急に現れた選択肢による俺の強制ラブコメ
@Tatibanayume
第1話 ラブコメは唐突に
「……ねっむ」
教室の窓から差し込む朝日が、
俺の眠気を容赦なく刺激してくる。
思わず目を細め、机に突っ伏しそうになる。
(昨日の漫画、面白すぎた……)
読みふけっていたら午前2時を回っていて、
案の定、今朝は地獄のような目覚めだった。
体は重いし、頭はぼんやり。
「……でも俺は、長男だから耐えられる」
某長男のような意味不明な理論で、
自分を励ましながら、何とか意識をつなぎ止める。
(そうでもしないとやってられんのよ…)
『ピコンッ!』
「……ん?」
脳内に響くような電子音が突然鳴り、
視界の真ん中に、選択肢が浮かび上がった。
【選択肢を選んでください】
① 七瀬結衣に「何読んでるの?」と話しかける
② 七瀬結衣に「ゴミついてるよ」と髪に触れる
③ 七瀬結衣に「愛してる!」と叫ぶ
「……は?」
夢かと思った。あまりにも現実離れしている。
何度まばたきしても消えないその文字。
(なるほど……分からん!)
普通の女子ならまだなんとかなったが、
残念ながら対象は全部――「
七瀬結衣。
黒髪ストレートで、成績も運動も完璧。
けれど、口数は少なく常に一人で行動する
“近寄りがたいタイプ”
その冷ややかな雰囲気から、
男子たちからは「氷の姫」と呼ばれている。
俺…
七瀬とは入学以来、隣の席なのに会話ゼロ。
氷の姫に触れるなんて、
素手でドライアイスを掴むようなもんだ。
やったら俺の人生は終わる。…いや割とガチ
(本気でやれって言われたら終わるよ??)
俺がパニクって何も選ばずにいると、
目の前に新しい文字が浮かんだ。
【選択がないため、自動的に①が選択されます】
(おいバカ待てや!)
こういうのは、待ってくれるんじゃないの!?
これにすぐ適応できるとかどこの主人公だよ!
「あのさ……それ、何読んでるの?」
勝手に口が動いた。
俺の意思ガン無視。正直めっちゃ怖い。
(操られるってこういう感じなんやろな〜)
「…なに?」
(現実逃避の時間なんと数秒!)
ははっ、なんだこれ〜なんて鬼畜ゲー?
すぐ教えてくれ、めっちゃ批判するから
(あ〜人生っていうんだ)
七瀬がゆっくりと本から視線を上げ、
無表情で俺を見つめる。
その瞳はまるで冷たい氷の刃。
目が合っただけで、心臓が暴走モードに入る。
(トキメキ?…命の危機だよ)
「い、いつも本読んでるじゃん?気になって…」
(もはやここも操ってくれよ!)
やるだけやっておいて、
後のことは丸投げとか犯罪すぎる。
(お母さん、お父さん、今までありがと)
七瀬は視線を本に戻し、小さくつぶやいた。
「……ラノベ」
「ラノベ?」
まさか返事が返ってくるとは思わず、声が裏返る。
(ありがとう神……!)
いや待て、この現象ってもしかして神のせい?
やっぱ撤回するわ、小指ぶつけとけ
「うん。ラブコメ」
「えっ、ラブコメ読むんだ……」
「……ダメ?」
「いや、全然! むしろ、俺も読むし!」
(ラブコメ!?勝手にミステリーとかだと…)
「……意外」
(いや、そのセリフ俺のね?)
アンケートとったろか?100対0だぞ多分
「そうかな……?」
意外にも会話が続いていることに内心驚きつつ、
質問を重ねる。
「ラブコメって、どんなの読むの?」
「……クラスメイトが急に婚約者になるとか」
「あ〜、そういう設定、最近流行ってるよね」
「うん。ありがちだけど、好き」
その瞬間――七瀬の口元が、
ほんのわずかに緩んだ気がした。
氷のような彼女の表情が、少し柔らかく見える。
(な、なにこれ……距離、近くね?)
教室には先生が入り、授業の準備を始めていた。
ざわめきが静まり、日常が戻る……はずなのに、
俺の鼓動は落ち着かない。
選択肢。
突如現れた、意味不明で理不尽な現象。
恐怖でしかないけれど――
もしこれがなかったとしたら、
俺は七瀬結衣と話すことすらなかっただろう。
(でも許さんわ、髪の毛5本くらい抜けろ)
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