第2話 Question 好きな飲み物は?

あの朝から、俺の精神はずっと警戒モードだった。

何しろ、何の説明もなく現れた謎の選択肢。

あんなの、次いつ来てもおかしくない。

(いや、来ないでほしいけどな!?)

仮に次が来ても、朝よりマシだろ

…マシ、だよな?てかマシであれ

そう固く願いつつ迎えた放課後。

下駄箱に向かっていたその時――

『ピコンッ!』

(…来てしまった)

例の電子音が脳内で鳴り響き、

視界のど真ん中に淡い光のパネルが浮かぶ。

【選択肢を選んでください】

① 七瀬結衣を下校に誘う

② 七瀬結衣に「手、冷たいな」と言いながら握る

③ 七瀬結衣に「今日、俺とデートしよう」と言う

(おいおい、さっきのはフラグかぁ!?)

神様…俺は貴方に何かしましたか……!

朝の時と同じ…もしくはそれ以上の選択肢

しかも右下には【残り時間:10秒】の文字。

(時間制限が分かるなんて良心的だぁ)

朝のときはテンパり過ぎて気づかなかったのか

流石に2回目だとまだ大丈夫だな。

(よし、今回は絶対に選ぶ!自分の意思で!)

俺は脳内で即席の損害予測会議を開く。

『裁判長!①がマシだと思います!』

『いや!③で…うん、無理だわ!③はなしで!』

『馬鹿か!②…いや!②はなしだ!』

結論――①が一番マシ。いや、消去法だけど。

ということで、俺は①を選んだ。

(俺の人生が終わるのはこっちだったか)

【① 七瀬結衣を下校に誘う を選択しました】

「七瀬…あのさ、一緒に帰らない?」

廊下の先を歩いていた七瀬が振り返る。

夕日が差し込んで、その黒髪がさらりと揺れる。

「……別にいいけど」

(え、OK!?即答!?)

七瀬のその一言に、俺の心臓は

「今までありがとう」と言いたくなるくらいに

バクバクしていた。

(マジで!?なんかもう逆に怖えよ!)

廊下の壁に映る俺の青ざめた顔を見たら、

自分でも笑いそうになった。

いや、笑ってる場合じゃねぇ。

「そ、そうか……じゃあ、一緒に帰ろう?」

口からこぼれた言葉は、どこか震えていた。

しっかたねぇだろぉぉ!?

こんな状況でテンパらない奴の方がおかしい。

(あぁ〜帰り道何話すんだよぉ……!)

そんなことを考えていると、

またあの忌まわしい電子音が耳に刺さった。

『ピコンッ!』

(おいおい!スパン短過ぎだろ!)

俺の周囲が淡く光り、

またしても文字が浮かび上がる。

【クエスト発生!】

《条件:七瀬の好きな飲み物を今すぐ手渡す》

あのぉ!…クエストってなんですかぁ!?

どれだけ鬼畜にすれば気が済んだクソが!

(好きな飲み物?聞いたことねえよそんなもん!)

今日初めて話したんだよ?知る訳なくない?

七瀬は俺の混乱などお構いなしに、

冷静に鞄を肩にかけている。

俺は歩きながら、自動販売機に目を向けた。

距離はざっと15メートル。

「ごめん、ちょっと飲み物買ってきていい?」

「うん、いいよ」

(落ち着け俺……間違えなければいいんだ)

自販機に着き、ラインナップをじっくり確認する。

紅茶、コーヒー、スポーツドリンク、期間限定…

(オワタ、種類多すぎやろ)

もうこうなりゃ運ゲーだ!

こんなのまともに考えてても意味なんかねぇ!

俺は選択肢に悩みつつも、紅茶を手に取った。

「ガコンッ!」

息を整えながら七瀬に缶を差し出す。

「……はい」

七瀬は缶を見つめてから、静かに受け取った。

「私の分も?」

「あ、あぁ…喉が渇いてるかなって」

(やべぇぇ!確かにそうじゃん!)

いきなり飲み物渡されたら困るわな

てか、クエストって完全に強制じゃん。

選択肢くんはまだ選ばせてくれたよ!?

(その分…難易度は低いってことか?)

いや、全然低くないっすけどね?

感覚がバグってるきてるぞ俺……。

「……ありがとう」

その瞬間、またあの音が鳴る。

『ピコンッ!』

【クエスト失敗:好感度変化なし】

《理由:七瀬の好きな飲み物は緑茶です》

(ふざけんなぁぁぁぁ!)




 

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