第3話 氷の姫と下校
(……クソッ!緑茶かよ!)
七瀬は紅茶のペットボトルを両手で包み、
無表情のまま一口飲む。
「ごめん、何がいいか聞けばよかった」
「くれるだけ嬉しいよ」
「……ならよかった」
(よかったのか悪かったのか分かんねぇな)
クエストは失敗だった。
でも、嫌そうな顔をされなかっただけで、
俺的にはありがたい。
―――
商店街の通りを二人で歩く。
八百屋のおじさんの威勢のいい声や、
パン屋から漂う甘い香りが混ざり合う。
(ていうか、七瀬って家こっち方面なのか)
いやはや、俺もこっち方面で良かった。
真反対なら死んでましたよ。
「家、こっちの方なの?」
「へっ?」
考えていたことを言われて、
思わず変な声が出てしまう。
「違かったら、申し訳ないなって」
「俺から誘ったし…てか、俺もこっちだよ」
「なら、良かった」
(本当に氷の姫か?)
俺はずっと、玉砕してきた男子を見てきたが…
本当に氷の姫なのか分からなくなってきたな
「……ちょっと寄っていい?」
「どこに?」
「本屋」
彼女が指差した先には、書店だった。
(俺もたまに行くとこじゃん)
「よく行くのか?」
「……まぁ、たまに」
「学校の帰りに?」
「そう」
短い会話でも、何故だか気まづく無い
むしろ、この空気が心地よかった。
ドアを押して中に入ると、ふわっと漂う紙の匂い。
静かなBGMが流れ、
平積みの新刊や雑誌が入り口近くに並んでいる。
七瀬は迷いなく文庫コーナーに進み、
一冊の小説を手に取った。
「それ、新刊?」
「うん。シリーズの続き」
「へぇ……俺もこのシリーズ好きだぞ」
「……そうなの?」
少し意外そうに目を瞬かせる七瀬。
「新刊が出てるなんて知らなかったな」
「最近出た」
「この作者好きなんだよなぁ」
「……うん、分かる」
わずかに口角が上がる。
(俺も買おっと)
「…これ、面白そう」
(本の話題だと饒舌になるなぁ)
ふと視線を逸らすと、近くの棚に
自己啓発本が並んでいるのが目に入った。
(こういうの信じられないタイプなんだよなぁ)
「『3日で変わる自分改革』…ねぇ
3日後に変わってなかったら返品していいかな」
「……ぷっ」
七瀬が口元を押さえて笑った。
(え、笑った!?)
「そういうの、素直に信じる人もいるんだから」
「いや、俺も信じたいんだけどさ?3日は…」
「……確かに」
また少し笑う。
その笑顔は、いつもの彼女からは
絶対に見ることが出来ないものだった。
(…反則だろ)
思わず顔が熱くなる。
視線を逸らしたいのに、目が離せない。
「これ、買ってみる?」
そう言って彼女は面白そうに
『3日で変わる自分改革』を手に取る。
「買いません」
「ちょっと気になってきた」
「それはそう」
そんなこと会話をしながら、
レジへ向かう七瀬の後ろ姿を見て
こういう帰り道、悪くないなぁ〜と思う。
さっきまでクエストだの好感度だのと
頭を抱えていたのに、
今は自然に隣に立っていられる自分がいる。
「高ぁ…」
(高校生に急な出費はキツイ…)
店を出ると、外は薄暗くなっていた。
商店街の街灯がぽつぽつと灯り始め、
人通りは少し落ち着いている。
その時――
『ピコンッ!』
(うわ、来た!)
視界の中央に淡い光が広がり、
例のパネルが浮かぶ。
(いい感じで終わりそうだったのに!)
このままいい気分で帰らせてくれよ…。
【選択肢を選んでください】
①「明日、一緒に登校しない?」
②「昼ご飯一緒に食べようよ」
③「背後から抱きしめる」
(毎回1個はやべぇのあるな…)
今から抱きしめるってことだろ?
…あのな?話して初日やねん。
残り時間は――【7秒】。
(なんか短くなってねぇ!?)
急に現れた選択肢による俺の強制ラブコメ @Tatibanayume
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