第十話 全ての価値は戯れ
かつて、画期的な技術があった。ブロックチェーンというもので、地球上のコンピュータというコンピュータに演算を分散させて、データの移動や変化を記録し、検証していこうというものだ。
それが登場するまでのデジタルデータは、カジュアルにコピーができることを旨としていた。OSすなわちOperating Systemも、何をオペレーティングするのかといえば、ほとんどが「コピー」だった。
ストレージからメモリーへコピーし、メモリーから出力装置へコピーする。そして人間の五感と脳で処理されて、今度は人間から入力装置を通じてメモリへ、そしてファイルへとコピーする。それを円滑にこなすのがOSの主な機能だった。
だからデジタルデータは、コピーされてしまうと人間が社会的に困る類いの、著作物や芸術作品とは決定的に相性が悪かった。
折衷案として、中央集権型の管理が流行した。音楽も、映画も、テレビゲームも、インターネットを通じて「正しいコピー」かどうかを確認してからプレイすることが主流となった。
社会が「コピー」との摺り合わせに躍起になっている中、ブロックチェーンとNFTの登場によって、デジタルデータは唯一無二のものであるという可能性を手に入れた。
現実世界と同様、唯一無二であるものを誕生させられるなら、それは価値だ。
これを虚妄と断じる学者もいた。現実の物体は、価格づけられて貨幣に変換される。貨幣は国家が社会制度や軍事力によって担保している。こういった裏付けのないデジタルデータを唯一無二だといってどこに価値が生まれるのかと。
だが歴史的に見ても、貨幣や権利など、デジタルデータ以前にも無数の「形のない物」がこの世界には存在してきた。概念に大事に名前をつけ、形として認識できるように規則と暴力で守り、地道に育ててきた。
デジタルデータがブロックチェーンによってようやくそのステージに上がったというだけだ。
形のない物が価値として認められるまで、それなりに時間がかかるものだが、数々の経験をしてきた人類にとっては簡単なことだった。
ブロックチェーン技術は活用法の一つとしてビットコインの姿を持ち、誕生時から数値としてわかりやすく可視化され、貨幣に置換された。
形のない物が社会に認識され、浸透したときに起こる事はただ一つ、ビジネスである。
案の定、高騰と下落を繰り返し、売買の中で富める者はより一層富み、貧しくなる者は広く薄く巻き上げられた。
――なぜこの画期的だった技術がいきなり終焉を迎えたのか。
なにしろ数百年前のことなので、本当の理由は知る由もないが……。
おそらく富める者たちが不老長寿になり、寿命という概念が無くなったので、長い人生を数字や価値で遊ぶことに費やすのをバカバカしいと考えるようになったのだろう、と伝えられている。
今? 適度に野性に還って適度な年齢で命を終わらせるというのが流行しているよ。
NFT小説 塩肉 @sionic4029
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