ルートⅣ 中山 新凪の手⑧

 私はどうやら可愛いらしい。


 自意識過剰とかそういうのではない。


 むしろ私自信は自分のことを可愛いだなんて思ったことはない。


 それも良くなかったのかもしれないのかな。


 だからって自分のことを可愛いと認めていたらいたで駄目なんでしょ?


 じゃあどうすれば良かったの?


中山なかやまさんさぁ、最近調子乗ってない?」


(始まった)


「男子が優しくしてくれるから自分のこと可愛いって思ってるのかもしれないけど、あれって中山さんがチョロそうだから優しくしてるだけだよ?」


 毎日わざわざそんなことを言う為に私の席の近くに来ないで欲しい。


 同じクラスの……なんとかさん。


「ほんと勘違い女って嫌だわ」


(ほんと筋違い女って嫌)


 この人の言う通り、私は男子から優しくされることがたまにある。


 最初は同じクラスのよしみで優しくされているのかと思ってたけど、どうやらその人は私のことが好きだったらしく不意に告白された。


 もちろん恋愛に興味がなかったから断ったけど、どうやらそれがいけなかったらしい。


 よくある話だけど、この人は私に告白してきた男子のことが好きで、自分ではなく私が告白されたことを勝手に恨んでいるみたいだ。


 ほんとにめんどくさい。


 私が告白を断ったのだからアプローチでもなんでもすればいいのに。


「全部図星だから何も言えないねぇ」


 笑いながらそう言った筋違い女は自分の席に戻って行く。


 言い返さないのは相手をするとめんどくさいのが分かってるからなのをそろそろ理解して欲しい。


 まあ、今のは可愛いもので、これから地獄が始まるのだけど。


「なんか、ごめんね。俺が告白なんてしちゃったから」


 私の隣の席に我がもの顔で座り、喋りかけてくる男こそ、私に告白なんてしてさっきの女が好きな男。


 私はちゃんと「ごめんなさい」と断った。


 なのにこの男ときたらその日からこうして寄って来ることが増え、あまつさえ私のことを心配するフリをして火に油を注ぎたがる。


 この男はおそらく私に告白をして断られたのが悔しいからずっとこうして嫌がらせをしている。


「あいつも懲りないよな。なんで中山なかやまさんに拘るのか」


(お前のせいだよブーメラン男)


 なんて直接言ったらこの男は私から離れてくれるだろうか。


 まあそんなことを言ったら今以上に私の学校での居場所が無くなるから言えないけど。


「やっぱり俺が言ってこようか?」


(自己中うざ)


 そんなことをしたら私が本格的にいじめられるのを分かって言っているのだろうか。


 そんなに私をこのクラスから排除したいなら直接言えばいいものを。


「よし、じゃあ言ってくるな」


 ということで、私の学校生活お先真っ暗になりました。


 それから色々あって、私は無事にいじめられ、明日から学校に行くのもやめようと思っていた。


 最初こそ無視していれば良かったけど、陰湿なものと悪質なものの二つを同時に毎日受けていたらさすがに折れた。


 そんな最後の日は学校だけでなく、放課後の帰り道にまであいつらはやって来た。


「お前らいい加減中山さんに関わるのやめろよ」


「私達は友達として仲良くおしゃべりしてるだけだよ?」


 帰りたい。


 そして二度と関わりたくない。


「お前らのせいで中山さんが毎日どれだけ苦しんでると思う」


(現在進行形でお前に苦しめられてるよ)


「そんなの分かんないよ。だってその子何も言わないし」


(言ったら余計にめんどくさいからだよ)


 私を残して無益な話し合いが続く。


 どうせ今日で最後なんだから全てぶちまけてみようか。


 まあそんなことができたら今こうしてめんどくさいことになって……ないこともないだろうけど。


 でもそこに、私の救世主は現れた。


「くだらない痴話喧嘩なら家でやれ」


 たった一言。


 それだけ言って男の人、先輩は去って行った。


 全員が唖然呆然してる中、私は言った。


「その人、あなたのことが好きみたいですよ」


 私も先輩の真似をして一言言って立ち去った。


 もしかしたら先輩に追いつけるかもと思ったけど、それから先輩に会えることはなかった。


 もう行く気がなかった学校だけど、先輩に会えるかもしれないからという一心で行っていた。


 そういえばその日を境にあの二人は私に関わってくることをやめていたような気がする。


 今となってはどうでもいいけど。


 結局先輩と再会できたのは運命の巡り合わせ。


 中学三年生の時、制服姿の先輩をたまたま見かけ、その時も先輩に追いつけなかった。


 でも私の進路はその時決定した。


 そして見事な高校デビュー。


 男の子が好きな女子を演じて先輩が興味を持ってくれるのを待った。


 中学の時はわずらわしかったはずの告白も増えたけど計画通りということ。


 後は先輩が私に気づいてくれるのを待てば……待てなかった。


 私は演じてる『にいな』が選ぶであろう手紙を用意して、『にいな』が書くであろう内容で手紙を書いた。


 そして結果は今に至る。


 最悪だった学校生活も、今では幸せです。

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ルートV 〜もしもその手を取ったなら〜 とりあえず 鳴 @naru539

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