夢
磐長怜(いわなが れい)
邪神
こんな夢を見た。さる屋敷の広い板敷で、狩衣姿の主人と差し向かっている。夏だというのに冷たい風がすうと抜けた。
美しい屋敷だった。散歩のついでに近くで公開されているからと立ち寄った。手入れを怠らずに時を経た木は黒く、壁のいくつかには仕掛けもあって、持ち主はやんごとない方のようだ。そういえば仕掛けで遊んでいた子供、他のの訪問客はどこに行ったのだろう。早くここから立ち去ってくれるといい。ここの主人は邪神だ。私は間抜けにも、無造作な指に捕まってしまったのだ。
高灯台は時折揺れながらそばに控える甲冑を黒く照らしている。おもむろに主人が命じた。
「この屋敷の を答えよ」
容易でないことを求められているとわかるのに、声が聞こえない。答えを間違えれば殺される。答えなくとも殺される。僅かでも引き延ばそうとあれこれと話のとっかかりを探すもうまく行かない。
「無駄話は不要」
と耳元に凍える刃を差し込まれた。こぉこぉと耳に風が響く。頭の中で、邸宅の仕掛けで遊んでいたこどもの笑い声がうかぶ。咄嗟に口が開く。
「ニ階の、床の間でございましょう!」
邪神の眼光が僅かにかたちを変えた。
そこで目が覚めた。おそらく正解を答えたと思う。あの床の間の仕掛けの先には何があるのだろう。冷え冷えとしたあの屋敷に戻らないよう、体を起こした。血流が変わるところでつかの間答えを見たが、それは命からがら逃げ出したこの身からは語れぬ話である。
夢 磐長怜(いわなが れい) @syouhenya
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