モラトリアム

天使って本当にこの世にいるんでしょうか?

第1話

僕の精神年齢は、十五歳で止まっているらしい。

そんな診断結果が届いたのは、木曜日の朝だった。


窓の外では、雲がゆっくりと均等に流れている。誰かが配置したように、きれいに並んでいた。

部屋の中は無音だった。テレビもラジオもつけていない。音は雑念を呼ぶから、社会福祉局は“沈黙環境”を推奨している。


封筒は灰色、無地。指先で封を切ると、中から一枚の紙がすべり出た。

感情指数:34%

論理耐性:91%

精神年齢:15.2歳(停滞)


どこかで見た数字だった。

この国では、二十歳を超えて精神年齢が18歳未満のままだと、「不適応予備群」として記録される。

何か特別なことがあるわけじゃない。職が見つかりにくくなったり、住宅ローンが通りにくくなったりするだけだ。


僕はもうすぐ28歳になる。

それなのに、十五のままだという。

十五といえば、母親が出ていって、父親が口を利かなくなった歳だ。


「……やっぱり。」


僕は紙を畳んで、静かにゴミ箱に捨てた。

変わらない。

この国は、僕の中身だけを見て判断する。僕が大人に“見える”かどうかなんて、誰も気にしていない。


だから僕はずっと、「大人のふり」をして生きている。

社会と話すときも、友達と会うときも、恋人と別れるときも。


まるで、自分じゃない誰かの人生みたいに。


「あれっ」


一枚だと思っていた紙は重なって一枚のようになっていただけで2枚だった


「は?!」


国家精神衛生局より通知

該当者は精神年齢安定値が基準下にあるため、

第4精神適応特別プログラムへの参加を命じます。


日時:2035年4月19日 午前9時

場所:記載の指定施設に集合

移動手段:迎車を派遣予定

備考:本命令は国家精神保全法 第42条に基づき強制力を持ちます


召集命令だろう


長い文に動揺してしまう


それにプログラム?精神保全法?

意味がわからなく

手元にある紙を眺めて動くことができなかった


これはただの診断なんかじゃなかったんだ


きっと意味があることなんだと俺は考えた

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