嫌いで終わる花

仁木一青

第1話(完結)

 小学生のころ、なぜか急に花占いが流行ったときがあった。


 女の子たちが校庭の隅や通学路で、白や黄色の小さな花びらをちぎっては「好き、嫌い、好き、嫌い」と唱えている光景がいたるところで見られた。


 私は、自分ではやらずに花を探す係ばかりやっていた。

 友達に「いい花を見つけてきて」と頼まれると、適当な花を持っていく。


 このときばかりは、普段は話しかけもしない嫌いな子にも、「これ使いなよ」と笑顔で花を渡してあげていた。クラスメイトたちは急に親切になった私に驚いていたかもしれない。


 ただ、これには理由がある。

「好き」「嫌い」と花びらをちぎっていく花占いで、必ず「嫌い」で終わる花を探すのが得意だったのだ。花を見つけた瞬間、「これは好きで終わるからあの子に持っていこう」、「これは嫌いで終わるから摘むのはやめておこう」とわかってしまう。


 もちろん、憎たらしい子には嫌いで終わる花を渡していた。その子の占いが「嫌い」で終わると知りながら無邪気な顔で見守るのが、私のささやかな楽しみだった。


 そんなある日、理科の授業で植物について習った。

 同じ種類の花は、必ず同じ枚数の花びらをつける。


 それはおかしい。


 前に見つけたときは「好き」で終わる花だったのに今日もう一度同じ種類の花を摘んでみたら、今度は「嫌い」で終わる。そういうことが何度もあったからだ。

 でも、特に熱心な生徒ではない私は深く考えなかった。


 嫌いで終わる花の探し方にはコツがある。花の種類によらず、どういう場所で花を摘むと「嫌いで終わる花」になるか、何度も探しているうちに感覚的にわかってきたのだ。


 特に、道路の交差点の近くに落ちている花であれば必ず「嫌いで終わる花」になる。花の色は白が多かった。


 いまならわかる。

 あれは献花だった。


 どういうわけか、私が「嫌いで終わる花」を探していると見つけることができるのだ。

 事故で亡くなった人へ捧げた花が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嫌いで終わる花 仁木一青 @niki1blue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ