ルートⅣ 中山 新凪の手①

 五人から差し出された右手。


 その中から俺は選ぶ。


「よろしくお願いします」


「やっぱり先輩はにいなを選んでくれるよね♪」


 俺が手を取ったのは中山なかやま 新凪にいな


 五人の中で唯一の一年生で、一番接点が無い子。


 そんな本当の意味で初対面のような子を選んだ理由は……


「ロリコン……」


「怒らないから誰が今言ったか挙手」


「……」


 もちろん誰も手を挙げない。


 まあ、声と視線で眼帯少女なのは分かってるけど。


「一歳差をロリコンって言ったらこの世のほとんどがロリコンかショタコンだろうが」


「先輩、ただの嫉妬だから気にしたらだーめ」


 中山さんが俺の腕に寄り添うように抱きついてきた。


 あざとい。


「……今先輩、何もないって思ったよね?」


「何もないって……あぁ、別に?」


「やっぱり先輩も女は大きさだって思ってるんだ。それで言うと眼鏡先輩と金髪先輩と……」


 中山さんが原中はらなかさんに顔を向け、すぐに俺の腕に顔を埋めた。


 多分原中さんが少し怖いんだろう。


「原中さんって多分捨てられた子猫とか見つけたら話しかけるタイプだから可愛いよ?」


「んなことしねーわ。しても反撃されるだけなんだから」


 要するに一度やったことがあるということ。


 察した数人が原中さんに優しい目を送る。


「だから苦手なの。原中先輩が一番ギャップすごくて先輩を盗んでいきそうだから」


「盗まねーし。つーかそれならなんで怯えるんだよ」


「えっとぉ、威嚇のつもりだったんだけど、にいなが可愛いから怯えてるように見えちゃた?」


「あたしそいつ無理だわ」


 原中さんが俺を睨みながら言う。


 確かに原中さんと中山さんは性格が真逆で苦手意識を持ちそうではある。


「意外と話してみたら仲良くなるやつかな」


「もしそうでも話す気が起きない」


「原中先輩はにいなのこと……嫌い?」


「そういうとこがな」


 ニコニコ笑顔の中山さんと疲れたような顔の原中さん。


 やっぱりなんだかんだで相性が良さそうだ。


「もういいわ。疲れたからあたしは帰る」


「あ、帰るなら真面目な話。先輩は、その……」


 中山さんが俺の服の袖をいじりながら少しだけ怯えながら? 原中さんに声をかけた。


「……なるほどな。確かにあたしはあんたのあざといとこ嫌いだけど、それだけ。別にあんた自身のことは知りもしないから」


「つまり好き?」


「嫌いじゃないだけで好きじゃない」


「ツンデレ」


「言っとくけどあたしはあそこのアホと違って甘くないからな?」


 原中さんはそう言って眼帯さんこと北山さんに目を向ける。


 そして何かを察した北山さんはダッシュで逃げた。


「あんまりいじめないであげてね?」


「それはあいつ次第だろ。じゃあな、アホ」


 原中さんがそう言って歩き出す。


 もしかしなくても『アホ』とは俺のことか?


 失礼すぎて文句を言いたいところだけど、原中さんなりの気の使いからなんだろうから優しい目を送っておいてあげよう。


 それから少しして真中まなかさんと二葉ふたばさんも帰って行った。


 そしてその日はとりあえず中山さんと連絡先を交換だけして俺達も帰った。


 なんとなくいきなり「放課後デートしましょ!」とか言われると思っていたけど、さすがにそこまではしないらしい。


 なんにでも一直線なのかと思ったけど、俺はまだ中山さんのことを何も知らないようだ。


 だからこれから少しずつ中山さんのことを知れたら、なんで俺が中山さんを選んだのかも分かるかもしれない。


 なんて思っていたけど、中山さんのことを知る機会はすぐにやってくることを俺はまだ知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る