言うよ、彼女は半幽霊だ」
「だから半幽霊ってなんだよ!」
おばあちゃんの言葉にせいやは声を荒げて言った。
「せいや?落ち着いて、半幽霊はね人間と幽霊の狭間なんだよ。だからまだ彼女は助かるよ」
「そう、ユーの言う通りじゃ。それに彼女自身も薄々感じてきたんじゃないかの。
自分が半幽霊だって」
「そうなの?れいな」
せいやの問いにれいなはコクリと頷いた。
「そっか、そっか……」
れいなの反応にせいやは徐々に正気を取り戻していった。
「神隠しって知っとるじゃろ?」
「うん、急に消えちゃうやつだよね」
「その通り、そして神隠しにあう人たちはみんな半幽霊なんじゃ」
「え、なられいなも消えるってこと?」
「正しく言えば幽霊になる、じゃな。半幽霊はユーの言った通り人間と幽霊の狭間、本来人間は死ねばみんな幽霊になる。しかし、行方不明は別じゃ。行方不明のまま死んでしまえばその人は半幽霊となって大切な人の前に再び現れる。しかし、半幽霊自身は自分が人間だと思い込んでいる。そしてそれから8年たつと幽霊に変わるんじゃ」
おばあちゃんの言葉にユーは首を頷きながら聞いた。
「ならどうしてれいなは自分が半幽霊って自覚してるの?」
「彼女は稀じゃ。わしにも分からん」
「どうしたら助かるんですか……」
今まで口を閉ざしていたれいなが口を開けて震えながら言った。
「自分が死んだところに行けばそこに自分の核がある。そしてその核をせいやが持っている鍵で左向きに回せば助かる。ただ自分がどこで死んだのかが分からないというのが問題なんじゃがな」
「私、分かります……」
れいなは恐る恐る言った。
「誠か!」
いつも落ち着いているおばあちゃんが珍しく声を張り上げた。
「おばあちゃん落ち着いて」
すかさずユーはおばあちゃんを落ち着かせた。
「ああ、すまん。それで君はどこで死んだんだ?」
「あれは私が小学3年生の頃でした。いつも通り学校に通い授業を受けていたら急に地震が起こって、そして津波も起こって、先生の指示通りグランドに出てたら津波が押し寄せてきてそれに飲み込まれちゃったんです。その後、私の見ている世界は真っ暗になりました。でも気づけば私は両親に抱きつかれていたんです」
おばあちゃんはれいなの話を椅子に座って真剣に聞いた後、言った。
「なら、その小学校に行ったら何か分かるかもしれんな」
「でも!」
おばあちゃんの言葉にせいやが口を挟んだ。
「どうしたんじゃ?」
「そこって今立ち入り禁止区域になってる所じゃない?放射線が溢れ出ちゃって」
せいやの言葉におばあちゃんとユーは軽く笑った。
「何笑ってるんだよ!」
「ああ、すまんすまん。今のお前ならそのくらい大丈夫じゃよ」
「え?何で?」
「だって人間は放射線って言うけど実はあれ悪霊なんじゃよ。朝、悪霊を倒したんだから見つかったら倒してしまえばいい。それに彼女の話しだともうすぐ8年がたってしまう。だから彼女を救いたいというならこんな悩んでいる暇はないんじゃよ」
おばあちゃんの言葉にせいやは覚悟を決めた顔をした。
「俺、行くよ。れいなを助けに」
「そうか……気を付けるんじゃよ。でも今はもう時間が遅い。行くなら明日の朝からじゃ。今日はゆっくり休め」
「わかった。なら俺はれいなを家に送ってくるよ」
そういうと僕とれいなは家を出た。
「ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって……」
れいなを家に送っている途中、浮かない顔で話かけてきた。
「そんな、れいなは心配することないよ。絶対俺が助けるから安心して」
「うん、そうだね。せいやの言ってること信じるよ」
れいなは笑顔で言った。しかし、僕には作り笑顔のようにしか見えなかった。
「じゃあ、また明日迎えに来るから」
「うん、待ってる……ずっと」
そうしてれいなを送り届けた後、僕は家に帰った。
「せいや、せいや!起きて!助けに行くんでしょ!」
目を覚ますと目の前にはユーが浮かんでいた。
「ああ、うん。起こしてくれてありがとう」
「でもちょっと早くない……?」
時計を見ると針は3時を指示していた。
「いいから早く行こ」
ユーに言われるなりせいやはまだ眠たそうな顔を浮かべつつもリビングへ向かった。
リビングに着くと電気がついており、おばあちゃんが椅子に腰を掛けて待って行った。
「おはよう、せいや。朝ごはん出来てるから食べな」
「あ、ああ。おはよう。ならご飯食べちゃうね」
朝早くおばあちゃんが起きてることに驚き一瞬言葉が出なかった。
「なあせいや。もし、大切な人が死ぬかもしれなってなったらお前ならどうする?」
「え?」
食事の途中に思いがけないおばあちゃんの言葉に箸が止まった。
「急にどうしたんだよ、そんなの聞く柄じゃないだろ」
「いいから答えろ!」
いつになく真剣な表情でおばあちゃんは僕に聞いてきた。
「そ、それは助けるに決まってるだろ。助からないって周りが言おうと俺は、必死に最後まで助けぬくさ」
「そうか……、二言はないぞ。どんな状況でも最後までそれを貫くんじゃよ」
「え?ああ、もちろんだよ」
僕の言葉におばあちゃんはいつもの表情を取り戻していった。
「さっ、なら早くご飯食べて向かいに行きなさい」
「うん!」
それから僕はご飯を食べ準備を済ませた後、玄関へと向かった。
「じゃあ、行ってくるね。おばあちゃん」
「ああ、気を付けるんじゃよ。おばあちゃんはずっとここで待ってるからね。それとユー、ずっとせいやのことを見守ってあげるんじゃよ」
「うん!」
僕とユーは声を合わせて言った。
家から出て間もなく、せいやはユーに問いかけた。
「ユー、家出ちゃったけどこんな早い時間に迎えに行っちゃっていいのかな」
「大丈夫だよ。きっと彼女も起きてるさ」
「ならいいんだけど……」
その時のせいやの顔は不安に満ちていた。
れいなの家の前に着くとそこにはれいなが立っていた。
「あ、せいや?せいや!」
れいなと目が合うなり彼女は僕に抱きついてきた。
「お、落ち着いてれいな」
「あ、ごめんなさい」
そういうとれいなはゆっくり離れて行った。
「どうしてこんな朝早く起きてるの?」
せいやは不思議そうな顔をしてれいなに問いかけた。
「それはね、ユーちゃんが起こしに来てくれたからよ」
「え?ユーちゃん?」
「そう、ユーちゃん」
「あははは」
後ろでユーが照れくさそうに笑った。
「まあいいか、それより行こう!れいなが死んだ現場へ!」
「でもどうやって行くの?」
せいやが意気込んだ後、れいなが首を傾げ問いかけた。
「あ、確かに。何も調べてないや」
「えっ!うそでしょ、私も何も調べてないよ」
「いや、僕はてっきりれいなが覚えてるかなって」
「2人とも、お困りのようだね」
僕たちが話している中、後ろからユーの声がした。
「なに?」
せいやとれいなは声を合わせて言った後、ユーの方を向いた。
「これが欲しいんじゃない?」
ユーはメモらしきものを僕たちに見せつけた。
「これ何なのユー」
「これはその小学校に行くための道のりみたいなものさ」
ユーは誇らしげにそういった。
「ナイスだユー、たまには役に立つじゃん」
そういうとせいやはユーが持っているメモを取った。
「よし、これで準備は整った。なら行こう!れいなが死んだ現場へ!」
「おー!!」
せいやの言葉にれいなとユーも意気込んだ。
それからはユーから貰ったメモを頼りに電車に乗り、バスに乗った。
「せいや、せいや!起きて!次のバス停だよ!」
れいなはせいやの体を揺らしながら起こした。
「あ、ごめん。眠たくてつい……」
せいやは起きるなり申し訳なさそうにあやまった。
「まあ、仮眠は大事だからね」
れいながそういった後、バスはバス停に止まった。
バスから降りると、もう日が昇っていた。そして太陽の方向には立ち入り禁止という看板がありロープが引かれていた。
「この先だね、悪霊の気配がたくさんするよ」
ユーは町の方向を見てそう言った。
「ユー、できるだけ悪霊のいない道を選んでくれないかな」
「うん!まかして!なら僕の後ろをついてきて」
ユーはそういうと進み始めた。そしてせいやとれいなはそれを追った。
学校に向かう途中、悪霊は1体も見なかった。見えたのは被害にあったまま放置されている町の風景だった。
「ここが学校だよ」
ユーが止まった先にはボロボロの校舎があった。
「ならこの先にれいなの核があるんだね!」
せいやはそういうと飛び出し、1番にグランドへと向かった。
「せいや?大丈夫?」
ユーはせいやの元につくなり声をかけた。
「ねえ、ユー、これってどういうこと……」
せいやの目の先にはれいなではなくせいやの核が浮かんでいた。
「そのままの通りよ」
せいやが唖然とする中、れいなは浮かない顔で言った。
「そろそろ思い出したらどう?あの日の出来事を。7月25日に起こったことを」
せいやはれいなにそう言われるとあの日の記憶が蘇ってきた。
あれは7月25日、僕が当時小学3年生の頃だった。
「行ってきます!」
僕は元気よく家を出て隣に住んでいた幼馴染、れいなを迎えに行って一緒に登校していた。
「明日から夏休みだね!」
登校中、れいなは僕にそう言ってきた。
「そうだね!楽しみだね!」
「ねえ、せいやくんってさ今日の学校が終わった後って暇?」
「え?暇だけどどうしたの?」
「えっとね今日の夜、花火大会があるんだけど一緒に行かない?」
れいなは恥ずかしそうに言っていた。
「うん!いいよ!行こ!」
「えっ!本当に?約束だよ!絶対だよ!」
「うん!」
当時、僕の住んでいた町では7月25日の夜に花火大会が開催されていた。
その花火大会に一緒に行こうとれいなと約束するもそれはかなわなかった……。
14時46分、僕たちのクラスは大掃除をしていた。そんな時だった。
先生のスマホが急になりだした。その音はとても不気味で怖かった。
僕を含めみんなが混乱している中、床は揺れ始め先生の「机の下に潜って!」という声が教室を包んだ。揺れが収まると校内放送が入り、みんなグランドに集まれとのことだった。グランドに向かう途中、後ろから僕は手をつかまれた。
「おい、どこにいっている!」
声の持ち主は僕のお兄ちゃんのゆうやだった。
「え?何ってグランドにだよ。そう指示されたんだから」
「お前はバカか!こんだけ揺れたんだきっと津波が来る。こんな悠長にしている暇は無いんだよ!だから俺について来い!山に逃げるぞ!」
「分かったよ、せめてれいなも連れてってよ。一緒に花火見るって約束したんだ」
「ああ、いいから早くつれて来い」
それから僕はグランドに行き、れいなのことを探した。そして僕はれいなを見つけるなりこう言った。
「れいな、れいな!こっちにこい。そして逃げよう。このままだったらみんな死んでしまう、だから!」
僕は必死になってれいなを説得しようとした、だけどそれは叶わなかった。
「でも先生がここにって、それに避難訓練でもしたでしょ」
「おい、せいや早くしろ。そんなやつにかまうな。行くぞ」
「まって、まだれいなが。れいな、れいなー!」
僕はれいなを説得している途中、お兄ちゃんに腕も引っ張られ山に向かうことになった。
山に登り始めて間もなく僕はやっぱりれいなのことが心配になった。
「お兄ちゃん、やっぱり僕心配だよ」
「大丈夫だ。あっちには大人がたくさんいる。だからきっとまた会えるさ」
「でも……、やっぱり僕戻るよ!ごめんお兄ちゃん」
僕はそう言って走って学校へと戻っていった。
「は?ちょ、何やってんだ!今からでも間に合うから引き返せ!津波がもう来ている!だから!」
僕はお兄ちゃんの言葉を無視して学校のグランドへと戻った。
グランドにつくとそこには生徒が規則正しく並んでいた。
「せいやくん?どこにいってたの!」
グランドにつくなり僕の担任の先生が怒鳴ってきた。
「えっと、お兄ちゃんと山に……」
「そうなの、わかったわ……、なら早く自分の列に入りなさい」
僕は先生に言われるなり列に並んだ。そして列に並んで間もなくのことだった。
グランドに先生の大きな声、いや、叫び声が響き渡った。
「みんな!山に向かって走れ!」
先生の声が生徒たちに届くとみんなは一斉に山へと走り出した。
「れいなー!れいなー!」
僕はそんな中、れいなを探した。すると、れいなの泣き声のようなものが聞こえてきた。声のする方に行くとそこにはれいなが泣きながら座り込んでいた。
「どうしたの?れいな」
せいやは泣いているれいなに優しく声をかけた。
「え?せいやくん?私、足を捻っちゃって。助けを求めてもみんな自分のことで精一杯だし。それに先生たちはみんな低学年の子たちを誘導してて忙しいし。私どうしたらいいかわからなくて」
れいなはせいやに泣きながら言った。
「そっか、でももう大丈夫だよ。俺が来たから。さっ、行こ」
そして僕とれいなはゆっくり山に向かった。
しかし、津波はそう甘くなかった。山に向かい始めてすぐ僕たちは津波に飲み込まれてしまった……
「全部、思い出したよ……、あの日の出来事」
せいやはそういうと不思議と涙が止まらなかった。
「ならユー、お前、おにいちゃんのゆうやだったのか」
ユーは何も言葉を発さずにコクリと頷いた。
「そっか、そうなのか……」
せいやが当時の記憶を取り戻し唖然としている中、れいなはせいやのポケットから鍵を奪った。そして、すかさず鍵をせいやの核に差し込み左に回した。
「え、れいな?何してるの」
れいなが鍵を回すなりせいやの体は徐々に消えていった……。
そんなせいやの姿を見るれいなは、平然を装おうとしているが目からの涙を止めることが出来ていなかった。
「せいや、ごめんね。せっかく会えたのに……、でもね、ここにせいやはいちゃダメなの。ここはね私が見ている世界。君の見ている世界、いや、せいやの見ている世界とは違うの。だから!今度はせいやの見ている世界で私を見つけて、ずっとここで待ってるから……、ずっと」
最初の方こそは平然を保っていたが、後半になるにつれ、れいなは感情をコントロールすることが出来なかった。
「そして……今度こそ……一緒に花火見よ!」
僕が消える直前れいなは涙を流しつつも今までにない笑顔で僕を見て言った……。
それから僕は長くて暗いトンネルをひたすら歩いた。光が見えるまで。ずっと……。すると、かすかにトンネルの先から音が聞こえた。「ピッピッピ」と何かのアラームのような音だった。進むにつれその音は次第に激しくなった。そしてトンネルの先に光が見えると僕は光の方へと何も考えずに走った。次第に小さくなっていく音とともに……。
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