ルートⅣ 中山 新凪の手④
後輩女子と二人残された空間。
こういう時は男の俺の方から話を振った方のがいいのかもしれない。
だけどなんて話しかける。
俺にそんなコミュ力があれば今頃──
「先輩が思うにいなの可愛いところ教えて」
「杞憂ってこういうことを言うのかな」
俺のようなコミュ力皆無な男が何かを考えたところでどうせ何も浮かんでこないんだから相手の出方を伺っていればいい。
「きゆーって?」
「気にしないでくれていいよ。可愛いというか好きなところはそういうとこ」
「いきなり口説かれた! あ、でもにいなと先輩は一応恋人みたいなものだから今更か!」
とても嬉しそうで何よりです。
俺はうるさい人間は嫌いだけど、話しかけてくれる人はそんなに嫌いじゃない。
もちろん時と場合にはよるけど。
「とりあえずお互いのことを知るとこから始める?」
「にいなは先輩のことなんでも知ってるよ」
「じゃあ俺の好きな人は?」
「にいな! ……だよね?」
想像通りの反応をしてくれてありがとう。
自信満々の笑顔からの自信喪失の不安顔。
人の困る顔を見て喜んでるわけじゃない。
あれだ、ギャップ萌え。
「お互いのことを知るってまず何を話せばいいのかね」
「なんだかさりげなく話逸らされた?」
「気にしたら負けだ。中山さんは俺のことなんでも知ってるなら俺が聞くのがいい?」
「なんでも答えるよ! まずはスリーサイズ?」
俺をなんだと思っているのか。
それともスリーサイズを聞かせて俺からの貢ぎ物でも期待してるのか。
「中山さんはピンクが好きなの?」
今日の中山さんほ服の色は淡めのピンク。
最近の若者的に言うならパステルとか言うのだろうか。
「好きって言われると困るかな。別に嫌いってわけじゃないんだけど、強いて言うなら『中山 新凪はピンクが好き』って感じ?」
「中山 新凪はピンクが好き、か……」
答える気がない、わけではなさそうだ。
謎かけに近いのか、それとも俺に対しては嘘をつきたくないから本心が出てしまったのか。
それなら今の答えは嘘偽りない本心ということだけど、それはそれで分からない。
「深く考えないでいいよー。それよりも次の質問は?」
「じゃあずっと気になってたことを」
「ついににいなの成長途上のことを……」
「どこで俺と知り合って俺の何を好きになった?」
どうしてもこれが分からない。
五人の美少女から告白をされたわけだけど、さすがに全員が本気で俺のことが好きだなんて自惚れはない。
だけどその中で特に中山さんの理由が分からなかった。
他の四人はまだ同級生だから俺のことを知る可能性はあり、一人に関してはお隣さんだし。
「絶対にどこかで会ってはいるんだと思うんだけど、俺って記憶力皆無だからどうしても思い出せないんだよ。だから教えて」
「……」
まさかの無言。
何かしら言いにくい理由でもあるのか。
「言いたくないなら別にいいけど」
「言いたくないというか、先輩にはにいなが先輩を好きになった理由は言ってるよね?」
「一目惚れってやつ?」
確かに告白をされた時にそう言われたけど、何をどうしたら中山さんのような美少女が俺なんかに一目惚れをする。
俺なんて所詮モブBぐらいな雰囲気でしかないのに。
「正確に言うと一目惚れじゃないんだけどね」
「と言うと?」
「見た目も好きだけど、中身も好きってことだよ♪」
ウインクしながらそんなことを言われるが、それはつまり俺は中山さんとどこかで会っていて、その時に会話か何かをしてるということになる。
そして俺はその記憶が一切ない。
「なんかごめん」
「なにが?」
「覚えてなくて」
「別に気にしてないよ? それが先輩だし」
俺には元から期待なんてしてないということらしい。
自業自得だけど、自分の残念さが悲しくなってくる。
「それじゃあ次は先輩の番ね」
俺が一人で勝手に自責の念にかられていると、何か不穏な言葉が聞こえてきた。
「何がだ?」
「先輩がにいなを選んだ理由を教えて。ちゃんとにいなが納得するやつ」
中山さんからの期待の眼差しを受け、俺は必死に考える。
その先に待つのが『無』だったとしても。
それから数分、何も無い時間が過ぎていきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます