俺のクラスメイトの地味子は、夜になると街を守る魔女らしい

トムさんとナナ

俺のクラスメイトの地味子は、夜になると街を守る魔女らしい

## 第一章 地味子と呼ばれた少女


「今日のホームルームで…」


先生の声が教室に響く中、俺は窓の外を眺めながらぼんやりと過ごしていた。高校二年生の春、新しいクラスにも慣れ始めた頃だ。


俺の名前は田中翔太。どこにでもいる平凡な高校生である。特に取り柄もなければ、目立った特技もない。強いて言うなら、人の観察が得意なくらいだろうか。


そんな俺の視線が、いつものように教室の隅に座る一人の少女に向かった。


水野すずか。


彼女はいつも教室の端っこ、窓際の一番後ろの席に座っている。黒縁の眼鏡をかけ、肩より少し長い黒髪を二つに結んだ地味な印象の少女だ。クラスメイトたちからは「地味子」なんて呼ばれることもある。


本人は気にしていないようだが、正直なところ、俺はその呼び方があまり好きではなかった。


すずかは確かに目立たない。授業中も静かに座っているし、休み時間も一人で本を読んでいることが多い。でも、時々見せる横顔には、どことなく神秘的な雰囲気があった。


「田中、聞いてるか?」


突然名前を呼ばれて、俺は慌てて前を向いた。


「は、はい!」


クラス中の視線が俺に集まる。恥ずかしさで顔が熱くなった。


「明日の掃除当番の件だ。しっかり聞いておけよ」


「す、すみません」


先生の説明が続く中、俺はチラリとすずかの方を見た。彼女は相変わらず静かに座っていたが、なぜか小さく微笑んでいるような気がした。


## 第二章 偶然の目撃


その日の夜、俺は近所のコンビニに向かっていた。母親に頼まれた買い物があったのだ。


時刻は午後十時を回ったところ。普段なら家でゲームをしているか、宿題に追われている時間だ。夜の街を一人で歩くのは、なんだか少し大人になったような気分がした。


商店街を抜けて大通りに出ようとした時、遠くから奇妙な音が聞こえてきた。


「グルルル…」


それは獣のような、でも獣ではない不気味な唸り声だった。好奇心に駆られた俺は、音のする方向へ足を向けた。


角を曲がると、そこには信じられない光景が広がっていた。


街灯の明かりに照らされて、巨大な影のような化け物が蠢いている。それは犬のような形をしていたが、体は黒い煙のようにゆらめいていて、赤い目がギラリと光っていた。


「な、なんだよ、あれ…」


俺は思わず声を漏らした。足が震えて、その場から動けない。


化け物は俺に気づいていないようだったが、今にもこちらに向かってきそうな気配がある。どうしよう、逃げなければ…


その時だった。


「そこまでよ、悪霊」


凛とした声が夜の静寂を破った。


化け物の前に、一人の少女が立っていた。長い黒髪を風になびかせ、手には不思議に光る杖のようなものを握っている。


「え…」


俺は目を疑った。その少女の横顔は、間違いなく見覚えがあった。


「水野、すずか?」


いつもの地味な制服姿ではない。黒を基調とした不思議な衣装に身を包み、眼鏡も外している。まるで別人のようだった。


「この街の平和を乱すことは許しません」


すずかは杖を振り上げると、呪文のような言葉を唱え始めた。


「浄化の光よ、闇を払いたまえ…ルミナス・パージ!」


杖の先端から眩い光が放たれ、化け物を包み込んだ。悪霊は苦しそうに身をよじると、煙のように消え去った。


「やった…」


すずかは小さくつぶやくと、安堵の表情を浮かべた。しかし、その直後に俺の存在に気づいたのか、振り返った。


「あ…」


二人の視線が交差した瞬間、時が止まったような感覚に陥った。


「た、田中くん?どうして…」


「す、すずか…?君は、一体…」


気まずい沈黙が流れた。俺の頭の中は混乱でいっぱいだった。


いつものクラスの地味子が、魔法使いのような格好で化け物と戦っている。これは夢だろうか?


「あの…」


すずかが口を開こうとした時、彼女の体がふらつき、その場に崩れ落ちそうになった。


「おい、大丈夫か?」


俺は反射的に駆け寄り、彼女の体を支えた。


「魔力を使いすぎました…少し休めば…」


「とりあえず、どこか座れる場所を探そう」


俺たちは近くの公園のベンチに腰を下ろした。すずかは疲れ切った様子で、肩で息をしている。


「田中くん、見てしまいましたね」


「あ、ああ…でも、何がなんだか…」


「私、魔女なんです」


静かに告白された言葉は、夜の静寂に吸い込まれていった。


## 第三章 秘密の共有


「魔女って…まさか、本当の?」


「はい。代々受け継がれてきた力を持っています」


すずかは少し回復したのか、いつもの落ち着いた口調で説明し始めた。


「この街には時々、悪霊や魔物が現れるんです。普通の人には見えませんが、霊感の強い人や、魔力を持つ者には見えてしまいます」


「じゃあ、俺にも霊感があるってこと?」


「そのようですね。普通の人だったら、さっきの悪霊は見えません」


俺は改めてすずかを見つめた。眼鏡を外した彼女は、学校で見る印象とは全く違っていた。意志の強そうな瞳と、凛とした表情。こんなに美人だったのかと、今更ながら驚いた。


「で、でも、なんで俺に話すんだ?秘密にしておいた方が…」


「もう見られてしまいましたから」


すずかは苦笑いを浮かべた。


「それに…実は、少し疲れているんです。一人で戦い続けるのは、思っていたより大変で」


その言葉に、俺は胸が痛くなった。いつも一人でいるすずかが、実は街のために戦っていたなんて。


「俺に何かできることはないか?」


「え?」


「魔法は使えないけど、何かサポートできることがあるなら…」


すずかは驚いたような表情を見せた後、嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます、田中くん。でも、危険すぎます」


「でも、君一人じゃ大変だろう?それに…」


俺は頬を掻きながら続けた。


「なんていうか、放っておけないんだ」


月明かりの下で、すずかの頬がほんのり赤くなったような気がした。


## 第四章 変わり始めた日常


次の日の学校は、いつもと同じようで、でも全く違って見えた。


教室に入ると、すずかはいつもの席に座っていた。眼鏡をかけ、地味な制服を着た、普通の女の子として。


でも俺だけは知っている。昨夜、彼女が化け物と戦っていたことを。街を守るために力を使っていることを。


「おはよう、すずか」


俺が声をかけると、すずかは驚いたような顔をした。普段、俺たちはほとんど話したことがなかったからだ。


「お、おはようございます、田中くん」


「昨夜は大丈夫だった?」


小声で尋ねると、すずかは慌てて辺りを見回した。


「し、静かに…誰かに聞かれたら…」


「あ、ごめん」


クラスメイトたちが俺たちの会話に気づき始めている。特に女子たちは興味深そうにこちらを見ていた。


「田中って、水野と話すんだ」


「意外だね」


そんな声が聞こえてくる。確かに、今まで接点のなかった俺たちが話しているのは不自然かもしれない。


でも、なぜか気にならなかった。むしろ、すずかともっと話したいと思った。


昼休み、俺は思い切ってすずかに声をかけた。


「一緒に昼飯食わない?」


「え?」


すずかは手に持っていた本から顔を上げた。


「いつも一人で食べてるだろう?俺も友達いないし」


「で、でも…」


「屋上とか、人のいないところで」


俺の提案に、すずかは少し考えた後、小さく頷いた。


屋上で二人きりになると、空気が少し和らいだ。


「いつもお弁当なんだな」


「母が作ってくれるんです」


すずかのお弁当は、とても丁寧に作られていた。色とりどりのおかずが綺麗に詰められている。


「うまそうだな。俺なんて、いつもパンだよ」


「よろしければ、少し分けますが…」


「いいのか?」


すずかは小さなおかずを分けてくれた。卵焼きと唐揚げ、それにミニトマト。


「うまい!すげぇうまい!」


俺の大げさなリアクションに、すずかはくすくすと笑った。


「田中くんって、面白いですね」


「え?」


「いつもは真面目そうに見えるのに」


そう言われて、俺は照れくさくなった。確かに、学校では目立たないように過ごしていたからな。


「すずかこそ、昨夜はすごかったよ。あんなに強いなんて思わなかった」


「強い…ですか?」


すずかは少し寂しそうな表情を浮かべた。


「でも、まだまだです。祖母から受け継いだ力ですが、使いこなせているとは言えません」


「祖母さんも魔女だったのか?」


「はい。この街を長い間守ってくれていました。でも三年前に亡くなって…それから私が」


すずかの声が小さくなった。まだ高校生の彼女が、一人でそんな重い責任を背負っていたなんて。


「一人で大変だったろう」


「でも、やらなければいけないことですから」


その健気な姿に、俺の胸は熱くなった。


「今度、本当に何かあったら連絡してくれ。俺にできることがあるはずだ」


「田中くん…」


すずかは困ったような、でも嬉しそうな表情を見せた。


## 第五章 初めての共闘


それから一週間ほど平穏な日々が続いた。俺とすずかは昼休みに一緒に過ごすようになり、放課後も時々一緒に帰るようになった。


クラスメイトたちは俺たちの関係を不思議がっていたが、特に問題になることはなかった。むしろ、すずかと話すようになってから、彼女の本当の魅力に気づく人も増えたような気がする。


「水野さんって、実は美人だよね」


「うん、眼鏡外したらすごそう」


そんな会話を耳にするたび、俺は複雑な気持ちになった。確かにすずかは美人だ。でも、俺だけが知っている彼女の本当の姿は、もっとずっと魅力的だった。


そんなある日の夜、すずかから連絡が来た。


『田中くん、今から駅前に来れますか?少し大きな反応があります』


俺は慌てて家を出た。両親には友達が困っているからと適当な理由をつけて。


駅前に着くと、すずかはもう魔女の姿に変身していた。でも、その表情はいつもより深刻だった。


「どうした?」


「今夜の敵は、今までよりも強いようです」


すずかが指差す方向を見ると、確かに今までとは違う気配を感じた。重苦しい、邪悪な雰囲気が漂っている。


「無理しないでくれよ」


「はい。でも、やらなければ…」


その時、地面が激しく揺れた。アスファルトが割れ、そこから巨大な触手のようなものが現れた。


「うわ!」


俺は思わず後ずさりした。現れたのは、今まで見た中で最も醜悪な化け物だった。タコのような触手を持つ巨大な肉塊が、不気味に蠢いている。


「大地の邪霊…厄介ですね」


すずかは杖を構えたが、その手が微かに震えているのがわかった。


「ルミナス・パージ!」


いつものように光の魔法を放つが、化け物にはあまり効果がない。光は触手に阻まれ、本体に届かなかった。


「くっ…」


すずかが舌打ちする。化け物は反撃とばかりに触手を振り回し、すずかを襲った。


「すずか!」


俺は反射的に駆け出していた。近くに落ちていた工事現場の鉄パイプを拾い、触手に向かって振り下ろす。


「田中くん、危険です!」


でも、俺の攻撃は意外にも効果があった。触手が怯んだのだ。


「今だ、すずか!」


「はい!」


すずかは素早く詠唱を始めた。いつもより長い呪文だった。


「大地の精霊よ、邪悪なる者を地の底へ…アース・シール!」


地面に魔法陣が浮かび上がり、化け物を縛り上げる。しかし、完全には拘束できない。


「まだ足りません…」


「俺も手伝う!」


俺は鉄パイプで触手を叩き続けた。痛みで化け物の動きが鈍くなる。


「今度こそ!浄化の光よ、すべてを清めたまえ…グランド・パージ!」


すずかの最大級の魔法が放たれた。眩い光が化け物を包み込み、徐々に浄化していく。


「うおおおお…」


化け物は最後の雄叫びを上げて消滅した。


「やった…」


すずかはその場にへたり込んだ。相当な魔力を使ったようだ。


「大丈夫か?」


俺は慌てて彼女のそばに駆け寄った。


「はい…ありがとうございます、田中くん。あなたがいなかったら…」


「俺は何もしてないよ。君がすごいんだ」


でも、すずかは首を振った。


「いえ、田中くんがいてくれたから頑張れました。一人じゃ、きっと負けていました」


その言葉に、俺の胸は熱くなった。


「これからも、一緒に戦おう」


「田中くん…」


月明かりの下で、すずかは涙ぐんでいた。


「ずっと一人だったから…こんなに嬉しいのは初めてです」


俺は彼女の頭にそっと手を置いた。


「もう一人じゃない。俺がいる」


## 第六章 芽生える想い


それから俺たちは完璧なコンビになった。すずかが魔法で戦い、俺が物理的なサポートをする。意外にも俺の攻撃は魔物に効果があることがわかった。どうやら霊感が強い人間の攻撃は、魔物にもダメージを与えられるらしい。


学校生活でも、俺たちはより親密になった。一緒にいる時間が増えるにつれ、すずかの新たな一面を発見することが多くなった。


「田中くん、これ見てください」


ある日の昼休み、すずかが俺に小さなぬいぐるみを見せてくれた。


「うさぎのぬいぐるみ?」


「はい。昨日、雑貨屋さんで見つけて…可愛いと思って」


意外だった。いつもクールで大人びて見えるすずかが、こんな可愛いものを好きだなんて。


「似合うな、すずか」


「え?」


「そのぬいぐるみ。すずかに似て可愛い」


俺の言葉に、すずかの顔が真っ赤になった。


「た、田中くん…そんなこと…」


「あ、いや、その…」


俺も慌てて顔を逸らした。最近、すずかを見ているとドキドキすることが多くなった。


一方、クラスでは俺たちの関係に注目が集まっていた。


「田中と水野、付き合ってるんじゃない?」


「最近いつも一緒にいるよね」


そんな噂が流れ始めた。正直、嫌な気分ではなかった。むしろ、そうなればいいのにとさえ思った。


でも、すずかはどう思っているんだろう?


「すずか、最近クラスで噂されてるけど、大丈夫?」


ある日の放課後、俺は思い切って聞いてみた。


「噂…ですか?」


「俺たちが付き合ってるって」


すずかは少し考えた後、小さく首を振った。


「別に気にしません。田中くんと一緒にいると楽しいですし」


「楽しい?」


「はい。今まで友達らしい友達がいなかったから…」


友達か。俺はちょっと複雑な気持ちになった。


その夜、いつものように魔物退治に向かった俺たちだったが、珍しく何も出現しなかった。


「今夜は平和ですね」


すずかは少し拍子抜けしたような表情を見せた。


「それはいいことだろう」


「そうですね。でも…」


「でも?」


「田中くんと一緒にいられる時間が短くなっちゃいます」


その言葉に、俺の心臓が跳ね上がった。


「すずか…」


「あ、変なこと言いましたね。ごめんなさい」


「いや、嬉しいよ」


俺は正直な気持ちを口にした。


「俺も、君ともっと一緒にいたい」


公園のベンチに座った俺たちの間に、甘い空気が流れた。


「田中くん…」


すずかが俺の方を見る。月明かりに照らされた彼女の顔は、とても美しかった。


「俺…」


何かを言いかけた時、突然すずかの表情が変わった。


「魔物の反応…とても大きいです」


空気が一変した。どこか遠くから、不気味な咆哮が聞こえてくる。


「今度のは相当強そうだな」


「はい。でも…」


すずかは立ち上がると、俺の手を握った。


「田中くんが一緒なら、きっと大丈夫です」


その温かい手のぬくもりに、俺の決意は固まった。


## 第七章 最大の試練


現れたのは、今までで最も巨大な魔物だった。ビルほどもある龍のような姿をしており、全身から邪悪なオーラを放っている。


「古代竜の怨霊…なぜこんなものが」


すずかの顔は青ざめていた。


「やばいのか?」


「祖母から聞いた話では、数百年に一度現れる最強クラスの魔物です。一人の魔女では…」


竜は俺たちに気づくと、巨大な口を開けて炎を吐いた。


「うわあ!」


俺たちは慌てて建物の陰に隠れた。アスファルトが溶けるほどの高温の炎だった。


「すずか、無理しちゃダメだ。逃げよう」


「でも、このまま放っておいたら街が…」


すずかの責任感の強さに、俺は胸が痛くなった。こんな危険な相手と戦わせるわけにはいかない。


「俺が囮になる。その間に逃げてくれ」


「そんなこと、できません!」


「でも…」


「田中くんを置いて逃げるなんて、絶対にできません」


すずかの瞳に、強い意志が宿っていた。


「一緒に戦いましょう。二人なら、きっと」


俺は彼女の覚悟に応えることにした。


「わかった。でも、絶対に無理はするな」


「はい」


俺たちは作戦を立てた。俺が竜の注意を引きつけている間に、すずかが最大級の魔法を放つ。シンプルだが、今の俺たちにできる最善の策だった。


「行くぞ!」


俺は近くの工事現場から鉄パイプを数本拾い、竜に向かって投げつけた。


「こっちだ、でかいの!」


竜は俺の方を向き、再び炎を吐いた。間一髪で避けたが、熱風で髪が焦げそうになった。


「田中くん!」


すずかが心配そうに叫ぶ。でも、今は集中してもらわなければ。


「大丈夫だ!魔法に集中しろ!」


俺は必死に竜から逃げ回った。建物から建物へ、車の陰から電柱の後ろへ。何度も死にそうになったが、すずかのためと思うと頑張れた。


「準備できました!」


すずかの声が聞こえた。振り返ると、彼女の周りに巨大な魔法陣が浮かんでいる。


「すべての光よ、我に集いて邪悪を滅ぼさん…アルティメット・シャイニング!」


これまでで最も眩い光が放たれた。竜は苦しそうに身をよじったが、完全には倒れない。


「まだ足りない…」


すずかは膝をついた。相当な魔力を消耗したようだ。


竜は怒り狂い、すずかに向かって突進してきた。


「すずか!」


俺は考えるよりも先に体が動いていた。すずかの前に立ちはだかり、両手を広げる。


「田中くん、危険です!」


「大丈夫だ!」


俺の中で何かが弾けた。すずかを守りたいという想いが、体中を駆け巡る。


その時、俺の体から淡い光が放たれた。


「え?」


竜の爪が俺に迫った瞬間、光の障壁が現れて攻撃を防いだ。


「田中くん…その光は…」


「わからない…でも…」


俺は直感的に理解した。この力は、すずかを守りたいという想いから生まれたものだ。


「すずか、もう一度だ!俺の力も合わせて!」


「はい!」


すずかは立ち上がると、俺の手を握った。二人の力が一つになる感覚があった。


「光と愛の力よ、すべてを浄化したまえ…デュアル・ピュリフィケーション!」


俺たちの合体魔法が竜を包み込んだ。今度は完璧だった。竜は光に包まれると、静かに消滅していった。


「やった…」


俺たちは抱き合って喜んだ。でも、その直後にすずかが倒れ込んだ。


「すずか!」


「大丈夫…少し疲れただけです」


俺は彼女を抱きかかえた。月明かりの下で、すずかの顔はとても美しく見えた。


「田中くん…」


「何だ?」


「ありがとうございます。あなたがいてくれて、本当によかった」


その言葉に、俺の胸は熱くなった。


「俺こそ、すずかに出会えてよかった」


二人の顔が近づいていく。このまま…


でも、すずかは急に顔を赤らめて俯いてしまった。


「あの…私たち…」


「ああ…」


何となく気まずい空気になってしまった。でも、嫌な感じではなかった。


## 第八章 想いの告白


古代竜を倒した後、街には平和が戻った。しばらく魔物が現れないので、俺たちの夜の活動はお休みになった。


でも、学校では俺とすずかの関係はさらに深まっていた。もはや恋人同士のように見えると、クラスメイトたちは公然と言うようになった。


「田中、告白したのか?」


親友の佐藤が昼休みに聞いてきた。


「まだだよ」


「まだって、お前らもう恋人みたいじゃん」


確かにその通りだった。俺とすずかは毎日一緒に過ごし、お互いを深く理解し合っている。でも、まだ正式に気持ちを伝えていなかった。


「なんか、タイミングが…」


「タイミングって何だよ。好きなら素直に言えばいいじゃん」


佐藤の言葉は正論だった。でも、俺にはすずかとの特別な関係があった。魔女であることを知っているのは俺だけ。その秘密を共有する仲だからこそ、軽々しく告白していいものか迷っていた。


その時、すずかが教室に入ってきた。


「田中くん、お疲れさまです」


「おう、すずか」


いつものように自然な挨拶を交わす。でも、最近は彼女を見るたびに胸がドキドキした。


「今日の放課後、少しお時間ありますか?」


「もちろん」


すずかと二人きりで話す時間。もしかしたら、今日が告白のチャンスかもしれない。


放課後、俺たちは屋上で待ち合わせた。夕日が空を染めて、とてもロマンチックな雰囲気だった。


「田中くん、この前のことですが…」


すずかが口火を切った。


「古代竜との戦いの時、あなたから光が出ましたよね」


「ああ、あれか」


あの時の不思議な体験は、今でも鮮明に覚えていた。


「調べてみたんです。どうやら、強い想いを持つ人間が魔女と心を通わせると、一時的に聖なる力を使えることがあるそうです」


「へえ、そうなのか」


「つまり…」


すずかは頬を染めながら続けた。


「田中くんが私のことを…大切に思ってくれているからこそ、あの力が」


その言葉に、俺の心臓は激しく鼓動した。


「すずか…」


「あの…私も…」


すずかは俯きながら、小さな声で続けた。


「田中くんのことが…好きです」


ついに聞けた言葉だった。俺の胸は喜びでいっぱいになった。


「俺も好きだ、すずか」


「田中くん…」


すずかが顔を上げる。その瞳には涙が浮かんでいた。


「本当ですか?」


「本当だ。君と出会えて、君の秘密を知って、一緒に戦えて…俺の人生で一番幸せだ」


俺は彼女の手を握った。


「これからも、ずっと一緒にいてくれるか?」


「はい…ずっと」


夕日を背景に、俺たちは初めてのキスを交わした。甘くて、温かくて、幸せな瞬間だった。


## 第九章 新たな脅威


俺とすずかが正式に恋人同士になってから、一ヶ月が過ぎた。学校でも堂々と付き合いを公表し、クラスメイトたちからは「お似合いのカップル」と言われるようになった。


魔物の出現も相変わらず少なく、平穏な日々が続いていた。でも、そんな平和は長くは続かなかった。


「田中くん、大変です」


ある日の夕方、すずかが慌てた様子で俺に連絡してきた。


「どうした?」


「複数の魔物反応があります。しかも、今までにない強さです」


俺は急いで待ち合わせ場所に向かった。すずかはもう魔女の姿に変身して待っていた。


「状況は?」


「街の各所に魔物が現れています。でも、これは偶然ではありません」


すずかの表情は深刻だった。


「誰かが意図的に召喚している可能性があります」


「魔物を召喚?そんなことができる奴がいるのか?」


「悪しき魔法使いや、魔女の力を悪用する者なら…」


その時、俺たちの前に人影が現れた。黒いローブを纏った謎の人物だった。


「ほう、この街の魔女はまだ子供か」


低い男の声が響いた。


「あなたは…」


すずかが警戒の構えを取る。


「私は闇の魔法使い、黒崎と名乗っておこう」


黒崎と名乗った男は、フードを取った。中年の男性で、邪悪な笑みを浮かべている。


「この街の魔力が欲しくてな。邪魔な魔女には消えてもらおう」


「この街を狙うなんて、許しません!」


すずかは杖を向けたが、黒崎は余裕の表情を崩さなかった。


「小娘一人で私に勝てると思っているのか?」


黒崎が呪文を唱えると、周囲に複数の魔物が現れた。狼型、鳥型、蛇型…様々な形の悪霊が俺たちを囲む。


「すずか、これはやばいぞ」


「でも…逃げるわけにはいきません」


すずかの勇気に、俺も覚悟を決めた。


「わかった。今度も一緒に戦おう」


「田中くん…」


俺たちは背中合わせに立った。多勢に無勢だが、諦めるわけにはいかない。


「行くぞ、すずか!」


「はい!」


戦いが始まった。すずかが光の魔法で魔物を牽制し、俺が物理攻撃でサポートする。いつものコンビネーションだったが、敵の数が多すぎた。


「くっ…」


すずかの魔力が底を尽きかけている。俺も疲れ果てていた。


「ふはは、所詮は子供の遊びか」


黒崎が嘲笑する。その時、俺の中で何かが燃え上がった。


すずかを、この街を、守らなければならない。


「絶対に…負けるものか!」


俺の体から再び光が放たれた。今度は前回よりもずっと強い光だった。


「なに?」


黒崎が驚愕の表情を見せる。


「田中くん、その力…」


「わからない…でも、今なら…」


俺はすずかの手を握った。二人の力が共鳴する。


「行くぞ、すずか!最大の魔法だ!」


「はい!愛と希望の力よ、すべてを照らしたまえ…エターナル・ライト!」


俺たちの合体魔法が炸裂した。眩い光が街全体を包み込み、すべての魔物を浄化していく。黒崎でさえ、その光には抗えなかった。


「馬鹿な…こんな力が…」


黒崎は光に包まれると、悲鳴を上げて消滅した。


「やった…」


俺たちは抱き合った。また一つ、大きな危機を乗り越えることができた。


「田中くん、あなたの力はどんどん強くなっています」


「すずかと一緒だからだよ」


俺は彼女の頬に手を添えた。


「君を守りたいという気持ちが、俺を強くしてくれる」


「私も同じです。田中くんがいてくれるから、頑張れます」


夜空に星が輝いていた。俺たちの愛が、この街を守る力になっている。


## 最終章 永遠の誓い


黒崎との戦いから半年が過ぎた。俺たち高校三年生は、進路について真剣に考える時期になっていた。


「田中くん、大学はどうしますか?」


ある日の昼休み、すずかが尋ねてきた。


「まだ決めかねてるんだ。君はどうする?」


「私は…この街を守り続けたいので、地元の大学を考えています」


すずかの答えは予想通りだった。彼女にとって、魔女としての使命は何よりも大切なものだ。


「じゃあ、俺も同じ大学を受験しようかな」


「え?」


「だって、君一人にしておけないだろう」


すずかの顔がぱあっと明るくなった。


「本当ですか?」


「本当だ。これからもずっと、君のそばにいたい」


俺の言葉に、すずかは嬉しそうに微笑んだ。


それから俺たちは一緒に勉強に励んだ。魔物退治の合間を縫って、参考書とにらめっこする日々。大変だったが、すずかと一緒なら何でも頑張れた。


受験の日、俺たちは同じ大学を受験した。結果は…二人とも合格だった。


「やったな、すずか!」


「はい!一緒の大学に通えます!」


俺たちは抱き合って喜んだ。新しい章の始まりだった。


大学生になった俺たちは、より自由に行動できるようになった。アルバイトを始め、デートも増えた。でも、魔女としての活動も続けていた。


「最近、街が平和すね」


ある夜、パトロール中にすずかが言った。


「それはいいことだ。君の力で街が守られている証拠だよ」


「私たちの力、ですね」


すずかは俺の手を握った。


「田中くんがいなかったら、私一人ではここまでできませんでした」


「俺も同じだ。君に出会えて、本当の自分を見つけることができた」


星空の下で、俺たちは歩き続けた。もう高校生の頃のような危険な戦いはないかもしれない。でも、それでも俺たちは一緒にいる。


「田中くん」


「何だ?」


「ずっと、ずっと一緒にいてくださいね」


「当たり前だ」


俺はすずかの手を強く握り返した。


「君が魔女である限り、俺は君のパートナーでいる。それが俺の使命だ」


「使命…ですか?」


「いや、違うな」


俺は立ち止まって、すずかの方を向いた。


「使命じゃない。俺の願いだ」


月明かりの下で、すずかの瞳が潤んだ。


「私も…田中くんと一緒にいることが、一番の願いです」


俺たちは再びキスを交わした。高校生の頃よりも深く、大人っぽいキスだった。


それから数年後、俺たちは結婚した。すずかは魔女として街を守り続け、俺はその最高のパートナーとして彼女を支え続けた。


子供が生まれた時、その子にも魔力の素質があることがわかった。


「次の世代に力を受け継ぐのね」


すずかは赤ちゃんを抱きながら言った。


「でも、この子は一人じゃない。俺たちがついている」


「そうですね。家族みんなで、この街を守りましょう」


俺の腕の中で、妻と子供が幸せそうに微笑んでいた。


あの日、偶然すずかの秘密を知ったことから始まった俺たちの物語。今では、それが運命だったと確信している。


地味だと思われていたクラスメイトが、実は街を守る魔女だった。そして俺は、彼女の一番の理解者になることができた。


これからも俺たちは一緒に歩んでいく。愛する人を守るために、愛する街を守るために。


そして何より、この幸せな日常を守るために。


俺のクラスメイトの地味子は、夜になると街を守る魔女だった。でも今では、俺の最愛の妻である。


【完】


---


## エピローグ 十年後


「パパ、今夜も魔物退治?」


十歳になった娘の美月が尋ねてきた。彼女にも母親譲りの魔力が宿っている。


「そうだな。ママと一緒に街をパトロールしてくる」


「私も一緒に行きたい!」


「まだ早いよ。もう少し大きくなったらね」


すずかが優しく娘を諭す。


「でも、美月ちゃんもきっと立派な魔女になるわ」


「ママみたいに?」


「ママよりもっと強くなるかもしれないね」


俺は娘の頭を撫でた。


「でも、一人で戦う必要はない。きっと君にも、ママみたいに大切なパートナーが現れるから」


「パパみたいな?」


「そうだな。君を理解してくれて、一緒に戦ってくれる人が」


美月は嬉しそうに笑った。


その夜、俺とすずかは久しぶりに街をパトロールした。最近は平和が続いているが、油断は禁物だ。


「あの頃を思い出しますね」


すずかが懐かしそうに言った。


「高校生の頃か。あの時は毎日が必死だった」


「でも、楽しかったです。田中くんと秘密を共有して、一緒に戦って」


「今でも楽しいけどな」


俺は妻の手を握った。


「これからも、ずっと一緒だ」


「はい。永遠に」


星空の下で、俺たちは微笑み合った。


愛する家族と、守るべき街がある。これ以上の幸せはない。


俺のクラスメイトだった地味子は、今でも夜になると街を守る魔女である。


そして俺は、今でも彼女の一番のパートナーでいる。


これからもずっと、永遠に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺のクラスメイトの地味子は、夜になると街を守る魔女らしい トムさんとナナ @TomAndNana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ