ルートⅣ中山 新凪の手⑤

俺は中山なかやまさんを選んだ。


その理由はなんなのか。


可愛いから? そんなの他の四人だって可愛かった。


性格が良さそうだから? そんなの初対面(俺が覚えてない)のだから分かるわけがない。


何かシンパシーのようなものを感じたから? その時の俺に聞いてくれ。


総じて言えるのが、俺が中山さんを選んだ理由は俺には分からないということ。


「やっぱり先輩はにいなの可愛さが決めてだよね?」


「確かに中山さんは可愛い。だけどそれなら他の子も可愛かったし、多分それだけじゃないんだと思う」


「にいな以外の女の子を可愛いって言うのだめなの!」


怒られた。


正直な話、俺は『可愛い』とかよく分かってない。


正確には『顔の善し悪し』というのが分からない。


顔立ちが整っているというのはなんとなく分かるんだけど、それがイコール可愛いにならない気がする。


顔が良くても性格が悪い人間なんてこの世にごまんといる。


だから俺は相手のことを知るまで『好印象』を持てない。


「だから俺は中山さんに『何か』を感じて、それで手を取ったんだと思うんだよな」


「先輩の考え方を変えるぐらいにいなが可愛かったんじゃない?」


「可愛いね……」


何度見ても中山さんは可愛いと呼ばれるにふさわしい。


だけどやっぱりそれが少し引っかかる。


可愛い以外の何かがあるような……


「興味本位でしょ」


光留みる?」


一人リビングを出て行ったはずの光留が呆れ顔で入口に立っていた。


「興味本位とは?」


千景ちかげって変人だから」


「それで?」


「変人って言われたことに突っ込まないんだ」


中山さんに突っ込まれたが、俺が変なのは自覚あるし、今更そんなことを突っ込んだところで光留が相手にしてくれるわけがない。


「話戻すけど、千景って嘘が嫌いじゃん?」


「意味の無い嘘なら嫌いじゃないぞ」


「自分がするからね」


俺は嘘をつくのもつかれるのも好きではないけど、特に意味の無い、バレても誰も傷つかない嘘なら平気で言う。


善人だからとかそういうのではなく、ただ嘘をつかれたくないだけだ。


「嘘は嫌いなんだけど、相手を馬鹿にするのは大好きじゃん?」


「失礼な言い方やめなさい」


「騙せてるって思ってる相手の考えを全部理解してるんだけど、それでも騙し続けようとしてる相手に騙されてるフリするのが好きじゃん?」


「否定はしない」


光留の言ったことを簡単にすると、詐欺師をおちょくるのは楽しいってことだ。


実際にそういう本職相手にそんなこと出来る自信はないけど、俺は騙されてるフリをするのが癖になっているのかもしれない。


言い方を変えると、騙されてるのが分かってても何も言えないコミュ障。


「えっと、今の話を要約すると、にいなが先輩を騙してて、それが面白いからにいなと結婚の約束をしたってこと?」


「さりげなく結婚とか言ってる頭がお花畑の人が何か言ってるけど、少し違う」


「そこまで言われたら俺でも分かる。期待したってことだな、 に」


期待という言い方は少し違うかもだけど、俺は見たくなったんだと思う。


ずっと感じてはいた、中山さんが無理をしているような、自分を偽っているような感じが。


だけどそれは中山さんが隠してることだからと触れないでいた。


「だけどそれが理由なのか」


「それしかないでしょ。千景変人だし」


光留はそう言ってリビングの入口から離れて行く。


そしてまた俺と中山さんの二人になる。


真顔で「ばれてないばれてないばれてないばれてない……」と呟き続ける中山さんと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る