第9話

第9話


「誰もいない…よね?」


ロゼは辺りを見回しながら、そっと家の外に出た。

村は闇に染まり、木の葉の間から差し込む月明かりが道を照らす夜。


ロゼは誰にも気づかれないように、どこかへ走り出した。

彼女の唇は緊張で乾ききっていたが、気を緩めることはできなかった。


彼女が向かった先は、セイラと会った後、彼女についていく直前にこっそりと印をつけておいた木だ。

どうすれば他の人たちにバレずにイカロスに伝えられるか悩んだ彼女は、木の皮を少し切り、そこに印をつけてから覆っておいたのだ。


「どうか、イカロス様が見つけてくれますように…!」


自分で考えてもかなり精巧に隠した印だと思っていたので、ロゼは見つけられないのではないかと気が気ではなかった。

しかし、それは杞憂だった。


「わあ!」


自分が印をつけた木の皮をそっと開けてみると、そこには別の人が刻んだ印があった。

この印の主は、間違いなくイカロスだ。


「やっぱりイカロス様だ…!」


彼女は鼻歌を口ずさみ、自分が来た道を見つめた。


「よし…」


そして、ゆっくりと村の方へ歩きながら、短剣で木に一つずつ線をつけていく。

この印も見つけたのなら、きっと他の印も見つけられるはず。

このまま村までずっと印を繋げておけば、イカロスは十分についてこられるだろう。


残るは、見つからないようにするだけだ。


「褒めてくれるかな…」


今回の件が成功すれば、イカロスとレモトリアに褒めてもらえると思うと、恥ずかしくもあり、嬉しくもあり、気分よく短剣で印をつけていた、その時。


「ロゼ、ここで何してるの?」


木の上から声が聞こえた。

顔を上げて木の上を見ると、そこにはセイラが座ってこちらを見つめていた。


「あ、その…ちょっとトイレで外に出たら、道に迷っちゃって…」


気まずそうに笑いながら後頭部を掻いて話すロゼの言葉に、セイラは答えた。


「トイレに行く子が、どうして短剣なんて持ってるの?」

「もしクリープが現れたら危ないから…」

「他のヒューマンに印をつけようとしたんじゃなくて?」


ロゼはセイラを見つめ、ごくりと唾を飲み込んだ。

セイラの鋭い視線が月明かりにきらめき、ロゼの胸を突き刺す。


「ち…違うよ!私はもうヒューマンとは…」

「はあ…だから私は、ヒューマンの子なんて受け入れるべきじゃなかったのに…」


セイラの言葉にロゼは戸惑い、彼女に尋ねた。


「それって…どういうこと?私、よく分からないんだけど~…」

「分からないなら、分かるようにしてあげないとね」


セイラは背中に背負っていた弓を取り出し、腰に差した矢筒から矢を抜き、弦を引き絞る。


「お…お姉ちゃん…!」

「誰があんたのお姉ちゃんだって?汚らわしいヒューマンのくせに」


そう言うと、弦を放つ。


プスッ。


素早く飛んだエルフの矢がロゼの足を貫き、ロゼは恐怖に震えながら泣きそうな顔でセイラを見つめる。


「お姉ちゃん…助けて…お姉ちゃん…!」

「死ね」


そう言って、もう一本の矢を取り出し、弦を引き絞るセイラ。

そして彼女が弦を放った瞬間、エルフの矢が速いスピードでロゼの胸に向かって飛んでいく。


カキンッ。


しかし、その矢はロゼの胸には届かなかった。


セイラの眉がぴくりと動く。


「おかしいな。私が知る限り、エルフは人を殺せば堕落するはずなのに…」


その場に立っていたのは、一人の男性。

ロゼに殺せと命じた男、イカロスだった。


***


ゲームでは、敵が村の近くにいれば赤いアイコンで表示され、攻撃されている兵力がいれば音でアラームが鳴る。


この世界はHoWの世界。

幸いにも、そのシステムは忠実に実装されている。


`「味方が攻撃されています」`


音ではなく、通知ウィンドウで表示されるのが少し気になるが。


「イカロス様…!」


ロゼは涙ぐみ、やがて泣き出してしまった。

まだ幼い子供だ。

大人の男でさえ、自分が死ぬかもしれないと思った時には恐怖で涙を流すのに、幼い子供がここまで耐えただけでも大したものだ。


「レモトリア」


羽ばたく音と共に、空からレモトリアが降りてくる。


「この辺りにいるエルフは、あの女一人です」

「そうか。分かった。お前はロゼを連れてデロスへ行け」

「いえ、私がかの者を殺しますので、イカロス様はロゼを連れてお戻りになり、お休みください」

「はあ…」


俺が何度も言ったのに、レモトリアは覚えていないようだ。


「レモトリア。俺が何と言った?」

「は…?」

「エルフは殺してはならないと、何度も言ったよな?」

「あ…!」


レモトリアは思い出したように目を見開き、頷く。


「はい」

「早くロゼを連れて戻れ」

「いえ、私が殺さずに生け捕りに…」

「同じことを何度も言わせるな」


俺にも忍耐というものがある。

同じことを何度も繰り返させられると、かなりイライラする。


俺の感情を感じ取ったのか、レモトリアは少し怯えた目で戸惑い、すぐに膝をついた。


「は…はい…」


そう言うと、すぐにロゼを連れて消える。


静まり返った森。

エルフの女性が目を細めて俺を見つめる。


「今回で二度目だよな?俺たちが会うのは」

「私は会った覚えはないけど?」

「まさか。俺と目をしっかり合わせたじゃないか」


ロゼが俺を攻撃した時、木の上からこっそり見ていた奴だ。

どういうわけか、しらを切っている。


「ロゼに俺を殺せと命じたの…お前だろ?」

「だとしたら?復讐でもしに来たの?」

「復讐?俺がなぜ?ここで怪我をしたのは、お前が攻撃したロゼだけじゃないか」


エルフは眉をひそめる。


「お前の民が怪我をしたんだろう?ヒューマンの王であるお前が復讐に来るのは当然じゃないのか?」

「王がそんなに暇だと思うか?民が怪我をするたびに、いちいち復讐に来るなんて」

「だとしたら…ここまで何をしに来たんだ?」


俺が来た理由は一つ。


「お前たちを説得しに来た」

「説得…?」

「ああ。俺の国、デロスに入れという説得をな」


エルフの顔が歪む。


「クソみたいなヒューマンの奴が、何を言ってるんだか」

「落ち着いてよく聞け。俺の提案は、お前たちにとっても得になるから」

「得になるって?」

「ああ。だが、この得になる提案を、一介のエルフの住民にいちいち話すのはちょっとな。お前の村の代表…そう、エルダーにだ」


エルフの瞳が大きくなる。

おそらく驚いたのだろう。

他の種族とは違い、エルフは基本的に他の種族に姿をあまり見せないというコンセプトを持っている。

だから、彼らの文化を知っている種族はごく少数だ。

それなのに俺は、エルフの村の代表である村長を、彼らが呼ぶやり方であるエルダーと呼んだのだ。


あのエルフの女は、「こいつ、何者だ?」と思っているに違いない。


「わ…私がそうしたからって、私たちの村まであんたを案内すると思う?」

「悪いが、すでにお前たちの村がどこにあるかは知っている」

「な…?」


今、俺のマップにはエルフの村が表示されている。

レプレス・フォレストにあるエルフの村の名前。


「メルタトリ村」


エルフの目が再び大きくなり、顔に反感が現れる。


「どうやって突き止めたの?!」

「それを俺が言う理由があるか?」


最初は違ったが、今はロゼも俺の民だ。

民が行った場所は、俺のマップに記録される。


俺がたいして心配していなかった理由も、まさにこれだ。


「で、どうする?お前がここで俺に殺されて、村を全滅に導くか?それとも、お前が自ら俺とエルダーの面会をセッティングして、平和的に終わらせるか?」

「くっ…」


このエルフの女に、もはや対話の主導権はない。

残されたのは、皆を死に導くか、それとも少しでも生き残る方法を模索するか。

二つのうち一つを決めろと言われれば、当然、後者を選ぶだろう。


「ちくしょう…」


エルフは地面に降り立ち、背を向けた。


「ついてこい」

「本当にありがとう。友よ」

「誰があんたの友達だ」


かなり気難しい奴だな。


***


深夜だというのに、エルフの村人たちが皆、外に出ている。

その理由は、まさに俺のためだ。


ある者は怯えた表情で俺を見つめ、ある者は歯を食いしばり、怒りに満ちた表情で見つめている。

彼らにとって俺は、異邦人であり、村に招かれずにやって来た不審者。

当然、好かれるはずがない。


「お前か。私と話がしたいという者は」


俺に向かって、一人の男が近づいてくる。

短髪を後ろで束ね、長い髭を蔓で何度か巻き、白い衣服を身に着けている中年の男性。


「エルフにしては少し年上に見えるな」

「エルフは1500歳から中年期に入る」

「ああ、そうか」


ゲームにはない設定だ。


「じゃあ、少し中に入って話でもできないか?」


エルダーは目を細めて俺を睨みつけ、ため息をついて目を閉じ、背を向けた。


「ついてこい」


***


木の内部をくり抜いて作られた、広大な空間。

部屋やベッドのようなものはなく、円卓に木の椅子があることからして、どうやらここは居住区ではなく、会議室のようだ。


「ヒューマンが、ここに何の用だ?」

「あの女の子が言わなかったのか?」

「セイラなら、お前が来た理由については話した。だが、お前の口から直接聞きたい」

「石頭だな」


俺の口から聞きたいというのだから、ひとまずはもう一度言わなければならないだろう。

もちろん、まだ話していない理由まで含めて。


「抗議しに来た」

「抗議…?」

「ああ。ヒューマンを使って、俺を殺そうとしたことに対する抗議だ」


エルダーの視線がセイラに向かうと、さっきのエルフの女性は慌てて視線をそらし、口笛を吹く。


「どうやら、私の娘が命じてもいないことをしたようだが、それについては謝罪しよう」

「当事者から直接、謝罪を聞きたいんだが」

「セイラ」

「は…?」

「早く来て謝れ」


セイラは慌てて俺の方へ来ると、やがて歯を食いしばり、頭を下げて謝罪する。


「ごめん」


そうすると、素早く再び後ろへ下がる。


「これでいいか?」

「まあ、誠意がこもっているようには見えないが、構わないさ」

「では、もう帰れ。お前はこの村で歓迎されないヒューマンだからな」

「それは無理な相談だろうな」

「何?」

「まだ用件が残っているんだ」


エルダーは眉をひそめて俺を睨みつける。


「セイラが言っていた…あの話か?」

「ああ。そうだ」


テーブルに身を寄せ、笑いながらエルダーに言った。


「お前たちが、俺の民になってほしいんだ」

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目覚めたらRTSゲームの中でした〜全ユニットを使えるチート能力で建国します〜 極東エビ @arcadia9909

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